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武虎の異変

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〈それで、今日はちゃんと英語教室行ったのか〉
「うん。まだ色々と納得してなかったみたいだけど、一応。俺に悪いと思ったのかな。先週、怒っちゃったから」
 この件は父さんにも報告していて、父さんも武虎の変化を心配していた。今日の様子はどうだったのか、それを聞くためにわざわざ会社から電話をかけてきている。
 それとなく父さんも理由を聞いてくれたのだが、武虎は頑なに口を閉ざしていたらしい。元々、変に頑固なのだ。突然の反発もこれが初めてじゃないし、今までもちょっとしたことで武虎を叱ったことは数え切れないほどにある。
 ただ今回は、理由が全く分からないのだ。蒼汰に会いたくない理由があるなら、ちゃんと聞いて一緒に悩んでやりたかった。
〈もしかしたら、翼と蒼汰先生の仲が良過ぎて嫉妬してるのかもしれないぞ〉
「え? でも別に、そんな風に蒼汰と接してるつもりはないけど。動物園の時だって普通だったし」
 俺は受話器を耳にあてたまま、これまでのことを思い返した。蒼汰と俺は表面上はただの友達で、特別に仲が良い素振りなんて全く見せていない。武虎や父さんにはもちろん、二人で会って歩いている時も、それなりに人目を気にして距離を保っている。
 動物園での時も含め、三人でいる時はむしろ武虎が蒼汰を独占していた。蒼汰に構って欲しくて纏わりついて、俺のことなど二の次といった状態だった。もしも蒼汰のことが好き過ぎて嫉妬しているとしたら、会いたくないのは「つばさ」の方だろう。
 だけど……もし本当に、俺を蒼汰に取られたくないと思っているとしたら。それなら、蒼汰に会いたくない気持ちも何となくだが納得できる。
 例えば、初めての弟妹ができて、母親の関心がそちらに行ってしまった時の長男長女の気持ち。或いは、仲の良い兄に恋人ができて、嫉妬する妹の気持ち。それに似ているのかもしれない。
 ──馬鹿だな。
 俺は受話器を置いてから小さく微笑んだ。そんな心配しなくても、俺はいつだって武虎を第一優先にしているのに。今後はこれまで以上に構ってやって、嫉妬なんてする間もないほど安心させてやるべきか。
 早速武虎の好きなお菓子を買って、そのまま徒歩で教室へ向かった。五時半、辺りは既に真っ暗だ。それでも徒歩を選んだのは、たまには手を繋いで夜道をゆっくり歩くのもいいと思ったからだった。
 開いた教室のドアから、子供達が次々に出てくる。俺は電柱の前でコートのポケットに手を突っ込み、武虎が出てくるのを待った。
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