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2月下旬、害獣到来
しおりを挟む2月下旬、その日は突然起きた。
芽依はツヤツヤと輝く野菜の葉を撫でていた。
傍らには代車に乗った大きな箱、そこには採取したばかりの大根が並んで置いてある。
今回は辛みの少ない瑞々しい大根で、サラダに合いそうだ。
冬の素晴らしい豊作具合にホクホクと笑い、運ぶのが面倒になった芽依は箱庭に全て放り込んだ。
少し離れた所では茄子やピーマン、ミニトマト等がブリブリと膨らんでいて美味しそうだ。
ハストゥーレが収穫の手伝いに来てくれて、2人がかりで残りの収穫に勤しんでいると、ブーン……と嫌な音が聞こえてきた。
「……………………ん?虫?」
「いえ、違います……ご主人様、逃げましょう」
「え?ハス君?」
『おい!お前ら!!直ぐに入れ!!』
立ち上がり空を見るハストゥーレを見上げると、遠くにいるメディトークが足を鳴らして警戒し芽依達へとイガイガの字で伝えてくる。
「失礼いたします」
「わぁ!ハス君!?」
ガバっ!と抱き上げられ抱えられた芽依は、目を見開き振り落とされないようにくっつくと、空を覆い隠す程の黒い何かの群れを見た。
すぐに走り出したハストゥーレだったが、向かってくる何かは物凄い速さで芽依の庭に侵入してくる。
建物を触って何かを呟いているメディトーク、全ての工場や家屋が輝き保護されているのか、大群でくる何かが工場に当たっても跳ね返されるだけだった。
「……あれ、蝗……?」
『そうだ、今年はまた厄介なヤツがきやがったな』
すぐ真後ろまで来ていた蝗の群れが芽依を掠める瞬間、ハストゥーレが手で弾き吹き飛ばした。
そしてメディトークがいる建物に入ると、バチン!!と弾かれた沢山の蝗が一斉に庭に散らばって行く。
「…………気持ち悪……」
「大丈夫ですか?ご主人様……お休みになられますか?」
「…………大丈夫、ありがとう」
『しかし、蝗か……』
チラリとメディトークが見たのは家畜達。
すでに全員避難済みだが、建物に入っていなかったら蝗の餌になっていた所だった。
はぁ……と心底疲れた表情をするメディトークはどさりと座った。
「………………これが、害獣?」
「はい、庭を食い潰す2月に訪れる害獣です」
『今回雑食なのがまた面倒だ……市場が荒れるな』
現れる害獣は完全なランダムみたいで、同じのが連続で来る事もあれば、普段こないヤツが数百年ぶりに来て猛威を振るう年もあるのだとか。
この蝗は雑食で、特に肉を好み狙う傾向がある。
だから、蝗の群れを見たらいち早く保護された建物に入らなくてはならないのだ。
対処出来れば死にはしないがなにぶん相手は大群だ。
避難してしまった方が楽である。
そして、雑食らしく好みの肉が無ければ庭の物も食い尽くす勢いで動き回る蝗。
薬液とネットが効いてはいるけれど、執念深く探り体当してネットを破る姿に芽依は顔を引き攣らせる。
蝗だと思わなかったメディトークからしたら損害は予定よりも酷いようだ。
「………………これ、いつまで続くの?」
食われ続ける丹精込めて育てた子供のような作物達を絶望の眼差しで見る芽依。
ニアが好きだと言っていたぶどうにも被害があって胸がギュッとした。
「……平気は3日程です」
「3日……」
『何処まで薬液やネット、害獣対策の魔術が効くかで被害が大幅に変わるが……今回は厳しいな』
はぁ……と息を吐き出したメディトークが中に入って行くのを見送り、芽依は襲われているついさっき収穫したばかりの茄子やピーマン、トマト達を悲しい目で見ていた。
「これってドラムストだけ?」
「いえ、全国で発生します」
「全国……食料大丈夫なの?」
「現れる害獣によって収穫物の生き残りの数が毎年違うのです。去年は1割程の被害で収まったといいますが……蝗の被害は甚大なのです」
ネットを食い破り中に侵入する蝗。
作物を食い尽くす勢いで真っ黒になっている姿を見るのが辛くなり、芽依もメディトークの元へと向かった。
あまりにも予想以上の酷さに芽依は完全に閉口している。
そんな芽依に、ハストゥーレは甘い果実水を入れお茶請けに芽依お気に入りのバターブレットが並ぶ。
「私の大切なお野菜たちが……」
箱庭を出して見てみると、沢山のコミカルな蝗が、ネットを破いてぴこん!と喜びのビックリマークを出すと、まだ収穫には早い野菜に齧りついている。
野菜はギャン!と字が出て、その横に[まだ育っていないのに……]と出ている。
哀愁漂う野菜が次々に表示されていた。
被害が無く、収穫可能な野菜は芽依が箱庭を使って採取していった。
食われているのもかなりあり、それは泣く泣く諦めていく芽依ではあったが食う蝗にイラついて来ていた。
「…………腹立つな、私達の庭荒らしやがって」
沢山集まる蝗の集団を指先で弾いた時、バタリと倒れた蝗を見て芽依とハストゥーレはお互い顔を見合わせる。
「………………えっと、死んだ?」
「わ、解りません」
ハストゥーレと共に窓から外を見ると、確かに数匹倒れている蝗。
芽依は別の蝗の集団を指で弾くと、外では凄まじい勢いで吹き飛ばされた蝗が他の蝗の群れに体当して吹き飛ばしピクピクとしていた。
「…………………………え、箱庭ってこんな効果あるの?」
「聞いた事ありません……」
「…………えーっと」
ちょうど収穫したばかりなので、野菜のウィンドウが開いていた。
芽依はドキドキしながらそこから大根を出し、蝗の群れに向かって弾くと、空中に現れた大根が輝き蝗に向かって豪速球のように吹っ飛んで行った。
ぶつかり吹き飛ばされ飛散する蝗の群れ。
直撃を間逃れた他の蝗達は何故か凍りつきパラパラと地面に落ちていく。
「…………何をなさいましたか、ご主人様」
「……大根を、弾きました……」
「…………………………流石でございます」
「……考えるのを辞めたねハス君……私も辞めたい……」
この意味不明な大根さんは、まだ輝き空中で漂っている。
蝗達は戦き大根からじわりじわりと離れて行って、別の野菜を狙おうとしているのを芽依はまた指で弾いてみた。
「………………わぁお」
弾丸のように向かい体当たりを繰り出す大根は、周りに雪をちらつかせてながら輝いている。
かと思えば何かの木のツルだろうか、大根からニョロリと出てきて蝗を拘束した。
「…………何も見ていない」
シャッ!とカーテンを閉めてハストゥーレを引っ張る芽依。
あ……と呟き外を見ようとしたが、芽依は頑なにハストゥーレの腕を離すことは無かった。
『……………………なんだこりゃ』
翌日、メディトークが外を見た時蝗の群れは跡形もなく居なくなっていた。
あの蝗も知能は低いとはいえ幻獣の1種、輝く大根様に恐れおののいて逃げたのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。
他の庭からも、持ち主が何人か庭の外に出てきて確認しているようだ。
「…………あの、害獣の蝗消えました?」
「あ!あんたの所も消えたのか!いったいどうなってんだ、まだ一日だぞ?」
見知らぬ庭持ち2人が不思議そうに話しているのを芽依も見ていて、1日で終わり喜んでいるのだが、メディトークは足を組み不振そうに庭を眺めていた。
『ところであの大根なんだ?なんで光ってやがる』
「……………………さぁ?」
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