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高校1年生、夏、2人きりの部屋で

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あの日の事は今でも忘れない。
いや、忘れられない。
僕達はあの日確かに生きていたのだ。
人間としてではなく、『美園 馨』という人として生きていた。
これが間違った道だとしても…きっと、きっと僕らはもう戻れない所まできていたのだと思う。

僕と『藤田 碧』は幼馴染だった。
幼稚園、小学校、中学校、高校とずっと一緒で、周りの人達には「どんだけ仲良いんだよ(笑)」とよく笑われていた。

僕達は仲の良い友達同士。
幼馴染であり1番の理解者。

そう思っていた。

でもあの日、それが大きな間違いであったと僕は気付かされた。

あれは、高校に入学して最初の夏休みでの出来事だった。
何がそうさせたのかは分からない。
茹だる様な夏の暑さがそうさせたのかもしれない。
それとも、大量の宿題のせいで頭がおかしくなっていたからかもしれない。
僕達は………幼馴染としての一線を超えてしまった。

その日は「帰宅部同士、仲良く宿題でもしようぜ」という碧の提案に乗って、碧の家で2人で宿題をしていた。
最初は真面目に宿題を進めていた。

3時間程経った辺りだろうか、ふと碧が宿題をする手を止めた。
(?)
僕は「どうした?」と碧に話しかけた。
少しの間があった後、碧は気まずそうに口を開いた。
「今日、うち夜まで親帰って来ないんだよ」
普段、碧はそんな事を言ってこないため違和感を感じたのを覚えている。
「ぁ、あぁ…そうなのか」
「あぁ」
それからまた碧は宿題をする手を再開させたため、不思議に思いながらも僕も宿題を再開させた。

それからどれくらい経っただろう、時計は15時を指していたと思う。
碧の部屋にはエアコンがなく、扇風機で暑さを凌いでいた。
でもその日は今季最高気温を記録する暑さで、とても扇風機では涼しいとは言えない程だった。
「暑い…」
先に沈黙を破ったのは碧だった。
「言うなよ…僕だって暑いけど我慢してたんだぞ」
「悪い」
碧が暑いなんて言うせいで余計に気温が上がった気がする。
「はぁ…」と俺がため息をつくと「少し休憩するか?」と聞いてきたので「そうしよー」と答え僕らは休憩する事にした。

その時の会話は他愛もない会話で、「どこまで進んだ?」とか「これ全然進んでねぇじゃん(笑)」等のしょうもない話をしていたと思う。

そんな会話をしていた時碧はまた無言になった。
元々碧は、喋らない訳ではないが多弁ではない。
ただたんに話が一段落済んで黙っているのだと思って、僕は気にも止めていなかった。

「なぁ…今日って暑いよな」
おもむろに碧が話しかけてきた。
「ん?そうだなぁ……てか、そう思うならエアコン付けろよな」
「親が付けてくれねーんだよ」
「でもこの前おばさんと電化製品店で会ったんだけど、エアコン見てたぞ」
「まじ?」
「嘘ついてどうするんだよ…良かったな、この暑さから解放される日も近いかもな」
「おー………なぁやっぱ馨もエアコン欲しいって思うか?」
「当たり前だろ?扇風機じゃやってらんないよ」
「そうか」
その日の碧はどこかおかしかった。
エアコンなんてほぼ全人類が欲している物だろうに。
「エアコンが来たらさ、きっとこの暑さを感じる事もないし、頭がボーっとする感覚も味わえないんだろうな」
「え…碧そんな感覚を楽しんでたのかよ?…お前…ドMか?」
「お前な…なんでそうなるんだよ」
「碧が変な事言うからだろ」
「………」

本音を言うと僕も少し寂しいと思っていた。
この暑さが僕達の夏休みを表しているように思ったからだ。
でも、碧にそれを言う事は出来なかった。
この時の僕は何故それをいえなかったのか、何故茶化してしまったのか、自分の気持ちに気が付いていなかったのだ。

「なぁ」
碧が話しかけてきた。
今日はよく喋る。
「なに?」
「今日は暑いよな」
さっきと同じ質問。
「だから暑いって…「頭がおかしいのは暑さのせいだよな」」
僕がまだ話してる途中なのに碧は口を挟んできた。
「は?あぁ…まぁ頭もおかしくなるよな」
碧は普段人が話してる時に口を挟んだりしない。
「なぁ…どうしたんだよ今日は。言いたい事があるならはっきり言えよ」
「今俺達は頭がおかしいんだ、なぁ馨?」
「……だからどうしたんだよ」
「頭がおかしいんだよな…そう、頭がおかしいんだ。だから…これからの事は全部夏の暑さのせいだ」
「……碧?」
「なぁ馨、俺さ…俺……」
そこで碧はまた黙ってしまった。
「……なんだよ、夏の暑さのせいなんだろ。僕だって今頭がおかしいんだ、言えばいいだろ。」
「あぁ…言えばいい…分かってるんだよ」
「なぁ…今日のお前おかしいよ、どうしたんだよ」
いつもと碧の空気が違う。
違和感しかなくて落ち着かない。
「なぁ…あおi…」
碧が僕の目の前に来た。
顔が近い。
目は碧しか映してなくて……。

碧と僕はキスをした。
少女漫画に出てくる様な甘酸っぱくてレモンの味がするようなキスじゃない。
もっともっと苦い、今にも壊れそうな麦茶の味のするキスだった。

それからの事は鮮明に覚えている様で曖昧にしか覚えていない。

1度キスをしてから僕達は何度も何度もキスをした。
普通のキスとは違うキスもした。
碧の舌が口の中に入ってきて、徐々に首筋や僕の身体に移動していった。
そして………。

これは僕達の、そう、たった一度の過ち。
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