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亜利馬、AVモデルになる
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「このマンションね。うちの会社と専属契約結んでる人達の寮なんだ」
「おっきい……」
見上げた建物は五階建てで、部屋数もかなりありそうだ。この部屋全部に芸能人とその卵が住んでいるのか──やっぱり都会はすごい。
獅琉の部屋は五階の角部屋だった。中はすっきりと片付いた1LDKで、一人暮らし用だからかそこまで広くはないものの、それでも俺の実家の部屋と比べたら断然広くて綺麗だ。
「荷物は適当に置いてね。しばらくはソファで寝てもらって、後は好きにしていいよ。飯とか風呂は一人ずつでも一緒でもいいし」
「飯はぜひご一緒したいですけど、風呂は」
獅琉ほどのハンサムなら一緒に風呂に入ってもいいけど、取り敢えず愛想笑いで返しておく。
「亜利馬。始めにスカウトされた時、仕事の説明って岡崎さんからどんな風に聞いてる?」
ダイニングの椅子に座った獅琉が、俺にも椅子を勧めながら質問してきた。スカウトされた時……興奮しすぎて覚えてないけれど、確かテレビ出演とかDVD販売とか、ファンとの交流イベントとか、そんなことを言っていた気がする。
「あ、あとは動画サイトでチャンネル作って宣伝したり、って……」
「ふうん。まぁ、間違っちゃないけど……」
どこか呆れた表情で、獅琉がテーブルに頬杖をついた。
「獅琉さんは今、どんな仕事をしてるんですか?」
「ん。俺は新作DVDの撮影だよ。今度のは俺がメインになるから、他のメンバーよりちょっとだけ忙しい」
「凄い! 主役をやるんですか!」
「主役……うん。……主役、かな……一応」
歯切れの悪い言い方をするのは照れているからだろう。俺は目を輝かせて先輩スターを見つめ、もっと仕事の話を聞こうとテーブルに身を乗り出した。
「映画の撮影とかも?」
「映画はないけど、ロケでハワイ行ったりはしたよ。温泉とかリゾートホテルとかね」
「すごい! 獅琉さんならファンも多そうだし……」
「たまに会社通してプレゼントもらったりするよ。ファンイベントとかは好きだけど、目の前のお客さんを楽しませようって思うと撮影とは別の大変さがあるよね」
「えええ、すごい……」
何を言われても驚いてしまうし、同時にわくわくしてしまう。俺も獅琉のようになれるだろうか。歌や演技には自信ないけれど、空き時間はたくさん稽古して少しでも足を引っ張らないようにしないと。
「お、俺も頑張ります。びしびし鍛えてください、獅琉さん!」
「偉いね。その気持ちを忘れないようにね」
「はいっ!」
決意を固めたその時、獅琉の部屋のインターホンが鳴った。
「あれ、お客さんですか」
「誰だろ? あ、もしかしたら……」
ダイニングの壁に取り付けられた小さなモニターには、何やら派手な恰好をした男が映っている。
「やっぱウルフだ。ちょっと待っててね亜利馬」
「う、ウルフ?」
また随分とワイルドな名前だ。モニターに映っているのは紫色の髪をツンツンに逆立たせた、耳にも唇にもピアスがついているロックな感じの男だった。文句があるのか下唇を突き出した仏頂面で、ポケットに手を突っ込んでだるそうにしている。
「来てくれたんだ、潤歩」
獅琉が玄関のドアを開けると、ウルフ青年が無言のまま面倒臭そうなブーツを脱いでずかずかと部屋に上がり込んで来た。廊下からすぐのダイニングで立ち尽くした俺を見て、眉間に皺を寄せている。
「こ、こんにちは。亜利馬です」
「………」
怖い。どうして何も言ってくれないんだろう。
「おっきい……」
見上げた建物は五階建てで、部屋数もかなりありそうだ。この部屋全部に芸能人とその卵が住んでいるのか──やっぱり都会はすごい。
獅琉の部屋は五階の角部屋だった。中はすっきりと片付いた1LDKで、一人暮らし用だからかそこまで広くはないものの、それでも俺の実家の部屋と比べたら断然広くて綺麗だ。
「荷物は適当に置いてね。しばらくはソファで寝てもらって、後は好きにしていいよ。飯とか風呂は一人ずつでも一緒でもいいし」
「飯はぜひご一緒したいですけど、風呂は」
獅琉ほどのハンサムなら一緒に風呂に入ってもいいけど、取り敢えず愛想笑いで返しておく。
「亜利馬。始めにスカウトされた時、仕事の説明って岡崎さんからどんな風に聞いてる?」
ダイニングの椅子に座った獅琉が、俺にも椅子を勧めながら質問してきた。スカウトされた時……興奮しすぎて覚えてないけれど、確かテレビ出演とかDVD販売とか、ファンとの交流イベントとか、そんなことを言っていた気がする。
「あ、あとは動画サイトでチャンネル作って宣伝したり、って……」
「ふうん。まぁ、間違っちゃないけど……」
どこか呆れた表情で、獅琉がテーブルに頬杖をついた。
「獅琉さんは今、どんな仕事をしてるんですか?」
「ん。俺は新作DVDの撮影だよ。今度のは俺がメインになるから、他のメンバーよりちょっとだけ忙しい」
「凄い! 主役をやるんですか!」
「主役……うん。……主役、かな……一応」
歯切れの悪い言い方をするのは照れているからだろう。俺は目を輝かせて先輩スターを見つめ、もっと仕事の話を聞こうとテーブルに身を乗り出した。
「映画の撮影とかも?」
「映画はないけど、ロケでハワイ行ったりはしたよ。温泉とかリゾートホテルとかね」
「すごい! 獅琉さんならファンも多そうだし……」
「たまに会社通してプレゼントもらったりするよ。ファンイベントとかは好きだけど、目の前のお客さんを楽しませようって思うと撮影とは別の大変さがあるよね」
「えええ、すごい……」
何を言われても驚いてしまうし、同時にわくわくしてしまう。俺も獅琉のようになれるだろうか。歌や演技には自信ないけれど、空き時間はたくさん稽古して少しでも足を引っ張らないようにしないと。
「お、俺も頑張ります。びしびし鍛えてください、獅琉さん!」
「偉いね。その気持ちを忘れないようにね」
「はいっ!」
決意を固めたその時、獅琉の部屋のインターホンが鳴った。
「あれ、お客さんですか」
「誰だろ? あ、もしかしたら……」
ダイニングの壁に取り付けられた小さなモニターには、何やら派手な恰好をした男が映っている。
「やっぱウルフだ。ちょっと待っててね亜利馬」
「う、ウルフ?」
また随分とワイルドな名前だ。モニターに映っているのは紫色の髪をツンツンに逆立たせた、耳にも唇にもピアスがついているロックな感じの男だった。文句があるのか下唇を突き出した仏頂面で、ポケットに手を突っ込んでだるそうにしている。
「来てくれたんだ、潤歩」
獅琉が玄関のドアを開けると、ウルフ青年が無言のまま面倒臭そうなブーツを脱いでずかずかと部屋に上がり込んで来た。廊下からすぐのダイニングで立ち尽くした俺を見て、眉間に皺を寄せている。
「こ、こんにちは。亜利馬です」
「………」
怖い。どうして何も言ってくれないんだろう。
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