[完結]兄さんと僕

くみたろう

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4日前

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 昨日の夜から莉央の体調は少しおかしい。
 ゾワゾワと体の中の何かが這い回っている感じがしたのだ。
 眉を寄せてなんとか眠りにつこうと目を閉じるが全然眠れない。
 
 這い回る不快感と時折思い出す頬を上気させた兄の姿。
 艶めかしく匂い立つような、そんな兄を初めてエッロ!!と思ったのは墓場まで持って行こうと思っている。
 見た目も良く女子にも男子にも人気な兄だからこそ、そういう機会も多かったのではないだろうか。
 女性か、はたまた男性かわからないが、兄がベッドに組み敷いた人数はきっと少なくない。
 あの熱の篭った眼差しで見られる自分以外のΩやβに何故かムカムカと強い不快感がある事に気付き、ボっ!と顔を真っ赤にさせた。

「え……あれ!?ええ!?」

 がばっ!と布団を跳ね除け起き上がり、両手で頬を包む。
 莉央は今、明らかに兄のそばに居る自分以外のその他大勢に嫉妬した。
 愛を囁かれる立場にいる人に嫉妬したのだ。

「いや………………いやいやいやいや!!兄だから!兄ちゃんだから!!」

「こら莉央うるさい。夜中だよ眠れないなら添い寝でもするか?」

「うわぁぁぁあ!?勝手に入って来ないでよ!!」

 急に入ってきた里美に跳ね除けた布団を引っばり体にかけると、早く寝なさい……と言いながら部屋に戻って行った。
 明らかに寝起きで、莉央に起こされたのだろう。
 そんな寝乱れた兄を見ただけで莉央は下半身を熱くさせ更に布団を押し付けた。

「なんでなんで……」

 今度は静かに呟きちらりと布団をよけると、やぁ!こんにちわ!をしている大事な息子に目眩がした。

 あれほどクラスメイトの香苗を見る目に、下世話な話に嫌悪したのに、そんな莉央が里美を見て何元気になっているんだ。
 言いはしなかったが、里美の状態は興奮状態のヒートに近かった。
 なかなか落ち着かず、一度退室した里美を見送った後で母親が帰宅し危なかったなぁ……と客観的に思いつつ、そんな自分にも違和感が湧き上がる。
 しかし、里美のヒートにしては一瞬で落ち着きを取り戻していたし、その後は普段通りだったから本格的な発情期ではないのだろう。
 というか、‪α‬の発情期の殆どがΩのヒートに当てられてなるから、なら単純に……

「兄さんがムラムラした!…………いや、まってよ。今僕が……兄さんに……ムラム……!?あああぁぁぁぁぁ……」
 
 流石思春期、残り少ない未分化期間は関係ないとしても下ネタには敏感な年頃であった。
 頭を抱えて布団に転がる莉央の元に兄が訪れるまで後3分。



 学校に行ったら香苗を下品な眼差しで見ているクラスメイト。
 その眼差しが今日は莉央にもチラチラと向いているのに気付いたのは3時間目が終わった頃だった。
 朝は特に変わりなかった筈なのに、何人かが莉央を見てはボソボソと何かを話している。
 それは香苗も同じでチラチラ莉央を見ていた。
 しかし、それは心配そうな眼差して眉を下げている。
 
 その全てが気持ち悪く、莉央は口元に手を当てると、意を決したような表情で香苗が莉央の前にやってきた。

「…………莉央」

「香苗?」

「ちょっとこっち来て」

「なに?」

「いいから」

 連れ出されたのは保健室で、そこまで来る間香苗が居るから周りの視線を感じた。
 しかしここで、莉央は他にもΩになっている人が居るのに気付くのだ。

「…………香苗?なんで保健室?」

「体調悪いでしょ?まってよ……えーっと」
  
 先生は不在らしく香苗は勝手に棚を漁り出した。
 取り出したのは真っ白なフワフワのタオルで、そこに香苗のポケットから出したアトマイザーをスプレーする。
 ふわりと香る柑橘系の香りに莉央は目を細めると、顔にタオルを優しく当てられた。
 吸い込んだ香りにくらりとしていた頭が何故かスッキリとしてきた。

「目元とかでもいいし、温めたタオルにスプレーして顔に当ててもいいよ。どう、落ち着く?」

「……………………うん」

「……そうだよね。これ、あげる」

 アトマイザーを渡された事で慌ててタオルから顔を外すと、困ったように笑う香苗が居た。

「私も未分化最後の時は気持ち悪かったんだ。お姉ちゃんもΩだからさ、対処法知っててね。なんでか柑橘系の匂いに体調が良くなるの」

「香苗、ねーちゃんもΩなの?」

「そう……大変な目にあってるの知ってるからね、だからΩってわかった瞬間はもう地獄よ。まあ、お姉ちゃんがたぶん私もΩになるって言ったから心の準備はしてたけど……やっぱりね」

 隣に椅子を持ってきて座った香苗の所に、ベッドのカーテンが空く。
 サンダルのように靴を潰してつっかけたその生徒は、肩までの髪をかきあげながら出てきた。
 
 同じクラスじゃないその子は物凄く顔色が悪いのだが、物凄く色っぽい。
 思わず莉央は学ランを2度見した。

「…………ごめん、アトマイザー貸してくれる?」

「え?……ああ、香苗いい?」

「勿論だよ」

 香苗はもう1枚タオルを取り出しスプレーを吹き掛けて渡すと、その男子はタオルに顔を埋めて深く息を吸い込んだ。

「…………………………はぁぁぁ」

 盛大なため息を吐き床にしゃがみこんだその人はタオルから顔を上げると笑っていた。

「…………ありがとー。体調悪かったから助かったわ」

 ほかの男子とは見るからに違う女子のような華やかさのある生徒。
 莉央は目を見開くと、その生徒は莉央を見て膝をポンと叩いた。

「あんたもΩかー……いや、まだか?もうすぐかぁ……お互い気をつけようなぁ……まったく何が悲しくて男に迫られなきゃならんのよ」

「……………………俺はΩにはならないぞ」

 莉央の言葉に香苗と男子生徒は口を閉ざし顔を見合せた。

「…………そっか。でもお前、Ωとしての鱗片出てるぞ」

「……は?」

「外見、かなり変わってんじゃねーか?それに匂いもする……Ωの未分化期間はキツイからな……頑張れよ」

「莉央……私もそう思う……ねえ、家に‪α‬いないよね?」

「え?兄さんが‪α‬だけど……」

 そういうと、2人はまた黙ってしまった。

「………………莉央、頑張んなよ」

「がんばれな……」

「な……なんだよ」

「これ、枕元に置いてすぐ届かき場所に置くことオススメするよ」

 アトマイザーを指差した男子生徒は、じゃあな香水ありがとー、と保健室を出ていった。

「………………香苗」

「明日から土日だから休みでしょ……次は来週、性分化が終わったあとになるからね。今日渡せて良かった」

 莉央のアトマイザーを握る手を掴んで力を込める。
 その辛さを受けた香苗なりの応援だった。

 
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