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#6 夢魔たちの休日

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「や、やだっ……! サバラ、やめろって……!」
 俺の首筋に吸い付き痕を残しながら、サバラが片手で俺の股間を弄ってくる。いつも穿いている俺のパンツは伸縮性がないから、こうして脚を開いた状態で触れられても全然気持ち良くなくて、もどかしくて、……嫌なのに、もどかしくて。

「なっ、何でこんな、意地悪するんだよぉっ……!」
 可愛いとか純粋とか、そんなこと言いながら俺の反応を見て楽しんでいるくせに。どうせ俺が泣いたり嫌がったりするのを見て、馬鹿にしたいだけのくせに。
「お、俺のことなんか、何とも思ってないくせにっ……」
「マカロ」

 俺の首元から顔を上げて、サバラが言った。
「今の俺はお前にとって、何とも思っていない匂いをさせているか?」
「………」

 匂いは、感情は、嘘をつかない。
 それは俺も、もちろんサバラも分かっていることだった。

「……サバラの匂い、強くなってる」
「そうだろう。今日行った店で放っていた匂いと違うのは、当然分かるな?」
「あの時は、エロい匂いしかしなかった……」
「今はどうだ」
「甘い──」

 言い終わらないうちに、サバラが俺の唇を塞いだ。

「ん、……。ん、ぁ……」
 柔らかくて温かい舌と舌が触れ合い、魔力を込めれば催淫効果さえも発動する夢魔の唾液が口の中で絡み合う。
「んん、っ……」
 キスって、こんな感じなんだ。

「……は、ぁ」
 唇を離して俺の目を覗き込みながら、サバラが笑う。

「そのとろけたエロい顔で、自分がタチだと思ってたのか?」
「だ、だってサバラの舌、俺のことエッチな感じにさせてきてるし……」
「言っておくが催淫の魔力は使ってないぞ」
「う、うそ……」

 それが何を意味しているかは、流石に馬鹿な俺にも分かった──分かってしまった。

 俺、サバラとの普通のキスだけで、こんなに感じてしまってる……。

「この先は合意がないとできない。──マカロ、お前はどうしたい」
「どう、って……」
「俺としては敏感に反応してるお前の精を、口に含んで、たっぷりと味わって、……吸い上げてやりたいが。……当然お前が嫌ならできないからな」

 わざと耳元でいやらしく囁かれて、俺はぎゅっと目をつぶり何度も頷いた。サバラの言葉だけで高ぶりが止まらない。パンツに押さえ付けられた俺のそれは、痛いくらいに張っている。

「して欲しいか?」
「ん、……うん、……」
 俺の「合意」を得たサバラが、更に囁きながらゆっくりと俺のファスナーを下ろして行く。
「堪らない匂いがするぜ、マカロ。炎樽くん以上かもしれないな……自覚はないだろうが」
「あ、う……」
「しゃぶり尽くしてやるよ」
 下ろされたファスナーと外されたボタン。そこから飛び出した俺の屹立に、体をずらしたサバラが、……真上から唇を被せて……

「あぁっ……あっ、やっ……!」
 それは未だかつて経験したことのない、生まれて初めての「快楽」だった。サバラの口に根元まで入ってしまった俺のそれが、中で激しく舐め回されて、音を立ててしゃぶられて、……熱くて気持ち良くて、ソファから腰が浮いてしまう。

「んやっ、あぁ……!」
 口淫がこんなに気持ちいいことも知らずに、よく夢魔を名乗っていられたものだ。俺はただ腹を満たすために何気なく口に含んでいたのに、される側はこんなに気持ち良くて余裕が無くなってしまうなんて──恥ずかしい声が止まらない。

 炎樽も天和にされてる時、こんな気分になってたのかな。
 今日店で会った雪那も、こんなに気持ち良かったのかな。

「サバラ……!」
「ん?」
 俺の顔を上目に見ながら、サバラが更に激しく舌を絡ませ吸い上げてきた。
「そ、んな……だめっ、……だめぇ、……! ちんちん溶けちゃ、……溶けちゃう、……!」

 浮かせた腰とソファの隙間に両手を滑らせ、サバラが俺の尻を思い切り鷲掴みにした。
 そうして真上を向いた俺のそれを口から抜き、側面を何度も舐めながら徐々に唇の位置を下げて行く。

「ふあ、あ……あったか、い……気持ちい……」
 はち切れそうなほどに膨らんだ俺の「種」が詰まっている袋の片方を、サバラが転がすように舌で撫でる。口に含まれて吸われた瞬間、俺の全身を痺れるような稲妻が駆け抜けて行った。

「んあぁっ……!」
 体中がビクビクと痙攣して、見開いた目から涙がどっと溢れてくる。

「サバラ、だめっ、……! そこはだめっ!」
「ここか?」
「や、……!」
 サバラの指先は俺の尻の穴に触れていた。浅いところをくすぐられる感覚は、もちろん俺にとって全くの未知のものだ。指の先をほんの少し挿れられただけで体が固まり、心臓が早鐘を打ち始める。

「だめっ、挿れたら、だめ──」
「力を抜け、マカロ」
「やっ、……だめだって、ば……! サバラ、やめてっ……」
 サバラの指がまた少し俺の中へと入ってきた。内側の肉壁を探るように動かされ、力を抜けと言われてもどうしてもそれができない。

「ん、あ……! 抜いて、ぇ……サバラ、お願い……!」
「俺を信じろ、大丈夫だ」
「やだ、……だめ、……怖い!」
「マカロ、……」

「抜けっつってんだろうがァ──ッ!」


 *


 結婚相手としかしてはいけません。
 子孫を作る目的以外でしてはいけません。
 男同士でしてはいけません。
 無理矢理してはいけません。
 セックスばっかりしてたらいけません。

 親父やお爺ちゃんが教えてくれたことが本当なら、人間達はその時代や国によって色々なセックスに関するルールを作っていたらしい。ルール違反は死刑になる場合もあり、かなり厳しく取り締まっていた時もあったそうだ。
 俺が仕事先として選んだ日本という国には、「無理矢理してはいけません」と、「子供としてはいけません」のルールがある。

「……だからって、何もチビの姿になってまで抵抗することないだろうが」
 顔面を包帯でぐるぐる巻きにされたサバラが、包帯越しのくぐもった声で俺に言った。
「うるさい! やめてって言ったのに!」
「その代償はコレで充分だろう」

 自慢の顔をめちゃくちゃにシバいてやって、少しは気持ちが晴れたけれど。

「………」
 あれ以上続ける余裕なんて俺にはなかった。だってサバラは大嫌いな、……俺の親友なんだから。

「はぁ、仕方ないな。もう遅いし寝るとしよう。泊まって行くんだろ、むくれてないでベッドに入れ」
「……また変なことしないだろうな」
「その姿のお前に手を出したら、俺はこの世界で職を失う」

 もたもたとベッドに上がって、サバラと一緒に布団をかぶる。昔はよくこうして一緒に寝ていた。意地悪された日も喧嘩した日も、寝る時はくっついて温め合っていたっけ。
「……サバラのバカ……」
 サバラの体温があったかくて懐かしくて、つい短い手足でしがみついてしまう。

「全く」
 どこか甘い夢の中、サバラの呆れた声がした。
「無自覚で無防備な落ちこぼれめ」

 それは呆れながらも、ちょっと笑っているような声だった。

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