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沢野家の長男たち

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「ソウタ先生ですか」
「桜井蒼汰です。まだ務め始めて間もないので、至らない部分もあるかと思いますが」
「いえ、こちらこそ。……えっと、沢野翼です。一応は武虎の保護者というか、アレなんですけど……」
 心得ています、という表情で桜井蒼汰が頷き、俺に向かって右手を差し出した。
「それじゃあ、また次の金曜日に」
 握手を交わし、互いに少しだけ笑う。
「蒼汰先生、テレビ見せてくれてありがとう」
「お兄ちゃん来て良かったな。また来週、ホームワークちゃんとやってくるんだぞ」
「うん!」
 武虎が俺を押し退けて、桜井蒼汰と握手をする。子供に好かれているのだろう、武虎の頭を撫でる彼の笑顔はどこまでも穏やかで、頼もしかった。
「武虎、遅れたお詫びにコンビニでアイス買ってやるよ。風呂から出たら一緒に食べよう」
「お詫びなのに、つばさもアイス食べるのか?」
「確かに。じゃあ俺はジュースだけにしよう」
「じゃあおれは、アイスとジュースの両方にしよう」
「腹壊すぞ」
 夕焼け空の下、自転車を押しながら武虎と一緒に自宅を目指す。こういう何でもないひと時が、俺は好きだった。
「夕飯、何かな」
「父さんがチャーハン買って帰るって言ってたぞ。多分もう帰って来てると思うけど」
「やった!」
 児童公園から歩いて五分、やがて俺達の住む家が見えてきた。去年外観だけをリフォームしたから見た目は立派な一軒家だが、やはり男所帯だから中は雑然としている。
「ただいま」
 沓脱ぎには俺のスニーカーとブーツ、コンビニ用サンダル、武虎の小さな運動靴と雨の日用の長靴、それから父さんの革靴が何足かと履き古したサンダルが入り乱れている。適当にそれを片付けて框に上がると、奥の台所からけたたましい足音と共に父さんが出て来た。
「おかえり、随分遅かったから心配したぞ」
「ただいま、父さん! つばさが寝坊して迎えに来るの遅かったから、遅くなったんだよ」
「しょうもない翼だな」
 熊のように大柄な父さんが軽々と武虎を抱き上げる。武虎は父さんの太い腕に抱かれながら、その濃い髭に触るのが好きなのだ。
「父さん、チャーハン買って来てくれた?」
「買って来たぞ。俺も腹減ったから、早く食おう」
 武虎を抱いたまま台所へ戻る父さん。俺は右手にコンビニ袋、左手に武虎の稽古鞄を持ってその後を追った。
 台所のテーブルにはプラスチック容器に入ったチャーハンが三つ並んでいる。おかずは輪切りにしたキュウリの塩漬けと、今日の朝食に焼いたウィンナーの残りだ。
「いただきます!」
 相当空腹だったのか、武虎は先の割れたスプーンで勢いよくチャーハンをかき込んでいる。
「こぼすなよ、ほら。ちゃんと牛乳も飲んで」
「俺も汁物、飲みてえな。翼、味噌汁くらい作っといてくれれば良かったのに」
「インスタントで良ければあるけど」
「侘しいね男所帯ってのは。翼お前、いい子いないのか。十八歳なんて普通は彼女の一人や二人、いるモンだろ」
「いないよ」
「夕飯くらい、出来立ての美味い手料理ってのが食いたいなあ」
「美味くない料理ばっか作ってて悪かったな」
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