123 / 528
お土産の餅に狂喜乱舞する
しおりを挟む「はい、胡麻好きかな?」
フェンネルは、念願のお餅でしょ?とつきたてのお餅を乗せたお皿を渡してきた。
上にはたっぷりのごま餡がかかっていて、香ばしい香りがする。
実は、酒をこよなく愛する芽依は、胡麻も好きなのだ。
ごま餡はもちろん、胡麻風味のあんまんも大好物で冬の寒い中ハフハフして食べたいのは肉まんよりあんまんである。
面倒くさがりで料理が苦手な芽依は、何故か胡麻のペーストジャムや、手作りの胡麻あんまん等を上手に作る。
好きこそ物の上手なれ、を地で行くタイプなのだ。
「胡麻っ!!」
「駄目だった……?」
「最高のチョイス!」
そういえば、こちらに来て初めての胡麻だ!!とつきたての餅を口に入れた。
アツアツの餅はよく伸びて、1口端を食べるとにょーーーーん!と伸びる。
切れずに悪戦苦闘すると、横からふはっ!と笑い声が聞こえ、餅を伸ばしながら見ると、涙を流し笑うフェンネルがいた。
上品に人差し指で涙を拭い、モチモチと口を動かす芽依を見ている。
「お………………おいしい?」
口に入って返事が出来ないから、頷いて答えると、また笑うフェンネルはハンカチを取りだしてちぎれた餅を食べる芽依の口端を拭った。
「よかった」
胡麻が口に付いていて、それを取るフェンネルをおばあちゃん達が頬を染めて見ている。
「もう少し若かったら私もらぶらぶしたかったわぁ」
「あらやだ!あんた旦那いるじゃないの!」
「ヨボヨボの爺さんじゃないのー。あの綺麗な妖精さんに熱く抱かれたい人生だったわぁ」
そういうおばあちゃんの旦那さんなおじいちゃんは、声を張り上げ杵を振るっている。
決してヨボヨボじゃなく、むしろそこらの青年よりもガタイがいい。
鍛え方が違うのは一目瞭然だ。
それをヨボヨボと言う百戦錬磨のおばあちゃん。
やはり、どの世界も女性は強かった。
沢山のお餅を食べた芽依は、ニコニコと差し出すおばあちゃん達の好意を断れなかった。
最後は困ったように笑う芽依の食べ残しをフェンネルが受け持ってくれたくらいである。
でも、久々の餅に感動した芽依を見て、今度はおじいちゃん達が張り切って杵をつき餅を作るスピードが早まった。
すごい速さで出来上がる金塊サイズの餅の塊が高く高く積み重なり、呆然と見上げてしまう。
「お土産に持っていかんかね?」
「いいんですか?」
「勿論!ワシらは食べ飽きたわい。こんなにいらんいらん」
笑い飛ばしながら言うおばあちゃん達。
食べるのも楽しいが、みんなで集まって餅つきをして騒ぐこの雰囲気が楽しいらしい。
そして毎年大量に余る餅を保存して1年を通して食べ切るらしいのだが、食べ飽きるので困りものらしい。
他の領地では食べ慣れない餅なので、流通もしていなくシャリダンの年寄り達の非常食としても置いてあるのだとか。
「是非!沢山頂きたいです!…………私の故郷にお餅があって久しぶりに食べたので」
「あらやだよ!!沢山詰めなきゃ!ほら!みんなー!!」
「どうする?もう全部いる!?去年のまだあるからいらんのよね!」
「あらいいじゃない!!時間停止しちゃいましょ!ほらいくわよー!」
「え……全部!?」
まだまだ作られていく餅をどんどん包んでいくおばあちゃんに、張り切り出来上がっているのは時間停止の魔術を一気に掛けているおばあちゃん。すかさず袋に入れて持たせてくれる。
「…………あ、あのお礼に」
箱庭にしまう途中、芽依は様々な野菜や肉を出しシャリダンの人達の目をギラつかせた。
小さな街の為、大きな市場のような場所が1箇所あるだけで物珍しい物が無いため、芽依のブリブリに太った野菜達に主婦のおばあちゃん達がキラキラとしているのだ。
「餅より断然こっちだわー!!」
結果的に大喜びされ、大量の餅を持たされた。
街の人1年分以上の餅の量である。
箱庭の餅×∞な表記に乾いた笑いを出しつつ、胡麻の産地らしいので、胡麻も大量購入。
「あ……あの、お米はありますか?」
「米?あるにはあるけど誰も食べないから買い付けしてないんだよ。いる?買っておこうか?」
「是非に!是非にお願いいたします!!主食なんです!!」
「あらまぁ!それは大変じゃないか!!すぐに手配したげるから待ってな!どれくらい居る!?1年分で足りるかい!?」
「3年分ください!私一人じゃないので!!」
「よしきた!!」
「待って待って!箱庭持ちよこの子!なら一緒に稲も頼んだら!?米作る?」
「きゃぁぁぁぁぁあああ!!お米作るぅぅ」
一斉にバタバタと走り出したおばあちゃん達を見送った芽依は、フェンネルを振り返り首に手を回して抱き着いた。
ぴょん!とジャンプした事で芽依全身を支えるフェンネルの鼻腔にベールで遮られているはずの芽依の甘い香りが漂い目を細めた。
「うわぁぁ!お米だぁ!連れてきてくれてありがとうフェンネルさん!!」
「…………いいんだよ、メイちゃんが喜んでくれて良かった」
こうして、異世界でパンを中心に食べていた芽依の食事事情がまた1歩前進した。
あまりにも幸せな主食の入手という内容にホクホクしてしまい、フェンネルの目付きが少しずつ変わっていってることに芽依は気付いていなかった。
43
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
(完結)嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜
白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人は結ばれるのか?
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
王太子妃、毒薬を飲まされ意識不明中です。
ゼライス黒糖
恋愛
王太子妃のヘレンは気がつくと幽体離脱して幽霊になっていた。そして自分が毒殺されかけたことがわかった。犯人探しを始めたヘレン。主犯はすぐにわかったが実行犯がわからない。メイドのマリーに憑依して犯人探しを続けて行く。
事件解決後も物語は続いて行きローズの息子セオドアの結婚、マリーの結婚、そしてヘレンの再婚へと物語は続いて行きます。
暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ
Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます!
ステラの恋と成長の物語です。
*女性蔑視の台詞や場面があります。
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。
しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。
突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。
『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。
表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる