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sunny day

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 良くも悪くも恋愛の力というのは、こういうものなのだろう。
 俺は蒼汰と体で結ばれて以来、今までより明らかに違うテンションで毎日を過ごしていた。早起きも苦にならず、料理にもいつになく気合が入り、父さんと武虎の前でもよく笑う。面倒なことも進んでやったし、一人の夜でも不安になんてならなかった。
 俺には蒼汰がいる。心の支えがある。それを思えば何でも頑張れた。まるで思春期の中学生女子みたいだ。今が楽しくて仕方ない。この幸せが一生涯続くと、根拠もないのについ思い込んでは含み笑いしてしまう。
 今までは考えたくなかった自分の将来も、傍に蒼汰がいてくれるかと思うと何もかもが薔薇色に輝き出す。それは妄想に近い想像だけれど、俺を奮い立たせるには充分な力を持っていた。気付けば俺は、あれほど日課としていた深夜の公園へ行かなくなっていたのだ。
「つばさって、変。最近ずーっとニコニコしてる」
「そうかな。でも、ニコニコしてた方が武虎も嬉しいだろ?」
「うん。そう思う」
 今日は日曜。天気は良好。たまたま武虎のサッカークラブが休みで、前から行ってみたいと言っていた動物園に来ている。武虎はお気に入りの青いキャップと緑色の小さなリュックを背負っていて、それはもう見るからに愛らしかった。
「ゾウ凄かったな」
「凄かった! リンゴ食べてるとこ初めて見た」
「後は何が良かった?」
「パンダと、白クマ。可愛かった」
 色々な種類の猿やリスなども見たし、ヤギに餌もやったし、ウサギも抱いた。今は昼飯の途中だ。作ってきた弁当を広げて芝生に座り、遠目にキリンを眺めている。
「なぐも。キリンって、恐竜から生まれた?」
 シャケのおにぎりを齧りながら、武虎が俺を見上げて言った。
「え、何で?」
「キリンみたいな恐竜見たよ、テレビで」
「ブラキオサウルスか。確かに似てるけど、多分違うんじゃないかな」
「ヘビって、どうやって歩いてるの?」
「う、うーん……」
 思った疑問をそのまま口にする武虎に、俺は困りっ放しだ。こんなことなら、動物園に行くと決まった昨夜のうちに色々と勉強しておけば良かった。
「お待たせ」
 困っているところに、ようやく戻って来た救世主。彼の手には缶ジュースが三本と、首には、園内で人気の動物型バケツに入ったポップコーンがぶら下がっている。
「蒼汰先生!」
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