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3日前
しおりを挟む土曜日、何故かぐっすり眠ってしまって目が覚めたのは昼をすぎた時間だった。
今日は両親が休みなのに起こしに来ないなんて珍しい……そう思いながら体を起こすと尋常ではない汗をかいている。
「…………え」
右手を見るとべっしょりしていて、布団もぬれている。
気持ち悪い感触にブルリと震えてベッドから出ると汗がしたたり、下に水溜まりが出来るほどに発汗しているようだ。
「な……なにこれ」
「起きたか?」
「兄さん!?」
「………………ああ、汗をかいてるな。動けるようならシャワーを浴びてくるといい、その間にシーツを変えておくから」
「え……いや、自分でするから」
「いいから、行ってこい」
「うん……」
ジャブジャブのパジャマのままでは床を汚してしまうと、シーツを変え始めた兄の隣でパジャマを脱ぐ莉央。
前は気にしなかったのに、里美が隣にいるだけでただの着替えが何故か恥ずかしい事をしている気になってしまう。
張り付いた服は体の線を見せ、ぷっくりと生理現象で立った乳首も形がしっかりとわかる。
太ももに流れる汗が気持ち悪く濡れていてギクリとしたが、それを脱がなくてはどうしようもない。
恐る恐るズボンを脱ぐと、最低な状態は回避されホッとしたが目の前の兄の広い背中とふわりと香る甘い香りにズクリと下半身が熱くなる。
自分の為にべしょ濡れになったシーツや布団を替えてくれるというのに、そんなことを考える自分が凄く恥ずかしく汚らしく感じた。
(こっちを見てほしい、僕の全部を見て欲しい)
その異常なまでの気持ちの昂りと、兄に向ける感情に戸惑った莉央は脱ぎ捨てた服を濡れたシーツの上に投げ捨て慌てて部屋を出ていったのだった。
「…………莉央?」
慌てて出ていった莉央に里美は振り向くが、そこにはすでに莉央の姿は無くて、うーん、と悩んでからまたシーツを敷き直す。
そして引き出しを開け、真新しい着替えを手にして部屋を出た。
着替えを持ち脱衣場に行くと、むせ返る甘い香りに顔をあげる。
莉央の押し殺したような甘く艶やかな声が小さく浴室に響いていて、里美は思わず口元を手で覆った。
「…………ん…………んぁ……」
「…………………………………………」
「はぁ…………は…………あ……にぃ……さ……」
「……………………」
溢れかえるΩのフェロモンとシャンプーの香りが混ざり合い里美はくらりと目眩を覚える。
抱き締める服を強く握り眉根を寄せると、小さく深呼吸をした。
(…………確定だな)
シャワーの音と、莉央の秘やかな喘ぎを聴き確信した里美はそっと着替えを置く。
少しずつ早まっていく莉央の声を聞き、自分自身の熱も急速に上げられ下唇をはむ。
(不味いな、このままここに居たら莉央の所に押し入りそうだ)
ゆっくりと物音を立てないように里美は細心の注意を払い脱衣所を出ようとするが、一際大きな莉央の声を聞きグッ……と体に力を込める。
(…………くそっ、可愛い声出すな、バカ ……)
火照った体に多少の脱力感を感じつつ、莉央はシャワーを終え脱衣所に来てギクリと体に力が入った。
準備されている着替えを手に持ち、一気に顔が赤く火照る。
「…………ま、まさか…………聞かれ……!……!?」
まだ濡れている全裸のままヘナヘナと床に座り込み服を顔に押し付けて身悶えた。
シャワーを浴びてから3時間が過ぎた。
すでに食事も済ませて部屋でゆっくりしていた莉央は、少しずつ上がりだした発熱となんとも言えない不快感がザワザワと身体中を巡っている。
眉を寄せてソファに座る莉央は、クッションを強く握って耐えようとしていて、すぐ近くには香苗から貰った柑橘類の香りのアトマイザー。
部屋は甘酸っぱい香りで溢れていて多少の落ち着きはあるが、持て余す体は必死に熱を求めている。
性分化が近い未分化の体は、これから新しい性に生まれ変わる為、体の中から変化が始まっていた。
その変化に対応する為、組み変わるからだの負担を少しでも逃がそうと熱が出ているのだ。
これは性分化の数日前から起こる現象で人口の7割程がおきる変体の特徴で、それはαβΩ関係なしに起きる。
兄にもこれは過去起きていて、最初は熱だけだが、不快感はそのうち耐え難い熱を持ち、性分化まで耐えなくてはならないのだ。
以前里美から聞いた熱とは、この耐え難い体の熱も含まれているのかと、今更ながらに納得する。
体の不調によって、本人や家族は第二の性が何に変わるかはある程度想定できる。
変わる性別の状況に近い体の変化が起きるからだ。
αの場合は強い欲を吐き出したくなる性的欲求が強まり、βはさほど変わりは無い。
ただ熱が高くなりやすく、40℃を越し倦怠感があるくらいだ。
そしてΩは、ヒートに近い症状が現れる。
体が火照り触れて欲しい欲求が増すのだ。
体が切なくて仕方ない。
莉央は自分の体の変化に眉を寄せていた。
兄みたいな強いαになる。
兄みたいなかっこいいαになる。
そう思っていたのに、自分の体は真逆に生まれ変わろうとしているのにわかりぞッとした。
「…………やだ…………やだやだ……Ωになんてなりたくない……なりたくないのに…………んぅ…………」
体が火照り下半身がどんどん熱を持つ。
真っ赤になっていく顔をクッションに押し当てて力無くソファに倒れる。
その時に擦れる服の感触にすら体は素直に快感を拾い、そんな情けない自分に涙が流れた。
「………………も、やだ…………」
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