上 下
104 / 528

死の村 リンデリント

しおりを挟む

 今から500年前、リンデリントという村があった。
 その村は小さいながらも木材加工に特化した職人が多く住む村で、全国からその木材加工を学びたい人や商人が忙しなく出入りする豊かで賑やかな村だった。
 大きな国の中の一つの村で、その木材加工も国を繁栄させる一つの材料でもある。
 それくらいとても細やかで繊細な匠の技を皆に売るのだ。
 主に家財1式、食器から家具に至るまで。
 更には水回りや、ガスを使うコンロまで特殊加工された木材で作られそれの出来は本当に素晴らしいものだ。
 王家に献上品として出すことも良くあったという。

「………………なあ聞いたか?」

「なんだ?」 

「移民の民が無差別に殺されてるって話」

「ああ!!聞いた聞いた!多分人外者だよな……」

 同じ工房で働く2人の男が木を削りながら話をする。

「すでに全国に多発してるらしいじゃねぇか。」

「犯人は誰なんだ?」

「そんなん知らねぇよ!」

「だよなぁ」

 最近巷を賑わすのは全国的に増えだした移民の民を殺す誰か。
 場所は関係なく、移民の民を場合によっては伴侶である人外者も殺して歩いているから、多分人外者の犯行だろうと思われてきた。
 何かの仕事の一環なのか、それともただの憂さ晴らしか気分で殺しているのかわからないが、人外者がする事だからと納得する者も多い。

 しかし、それだけでないのが今回の事件だ。
 無差別に行われるこの移民の民狩りは周りに被害が出ているのだ。
 巨大都市では街の3分の1が吹き飛んだり、移民の民の周囲にいた領主すら殺される事もある。

 ここリンデリントでは、木工職人を増やす為に周りから見習いや新人を多く受け持ち、村が狭くなって来ていた。
 そろそろ増築が必要だと国に申請を出しているのだが、その見習いの中には国から派遣された移民の民も多くいるのだ。
 この国は他の国より多く移民の民を呼ぶ人外者がいて、その人外者と保護された移民の民はこの木材加工を選ぶ人が多い。
 精密で美しい木材加工に惹かれる人が多くいたからだ。

 しかし、逆を言えば移民の民を多く囲いこんだ戦力の欠けらも無いこの村は格好の餌食だったのだ。


「………………ここだろうか」

 肩まで切りそろえた真っ白な髪に淡い色使いの花が描かれている背の高い男性。
 キラキラと輝く羽を閃かせてこの村にやってきた。
 あまりにもこの村に不釣り合いな美しい姿にその人外者を見た村の人は生気が抜かれたように動きを止めた。
 しかし、その美しさには残忍な影を落としていて、光のない瞳で周りを見ている。

「…………綺麗な妖精さんどうしたの?どんなご用事?」

 まだ8歳くらいだろうか、女の子がその妖精に話しかけると、その妖精はしゃがみこみ女の子と目を合わせた。

「…………綺麗な木工加工だから、買いに来たんだ。売ってる場所を教えてくれるかな?」

 首を傾げる妖精は、その動きに合わせて髪が揺れ綺麗な花が形を崩す。

「うん!いいよ!!」

 女の子に案内されて行ったのはこの村で1番大きな店だった。
 場所を区切り作者別にして展示販売をしているのだ。
 ここで見て、大きな物やオーダーメイドを頼むことも可能である。
 妖精は、その商品をちらりと見るだけで店員を眺めた。
 場違いな程に美しいその妖精は目立っていて、店まで来る間にも噂をされて店に来る村人も多くいる。
 その人達も一緒に確認していく妖精、一体何を探しているのだろう?と不審がっている時妖精は口を開いた。

「…………………………君の伴侶は……冬牡丹?」

「はい………………!……え?冬牡丹?」

 ポワンと妖精を見ていた移民の民が真っ赤な顔で反射的に返事を返した。
 その瞬間、妖精は一瞬でその移民の民の首を跳ねる。
 店内に飾られる木工作品や店員、見に来ていた村人に返り血がかかり、静まり返ったこの場が阿鼻叫喚に変わる。

「うわぁぁぁぁぁ!!リンカァァァ!!」

 精霊が走り寄り、移民の民を抱き上げるのを見て妖精は呟く。

「………………なんだ、違うのかぁ」

 駆け寄った人外者を見ても、妖精の表情は一切変わらない。
 この場にもう移民の民はいないと判断した妖精は入口を塞ぐ村人を一閃して場所を開けさせ歩いていった。
 返り血すら浴びない美しい妖精は風を受けながら周りを見る。

「………………ここは移民の民が多いんだね……当たりかな、いるかなぁ…………冬牡丹を裏切ったあの子。あの子を連れ出した人間……みぃんな、死んじゃえばいいのに」  

 あは……と狂ったように笑ったその妖精の守護結界により村人や商人はこの村から出れない状況だった。
 小さな村とはいえ、丸ごと閉じ込める魔術にその後戦闘をする為の力も残すこの妖精は紛れもなく強かった。
 ゆらりゆらりと歩き、ふわりと散る花が妖精から降る。
 地面に着く瞬間に溶けて消えるその様子を見た人外者が目を見開いた。

「………………まさか、花雪の妖精か?」

「…………………………………………今は違うよ」

 歪んだ笑みを浮かべて笑うその妖精ははるか昔からいる穏やかな妖精で、雪の中に咲く美しい花から生まれた妖精だった。
 美しさと優しさに全振りしたようなその妖精が狂ったように笑い殺していく姿を、この村にいる人外者は信じられないと見つめていた。

 なによりも優しい妖精だったのだ。
 そこらへんに咲く雑草が踏み潰されているのを見てハラハラと涙を流す、そんな心の綺麗な妖精だったのだ。
 花雪の妖精を直接知らない人間だって、その優しい存在を知る人は多い。
 だからこそ、こんな無差別に殺していく花雪に人外者や村人が酷く驚いたのだ。

「…………まさか、信じられない」

 移民の民を狙い、それを防ごうとする伴侶は村人を見ていたが花雪の心は動かなかった。
 いちいち聞いて回ったのだ。
 冬牡丹の伴侶か、相手を愛しているのか。
 そのどんな言葉もどんな返事も花雪の正解ではなかったようでみな等しく殺されていく。
 美しい家屋も壊され、隠れた移民の民を引きずり出しまるで見世物のように次々と殺された。
 ほとんどの家を確認した花雪は、昼時もあり湯気のたつ料理が並んでいた。
 これから食事なのだろう、普段は笑って食卓を囲むはずのこの場所に人が座ることはもうない。

 逃げようとする移民の民、守る伴侶や村を守ろうと武器を持つ村人に逃げたい商人。
 そんな人たちを花雪は冷たい眼差しで、しかし笑って見ているのだ。
  
 こうして、小さな村の中に沢山の人を抱え込み伝統芸術を作り続けたリンデリントは村ごと消失する事になる。
 誰も残らなかった。
 小さな子供1人だって、死にたくないと叫んだ移民の民も誰1人生き残らなかった。
 まるで灰でも降っているかのようなサラサラとした瓦礫が室内に積もりまるで埃のよう。
 全ての建物は崩れているのに、世界に知らしめた伝統芸術である家財などは美しく残されていた。

 その木工作品は今も市場に高値で売られ大事に扱われている。
 国管理のものが多く、市場に流れるコップ1つが高価なものとして取引されるのだ。
 それも、年々減少していて希少価値は上がるばかりだ。

 花雪は、誰も居なくなった村を眺めてから身体中から花を散らした。
 すると、髪に付着されていた花は消え失せ肩までの髪を手で払う。
 そして、静かに村を離れた。

「………………探し出してまだ半年……早く見つからないかなぁ」



 村が無くなって半日、少年ことニアが村に来た時にはすでに死体すらない無人の村となっていた。
 埃のような瓦礫が室内にあり、冷めた食事がさらに時間を経過しているように感じるが、まだ半日なのだ。
 
「………………間に合わなかった。今回は村ごとかぁ」

 ニアは瓦礫に片足を上げて呟くと、無人だったはずの家屋が開く音がして振り向く。
 そこには1人の移民の民がいた。

「で、お姉さんはだれ?どうしてこんな死の村なんかに居るの?」

 こんな形で出会う事に後々ニアも芽依も、そして花雪も驚愕する事になる。

 
 





 
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

(完結)嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます! ステラの恋と成長の物語です。 *女性蔑視の台詞や場面があります。

【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。 しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。 突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。 『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。 表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

処理中です...