[完結]兄さんと僕

くみたろう

文字の大きさ
上 下
2 / 9

6日前

しおりを挟む

「…………兄さん、本当に早く帰ってきた」
  
「早く帰るって言ったろ」

 少し遅くはなったが、里見は仕事を定時で終わらせていた。
 大きめの袋に飲み物やゼリー、お粥が入っていて、他にアイスもある。

「あ、アイスだ」

「好きだろ」

「好き」  

 ソファには里見のお下がりのスウェットを来て体育座りをしている莉央。
 服の中に足を入れ丸々としていて、冷蔵庫にしまいながら、そんな莉央を見てフッと笑った。

「なに?」

「莉央にはやっぱり大きいだろ?そのスウェット」

「そんなことない、暖かいし」

「そんな格好してたら寒いだろ、風入る」

 足を上着の中にすっぽり入れている事で、裾に隙間が出来て風が入る。
 そんな事ない!と顔を背ける莉央の隣に座った里見がヒョイと抱えて膝に乗せた。

「わぁ!ちょっと…………冷たっ……何処に手を入れて……」

「ほら、大きいから簡単に手が入るだろ?」

 里見の膝の上に体育座りのまま乗せられた莉央は、裾から冷たい手を差し込まれ腹部を撫でられる。
 大きな手が冷たさからじんわりと温まっていくのがわかるり、莉央の羞恥心がボンッと一気に火がついた。
 背中には自分をすっぽり抱える兄がクスリと楽しそうに笑うのが沸騰しそうな程に顔を真っ赤に染めさせる。

「に、兄さん!」

「なに?」
 
「お腹撫でないで!」

「フニフニで気持ちいいなぁ」

「ねぇ、聞いてる!?あとフニフニじゃ無いから!」

「うんうん」

「ねぇぇぇえ」
  
 もう時期はじまる第二次性徴からくる性分化。
 今の莉央は未分化と呼ばれる生まれ持っての性のみの状態。
 これから1週間かけて体内から変化するのだが、これがまた苦痛を伴うのだ。

 ‪α‬にしてもβにしてもΩにしても、今までと体の作りからして変わる。
 それをたったの1週間で作り替えるのだ、体に負担もくるだろう。

 この未分化最後の1週間は不安や体の不調などによって著しく精神を疲弊させる。
 この身体の変化は人口の八割強が起こることなのだが、中には一切変化が無い人もいた。

 この体の変化を里見も経験している。
 だからこそ、もう時期来る変化の兆しを見逃さないようになるべくそばにいようと決めたのだ。

 にいさん、僕これがいい、ちょこのやつ
 にいさん、僕これがいい、ちょこのやつ

「…………兄さんさぁ、いい加減それ変えてよ。なんで僕の声にしてるの」

「え、可愛いだろ?…………はい」

 何時だったか、2人でゲームしている時に母親から出されたケーキを選んだ時の莉央。
 弟感満載の莉央を気に入り、うまい具合に撮れたからと設定しているのだが、莉央にしてみれば恥ずかしくて仕方がない。

「…………ああ、美桜か、何?うん、うん、拓也もいるんだろ?なら俺が行かなくても問題ないだろ……え?……そう言われてもな。いや、今日から1週間は無理だ、優先しないといけない事があるから」

 友人だろうか、テレビに視線を向けたまま会話をしている。
 雰囲気的に出てきてくれ、みたいな感じがして、チラリと仰ぎ見ると里見と目が合った。

 にっこり笑われて慌てて顔を背けるが、頬に手を当てられて顔を覗き込まれた。

「ああ、無理だ」

 (私より優先するの!?)

「ああ、1番大事な事だから」

 携帯から女性の声がする。
 後ろからザワザワと騒がしい雰囲気的がしていて複数人いるようだ。
 里見の交友関係は広い、だからこうしてお誘いの連絡が来るのも珍しくはないのだが、今回だけは莉央を優先する決意は覆されないようだ。

「………………いいの?」  

「ん?」

「呼ばれてたんじゃない?」

「まあね、でもいいんだ。それより莉央の方が大事だからね」

 頭を撫でられ思わず顔を下げる。
 そのまま背中に寄りかかるが兄は咎めたりしない、相変わらず弟に甘かった。




 未分化が終わる、そんな時期に差し迫った今里見は心配している事があった。
 自分のなりたい性が明確にある人は、より決まった性を受け入れ難い物なのだ。

 莉央はαになりたい。しかし、里見は莉央がαにはならないとわかっている。
 βの両親から生まれた里見は、莉央の変化にはかなり前から気付いていた。
 13歳程から莉央から香る香りにΩ特有のフェロモンが極わずかに感じるのだ。
 外を出歩く莉央に誰も気付かないが里見には分かった。

 莉央の変化は少しづつ現れていた。
 雰囲気が柔らかくなり見た目が可愛く成長していく。
 特別可愛らしい訳では無いのだが、見る人が見ると後にΩになりうる可愛さだとわかるのだ。
 里美は‪α‬で、家では懐く可愛い弟だからこそ早くから少しづつ2次性徴による性分化への変化に気付けた。

    両親はβだから、この変化に気付いたのは里美だけだろう。
    それから里美はより莉央に寄り添うようになった。
    外出時は必ず隣にいて肩を抱き、莉央を隠すようにして歩いたし、自宅でも兄さん兄さんと慕ってくる莉央を笑って全て受け入れた。やり過ぎているのは自覚していたが、莉央が何も言わないのをいい事に自分のしたい様に莉央を守ってきた。

 それもこれも、15歳の性分化の時Ωになった莉央が‪α‬に怯えて里美から距離を取らないようにする為。
 だが、何がどうして可愛い弟は‪α‬になるのだと意気込み燃えている。
 このままではΩになった時ショックで倒れるのでは、と里美は心配しているのだ。

「…………大丈夫かなぁ」

「なにが?」
 


 







 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄と弟

周防
BL
兄弟だからと言って

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

幸福な死体【完結】

米派
BL
婚約者の元へ行こうとしたら、馬車が崖下に真っ逆さま。確かに弟の手で殺された筈なのに、ディルクは人で無いものとして目覚めてしまう。そんな壊れた彼を巡る男たちの話。 ※餓鬼という化け物をアレンジしています。受けが人を食べる描写等もあるのでご注意ください。 婚約者×兄←弟がメインです。二話から受けが「あうあう」くらいしか喋れなくなります。 こちらは他サイトにも置いてあります。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

俺が、恋人だから

休憩E
BL
俺の好きな人には、恋愛以外のすべてを満たす唯一無二の相手がいる。 バスケ部の絶対的エース男子高校生×家庭環境問題ありありの男子高校生の短編連作です。 エースの彼には、幼馴染でずっと一緒にバスケをしてきた絶対的に信頼しあっている相棒がいます。 『恋人』という形ではあるけれど、 彼の心の中の唯一無二は自分ではない――…みたいな切ないお話です。 続きも書けたら楽しいです。 読んでくださる方が、少しでも楽しんでくれたら嬉しいです。

裏切者として死んだ堕天使、生前の主君のベッドの上で目覚める

槿 資紀
BL
 堕天使クロウは首を刎ねられて死んだ。主君であるヴィドを裏切った罰である。  クロウはヴィドの未来を思いながら、ゆっくりと瞼を閉じ、自身の末路を受け入れた。  しかし、どうしてか、次の瞬間には、ベッドの上、魔王になったヴィドに組み敷かれた状態で目を覚ます。  どうやら、リコフォスという、ヴィドの寵童として召し抱えられている者の体でよみがえってしまったらしいことを認識したクロウは、寵童の中身が裏切者だと気づかれたらおしまいだと確信し、逃げることを決意する。  運よく再会した生前の弟子の力を借りて魔王城から逃げ出すことに成功したクロウ。弟子と二人三脚、逃亡生活を営むなかで、弟子から思慕を寄せられ、満更でもないな、などと思い始めるが、そんな二人に魔王ヴィドの魔の手が迫る。    果たしてクロウは怒れる魔王から逃げることが出来るのか……!?

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...