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備蓄とガイウス領の食料支援について

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 カナンクル翌日、世の中はあの華々しく街中を飾り立て祝祭に浮かれていた日が終わり日常に戻っていた。
 店に飾り付けられた物は撤去され、街中を飾っていた大きなオージンも気付いたら無くなっている。
 あの楽しい雰囲気にまだフワフワとしている人も多く、カナンクルの祝福を十分に受け結婚をした人や人外者の祝福ムードで街は賑わっている。
 しかし、恋破れた人たちも勿論いる訳でブツブツと何かを呟き闇を背負っている人も多く存在する。
 不幸を撒き散らす魔術を編み、空から降らす人外者は後を立たず、領主館に助けを求める声がひっきりなしに入りのも毎年の事。
 騎士や魔術師達が総出で動き回るこの日、アリステアは芽依の為に少しの時間を割いた。
 本当は大切な話をしたかったのだがギルベルトが帰ることも有り、芽依の話は夜にすることにして今はギルベルトを含めた備蓄の話をすることにする。

「芽依、お前の話をしたかったのだがギルベルトが帰る為こちらを優先したいのだ」

「私は大丈夫ですよ」

「すまん」

 小さな会議室に座るのはアリステアとシャルドネ、ギルベルトにあの人外者と芽依である。
 備蓄を管理しているのはシャルドネの為同席したのだが、昨日よりもキラキラしい笑顔で芽依を見る。

「………………シャルドネ、少しは芽依の事を考えてくれ」

「勿論、わかっておりますよ」

「え?なんですか?」

「いえ、備蓄量を増やしていただけると聞きましたので。どれくらい提供頂けますか?」

 キラッキラスマイルにおおぅ……と思わず逃げ腰になり掛けながらも引きつった笑みを向けると、アリステアから謝罪された。

「シャルドネは知識を取り入れるのも好きだが、物を溜め込むのも好きでな……」
 
「………………なるほど、備蓄管理は天職ですね。えと、備蓄について提供する事は勿論大丈夫なのですが、それをふまえてちょっと聞きたいことがあるのですが」

「はい、なんでしょうか」

 国は勿論領でも沢山備蓄をすると聞いていたのだが、芽依は気になることがあったのだ。

「……あの、備蓄ってどういうのをしてますか?」

「どういうの、ですか……保存魔法が使えますので割と何でも備蓄対応はしています。パンを作る材料から肉、魚、野菜は領での不作が続いた時の緊急措置として用意しております」

「………………他は」

「飲み物でしょうか?そちらも各種取り置きをしております」

 芽依の質問にスラスラと返事を返すシャルドネ。
 他にも使い捨ての物や物品関係、暖房等に使う物もあり災害時の対応に役立つものが多そうだ。
 ドキドキしながら聞いたのはこの後。

「……………………お菓子や、赤ちゃん用ミルク、柔らかな食事などはありますか?」

「……………………そうですね、準備はしておりますが、十分と言える量ではありませんね」  

「私も手伝います!準備しましょう!!」

「メイ……どうしたのだ?」

 勢い良く言ってきた芽依にアリステアは驚きつつ聞くと、眉を下げ困った顔をした芽依はアリステアを見る。

「…………災害時で困るのはご飯を選べない赤ちゃんや幼児に、食が細くなったお年寄りじゃないですか。気持ちを楽にする為にも甘い物も欲しいですし。私たちの所でも災害時に困るのは食料なんです。特に野菜や果物がなくなって体調を崩したり、赤ちゃん用ミルクやオムツが足りなかったり、固形を食べれないお年寄りだったり」

 芽依は実際に真冬の嵐の時に数日間の停電にあい、寒いは食べ物は無くなるは、入浴は出来ないはと散々な目にあった。
 まだ大人はいいが、生まれたばかりの赤ちゃんや疾患のある年配者には厳しい数日間だっただろう。
 大々的にニュースになり、芽依の友人も小さな子供が大変だったと恐怖に泣いていたのを今でも覚えている。
 それから芽依は自宅でも最低限の備蓄や災害時用の物品を買うようになっていた。汚部屋の中に埋まっているのだが。
 今芽依がしている庭でも多く作っては備蓄にしたいと思っているが、この世界での備蓄の仕方を知ってからの方がいいかと思っている。
 惣菜ひとつにしても、同じ様でその使い道は違ったのだから。

「…………もしよければ、今度備蓄場に一緒に来て頂けませんか?今よりも何かいい方法があればと思いまして」

「はい!庭の食材もその時に相談しませんか?」

「ええ、是非」

 シャルドネは目を細めて嬉しそうに笑うと芽依も笑った。
 さしでまかし過ぎるかなと最初は遠慮がちに言い出したが、思った以上にシャルドネが食いつき話を聞いてくれたから芽依も前のめりになって話をする。
 自分の立ち位置というか、ポジションというか、アリステアやセルジオ、シャルドネやブランシェットとは違い領地に関する仕事をしていない芽依が何処まで首を突っ込み発言を許して貰えるのか手探り状態での会話にドキドキした。

「私の知っている備蓄の仕方と、こちらの備蓄の仕方がどのようなものかわからないので、提供する物の選別がわからなかったんです」

「……そうですね、基本的には栄養素を流さないために新鮮な状態の食材にすぐに保存魔術を掛け、分別しています。」

「何が足りませんか?」

「提供頂けるのなら全て助かりますが……やはり海のない地ですので魚介類は足りませんね」

 魚……と呟き頭を下げてしまう。
 芽依が提供出来るのは肉や野菜、乳製品にぶどうくらいだ。

「魚は……ちょっと難しいです」

「勿論、わかっておりますよ……確認宜しいでしょうか」

 シャルドネは首を傾げて聞くと、髪についた沢山の飾りがシャラリと音を奏で光を反射した。
 緑色の美しい髪と羽は、あの奴隷と言われた人外しと色彩は似ているがより深みがある。

「野菜や肉の販売までの期間はどれくらいでしょうか」

「育つ期間って事ですよね……そうですね、見ている感じだと肉類は大体通常よりも1週間くらい早いみたいです。野菜は種類にもよりますが、1週間~2週間程、最短で3日の野菜もあります。種類を豊富に作る努力をしてますので、毎日何かしらの収穫をしてる感じです」

「季節によっての違いはありますか?」

「んー……まだ秋から冬に掛けてしかわからないですが、秋の方が収穫量も多いですし品質や大きさも段違いです」

 箱庭を触り2つの大根を取り出す。
 野菜を作り出してまだ間もない事もあるのだが、秋の終わりがけに作った野菜は冬で作ったものより2倍の大きさで、品質も高い。

「これが秋の終わりに作った物で、こちらが最近に作った物です」

「……………………これは、素晴らしいですね。秋の終わりとはいえ豊穣と採取の恩恵を受けていますし、冬の野菜は他の庭で作られるのとは雲泥の差です」

「……これはすごいな」

「こんな、冬に出来るものなのか」

 シャルドネだけじゃなくアリステアもギルベルトも立ち上がり2つの大根を見比べる。

「……これは、冬篭りの準備に芽依を探すわけだな」

 以前聞いた領民からの話を思い出し呟くアリステアに、呆然と頷くギルベルト。

「………………では、季節に関係なく今後毎月ある程度の食材を領に提供していただけますか?勿論貴方のご負担にならない程度でかまいません。その中からガイウス領に提供する分とを別けて備蓄致します」

「わかりました、物の指定はありますか?」

「いえ、基本的にはあなたの判断に委ねます。ただ、備蓄の内容をよっては指定する事もあるかと思いますが宜しいでしょうか」

「はい、よろしくお願いします」

 上手く話がまとまりそうで芽依はホッとした。
 今の所無理なお願いもされず、自分の許容範囲内で出来るものを提供する。
 期限はあるが無理な取り立てのようなものも無さそうだと安心した時だった。
 ギルベルトが立ち上がり芽依に向かってあの人外者の腕を掴み前に引っ張る。

「我がガイウス領への物資提供感謝する!そこで、対価なのだがメイといったな、お前に渡すのはコイツだ」

「………………………………は?」

「見た目弱そうに見えるが立派な労働奴隷だ。様々な仕事を仕込んでいるからそこまで使えない事もないだろう」

「………………いや、は?」

「お前の仕事の手伝いも出来る。なぁに、今後伴侶を得たとしても奴隷だから邪魔だてもせん。安心しろ」

「……………………え、何言ってるの」

 自信を持ち話すギルベルトにポカンと口を開けて呟いた。
 しかし驚いているのは芽依だけで、シャルドネに至っては笑みを浮かべている。

「………………いや、人身売買をする気ないからね?」
 
 
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