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「本当に怖いモンスターっていうのはな、……こういうのを言うんだっ!」
 瞬間、教室中が悲鳴と絶叫に包まれた。ゾンビのマスクを被った蒼汰に、子供達は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ回る。黒猫少女が焦って転ぶ。蒼汰が慌てて駆け寄る。耳をつんざく悲鳴。絶叫。阿鼻叫喚。
「そ、蒼汰! やりすぎだ、馬鹿!」
 我に返った俺は蒼汰の顔からマスクを脱がし、涙でぐしゃぐしゃになった黒猫少女の顔をティッシュで拭いてやった。
「悪い悪い。莉々菜、大丈夫か? 怪我してないか」
「蒼汰先生のバカ! アホ!」
「ごめん、ごめんって。痛いよ、グーで腹を殴るな」
「今度やったら、もう先生のお嫁さんにならないからね!」
「マジか」
 子供達の歓声の中、俺はホッとした想いで蒼汰に囁いた。
「ありがとう。武虎、本気で泣きそうになってたから助かった。ほんとありがとう」
「一つ貸しな。後で覚悟しとけ」
「………」
 不敵に笑って囁く蒼汰に、思わず前言撤回したくなる。顔を顰めて露骨に呆れた表情を作ると、蒼汰もまた露骨に邪悪な笑顔を浮かべて応戦してきた。
「オッケー。それじゃあ椅子を丸く並べて、フルーツバスケットの準備!」
 わあっ、と子供達が叫び、椅子を持ってあちこち走り回る。武虎の顔も輝いていて、他の子と一緒に笑い合っている。
   もしも俺が蒼汰と「そこまでの関係」になっていなかったら。俺がここに来ることはなかったし、蒼汰も武虎の性格を知ることはなかった。武虎は他の子にからかわれて沈んだままでパーティーに参加し、場合によっては泣いていたかもしれない。
   今だけ──この瞬間だけ、俺はあの夜蒼汰と知り合ったことを感謝した。
 その後は英単語を使ったいくつかのゲームをし、英語の歌を歌い、蒼汰が子供達にお菓子を配り、皆でそれを食べながら教室を暗くして蒼汰の怪談に聞き入った。
 怖がりながらも、皆楽しそうだ。武虎は友達のバットマンと寄り添って震えているし、例の黒猫少女はここぞとばかりに蒼汰の腕にしがみついている。俺も魔女と妖精に両側から腕を組まれていたが、子供達と一緒になって怪談に震え上がるのは楽しかった。
「………」
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