26 / 59
invitation
3
しおりを挟む
「本当に怖いモンスターっていうのはな、……こういうのを言うんだっ!」
瞬間、教室中が悲鳴と絶叫に包まれた。ゾンビのマスクを被った蒼汰に、子供達は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ回る。黒猫少女が焦って転ぶ。蒼汰が慌てて駆け寄る。耳をつんざく悲鳴。絶叫。阿鼻叫喚。
「そ、蒼汰! やりすぎだ、馬鹿!」
我に返った俺は蒼汰の顔からマスクを脱がし、涙でぐしゃぐしゃになった黒猫少女の顔をティッシュで拭いてやった。
「悪い悪い。莉々菜、大丈夫か? 怪我してないか」
「蒼汰先生のバカ! アホ!」
「ごめん、ごめんって。痛いよ、グーで腹を殴るな」
「今度やったら、もう先生のお嫁さんにならないからね!」
「マジか」
子供達の歓声の中、俺はホッとした想いで蒼汰に囁いた。
「ありがとう。武虎、本気で泣きそうになってたから助かった。ほんとありがとう」
「一つ貸しな。後で覚悟しとけ」
「………」
不敵に笑って囁く蒼汰に、思わず前言撤回したくなる。顔を顰めて露骨に呆れた表情を作ると、蒼汰もまた露骨に邪悪な笑顔を浮かべて応戦してきた。
「オッケー。それじゃあ椅子を丸く並べて、フルーツバスケットの準備!」
わあっ、と子供達が叫び、椅子を持ってあちこち走り回る。武虎の顔も輝いていて、他の子と一緒に笑い合っている。
もしも俺が蒼汰と「そこまでの関係」になっていなかったら。俺がここに来ることはなかったし、蒼汰も武虎の性格を知ることはなかった。武虎は他の子にからかわれて沈んだままでパーティーに参加し、場合によっては泣いていたかもしれない。
今だけ──この瞬間だけ、俺はあの夜蒼汰と知り合ったことを感謝した。
その後は英単語を使ったいくつかのゲームをし、英語の歌を歌い、蒼汰が子供達にお菓子を配り、皆でそれを食べながら教室を暗くして蒼汰の怪談に聞き入った。
怖がりながらも、皆楽しそうだ。武虎は友達のバットマンと寄り添って震えているし、例の黒猫少女はここぞとばかりに蒼汰の腕にしがみついている。俺も魔女と妖精に両側から腕を組まれていたが、子供達と一緒になって怪談に震え上がるのは楽しかった。
「………」
瞬間、教室中が悲鳴と絶叫に包まれた。ゾンビのマスクを被った蒼汰に、子供達は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ回る。黒猫少女が焦って転ぶ。蒼汰が慌てて駆け寄る。耳をつんざく悲鳴。絶叫。阿鼻叫喚。
「そ、蒼汰! やりすぎだ、馬鹿!」
我に返った俺は蒼汰の顔からマスクを脱がし、涙でぐしゃぐしゃになった黒猫少女の顔をティッシュで拭いてやった。
「悪い悪い。莉々菜、大丈夫か? 怪我してないか」
「蒼汰先生のバカ! アホ!」
「ごめん、ごめんって。痛いよ、グーで腹を殴るな」
「今度やったら、もう先生のお嫁さんにならないからね!」
「マジか」
子供達の歓声の中、俺はホッとした想いで蒼汰に囁いた。
「ありがとう。武虎、本気で泣きそうになってたから助かった。ほんとありがとう」
「一つ貸しな。後で覚悟しとけ」
「………」
不敵に笑って囁く蒼汰に、思わず前言撤回したくなる。顔を顰めて露骨に呆れた表情を作ると、蒼汰もまた露骨に邪悪な笑顔を浮かべて応戦してきた。
「オッケー。それじゃあ椅子を丸く並べて、フルーツバスケットの準備!」
わあっ、と子供達が叫び、椅子を持ってあちこち走り回る。武虎の顔も輝いていて、他の子と一緒に笑い合っている。
もしも俺が蒼汰と「そこまでの関係」になっていなかったら。俺がここに来ることはなかったし、蒼汰も武虎の性格を知ることはなかった。武虎は他の子にからかわれて沈んだままでパーティーに参加し、場合によっては泣いていたかもしれない。
今だけ──この瞬間だけ、俺はあの夜蒼汰と知り合ったことを感謝した。
その後は英単語を使ったいくつかのゲームをし、英語の歌を歌い、蒼汰が子供達にお菓子を配り、皆でそれを食べながら教室を暗くして蒼汰の怪談に聞き入った。
怖がりながらも、皆楽しそうだ。武虎は友達のバットマンと寄り添って震えているし、例の黒猫少女はここぞとばかりに蒼汰の腕にしがみついている。俺も魔女と妖精に両側から腕を組まれていたが、子供達と一緒になって怪談に震え上がるのは楽しかった。
「………」
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~
seaco
BL
バー「BIRTH」で働くイケメン久我 侑利(くが ゆうり)は、雨続きで利用したコインランドリーで辛い過去を持つ美人系男子の羽柴 慶(はしば けい)と出会う。
少しずつお互いに気になり始めて、侑利の家に居候する事になる慶。
辛い過去や、新しい出会い、イケメン×無自覚美形の日常の色々な出来事。
登場人物多数。
基本的に「侑利目線」ですが、話が進むにつれて他の登場人物目線も出て来ます。その場合はその都度、誰目線かも書いて行きます。何も無いのは全て「侑利目線」です。
また、予告なく絡みシーンが出て来る事がありますが、グロいものではありません(^^;
初めての投稿作品なので…表現などおかしい所もあるかと思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる