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武虎の異変
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反抗心からの家出や、単なる迷子ならまだいい。だけどもし、何らかの事故に巻き込まれていたり、誘拐されたりしていたとしたら。
酷いことをされていないか。怪我をしたり、泣いているんじゃないか。──思っただけで気がおかしくなりそうだった。
「俺が叱ったから……」
じわじわと溢れてくる涙と後悔の念を乱暴な手で拭い、いま自分にできることを必死に考える。蒼汰や近所の警官、学校の先生達までもが動いてくれている中、やはり俺だけ家でじっとしている訳にはいかなかった。
「すいません」
俺は家を出て、隣の葉山さん宅の呼び鈴を鳴らした。
「あら、翼くん。どうしたの」
葉山さんの奥さんはエプロン姿で、家の中からは夕食のいい匂いがしている。俺はその温かさに何故だか泣きそうになり、声を詰まらせながらお願いした。
「あの、うちの武虎が、帰って来なくて……。俺も今から探しに行くので、その間にもし武虎が帰ってきたら、葉山さんのお宅で、預かっててもらえないでしょうか」
奥さんが口に手をあて、目を丸くさせる。
「大変じゃない。警察には知らせたの?」
「はい……今、探しに」
「分かった、帰って来たらうちで保護するわ。連絡先教えてちょうだい」
俺は奥さんに自分の番号を告げ、念のために父さんの番号も控えてもらって、一度家に戻った。
帰って来たらお隣に行くようにと書いたメモを玄関に貼り付け、再び夜道を走り始める。公園、河川敷、駅前──どこから探せばいいのか、右を行くべきか左を選ぶべきかも分からない。俺はただ闇雲に走り続け、そして、武虎の名前を叫び続けた。
「翼! 帰ってきたか?」
「蒼汰!」
毎週末サッカーをするために行っている河川敷は、昼間見るそれと違って異様に濃く、途方もないほど広かった。
「まだ帰ってない。隣の家に、武虎が帰ったら保護してもらうように言ってある」
蒼汰が懐中電灯で辺りを照らしながら、ぶるぶると頭を振った。
「……一応。本当に一応、だけどな。川の中も……」
「………」
「もう少ししたら、警察が本格的に捜索を」
そんな大事になってしまっているなんて、どうしても実感が湧いてこない。
だって、そんなことが起きる訳がない。想像もできない。
酷いことをされていないか。怪我をしたり、泣いているんじゃないか。──思っただけで気がおかしくなりそうだった。
「俺が叱ったから……」
じわじわと溢れてくる涙と後悔の念を乱暴な手で拭い、いま自分にできることを必死に考える。蒼汰や近所の警官、学校の先生達までもが動いてくれている中、やはり俺だけ家でじっとしている訳にはいかなかった。
「すいません」
俺は家を出て、隣の葉山さん宅の呼び鈴を鳴らした。
「あら、翼くん。どうしたの」
葉山さんの奥さんはエプロン姿で、家の中からは夕食のいい匂いがしている。俺はその温かさに何故だか泣きそうになり、声を詰まらせながらお願いした。
「あの、うちの武虎が、帰って来なくて……。俺も今から探しに行くので、その間にもし武虎が帰ってきたら、葉山さんのお宅で、預かっててもらえないでしょうか」
奥さんが口に手をあて、目を丸くさせる。
「大変じゃない。警察には知らせたの?」
「はい……今、探しに」
「分かった、帰って来たらうちで保護するわ。連絡先教えてちょうだい」
俺は奥さんに自分の番号を告げ、念のために父さんの番号も控えてもらって、一度家に戻った。
帰って来たらお隣に行くようにと書いたメモを玄関に貼り付け、再び夜道を走り始める。公園、河川敷、駅前──どこから探せばいいのか、右を行くべきか左を選ぶべきかも分からない。俺はただ闇雲に走り続け、そして、武虎の名前を叫び続けた。
「翼! 帰ってきたか?」
「蒼汰!」
毎週末サッカーをするために行っている河川敷は、昼間見るそれと違って異様に濃く、途方もないほど広かった。
「まだ帰ってない。隣の家に、武虎が帰ったら保護してもらうように言ってある」
蒼汰が懐中電灯で辺りを照らしながら、ぶるぶると頭を振った。
「……一応。本当に一応、だけどな。川の中も……」
「………」
「もう少ししたら、警察が本格的に捜索を」
そんな大事になってしまっているなんて、どうしても実感が湧いてこない。
だって、そんなことが起きる訳がない。想像もできない。
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