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亜利馬、覚醒!?
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俺だって腐ってもAVモデル。正真正銘、それで生活をしている。プロだ。
「ででででも、ここ、こんなにお客さんが……? きき、緊張して……おしっこが出そうです……」
控え室のモニターに映る会場の様子に、俺は早くも逃げ腰になっていた。ちょっとしたバンドのライブ会場みたいだ。みんな手にパンフレットのような物を持ってるし、スマホに表示させたモデルについてのお喋りをしているし、中にはがっつりモデル名が入った自作のTシャツを着ている凄い人もいる。
今回はAV撮影ということで、女性客は無しだ。『女性限定イベントもやってください!』というお姉さん達からのお怒りコメントもあったけれど、まさか撮影の企画とはいえ男同士のセックスを女性に堂々と見せるわけにはいかない。普通のファンイベントでは女性客が圧倒的に多いらしいけれど。
「大丈夫だよ亜利馬。あの人達も全員エキストラのモデルだって思えば、何てことないでしょ?」
「なな、何てことあります! どうしよう、俺が出てブーイングとか起きませんかね?」
「それはないって。ちゃんと観客の人達にも指示が出てて、絶対ないけど万が一ヤジとかブーイングが起きたら即中止! ってことになってるから。屈強なガチムチ警備員もいっぱいいるし」
「おい、亜利馬。今のうちに小便行っとけよ。百五十人の前でお漏らしとか、洒落になんねえからな!」
潤歩のからかいも、今の俺には脅迫のごとく重くのしかかる。俺にもできるプレイ内容だからと甘くみていた。まさかこんなに緊張してしまうなんて。……こんなに震えてて、本当にできるのか?
「亜利馬くん、トイレなら俺がついて行きますよ!」
「あ、秋常さん……お、お願いします……」
もはや介護状態で秋常に支えられながら、俺は控え室から廊下へ出てトイレに向かった。
以前はかなり大きなストリップ小屋として使われていたらしいこの会場は、今ではAVの撮影でよく利用されているとのことだ。そのためかセット的にも撮影に適していて、当然レンタル料も高い。もちろん失敗は許されない。
「ああ、亜利馬くん……俺がいるから大丈夫です。安心して用を足してください」
「はい……」
どうして秋常はそんなに落ち着いていられるんだろう。普段と全く変わらないじゃないか。
「緊張する気持ちも分かります。でも、それ以上に楽しみでしょう?」
「え……?」
「内容はどうであれ、皆で一つのイベントを成功させるのって大変な達成感があると思います。俺達全員、今日のために練習も頑張ってきたんですから」
「………」
「それに、メーカーも会場を押さえて、衣装を発注して、企画を考えて機材を用意してセットして……皆で一つのイベントを作ってるんです。もちろん、会場にいるファンの方々もその一部ですよ」
俺は口を開けて秋常の笑顔を見つめていた。確かにその通りだ。緊張してるのは俺だけじゃないし、もしも失敗して焦るのも俺だけじゃない。がっかりするのも、後悔するのも。
「当然、良い意味も含まれてますよ。緊張してても怖くても一人だと思わないでください。いつでも近くに仲間がいます。メンバーも、スタッフの方々もです」
温かい言葉に勇気付けられて、俺は秋常の手を握って笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。……俺、ちょっと自信出てきました!」
ニッと目を細めて、秋常も笑う。そのまま柔らかい髪をかきあげた彼の優しい表情には、あの日倉庫で俺に見せた怖い顔なんて微塵も残っていない。……彼もまた俺の大事な仲間なんだ。
「じゃ、行きましょうか亜利馬くん」
「はい! ……あ、ごめんなさい秋常さん。俺、手洗わないで握手しちゃいました……」
「いいんですよ、そんなこと。気にしないでください……って、そのまま髪触ってしまったあぁッ!」
「あああ……す、すいませんっ……!」
俺だって腐ってもAVモデル。正真正銘、それで生活をしている。プロだ。
「ででででも、ここ、こんなにお客さんが……? きき、緊張して……おしっこが出そうです……」
控え室のモニターに映る会場の様子に、俺は早くも逃げ腰になっていた。ちょっとしたバンドのライブ会場みたいだ。みんな手にパンフレットのような物を持ってるし、スマホに表示させたモデルについてのお喋りをしているし、中にはがっつりモデル名が入った自作のTシャツを着ている凄い人もいる。
今回はAV撮影ということで、女性客は無しだ。『女性限定イベントもやってください!』というお姉さん達からのお怒りコメントもあったけれど、まさか撮影の企画とはいえ男同士のセックスを女性に堂々と見せるわけにはいかない。普通のファンイベントでは女性客が圧倒的に多いらしいけれど。
「大丈夫だよ亜利馬。あの人達も全員エキストラのモデルだって思えば、何てことないでしょ?」
「なな、何てことあります! どうしよう、俺が出てブーイングとか起きませんかね?」
「それはないって。ちゃんと観客の人達にも指示が出てて、絶対ないけど万が一ヤジとかブーイングが起きたら即中止! ってことになってるから。屈強なガチムチ警備員もいっぱいいるし」
「おい、亜利馬。今のうちに小便行っとけよ。百五十人の前でお漏らしとか、洒落になんねえからな!」
潤歩のからかいも、今の俺には脅迫のごとく重くのしかかる。俺にもできるプレイ内容だからと甘くみていた。まさかこんなに緊張してしまうなんて。……こんなに震えてて、本当にできるのか?
「亜利馬くん、トイレなら俺がついて行きますよ!」
「あ、秋常さん……お、お願いします……」
もはや介護状態で秋常に支えられながら、俺は控え室から廊下へ出てトイレに向かった。
以前はかなり大きなストリップ小屋として使われていたらしいこの会場は、今ではAVの撮影でよく利用されているとのことだ。そのためかセット的にも撮影に適していて、当然レンタル料も高い。もちろん失敗は許されない。
「ああ、亜利馬くん……俺がいるから大丈夫です。安心して用を足してください」
「はい……」
どうして秋常はそんなに落ち着いていられるんだろう。普段と全く変わらないじゃないか。
「緊張する気持ちも分かります。でも、それ以上に楽しみでしょう?」
「え……?」
「内容はどうであれ、皆で一つのイベントを成功させるのって大変な達成感があると思います。俺達全員、今日のために練習も頑張ってきたんですから」
「………」
「それに、メーカーも会場を押さえて、衣装を発注して、企画を考えて機材を用意してセットして……皆で一つのイベントを作ってるんです。もちろん、会場にいるファンの方々もその一部ですよ」
俺は口を開けて秋常の笑顔を見つめていた。確かにその通りだ。緊張してるのは俺だけじゃないし、もしも失敗して焦るのも俺だけじゃない。がっかりするのも、後悔するのも。
「当然、良い意味も含まれてますよ。緊張してても怖くても一人だと思わないでください。いつでも近くに仲間がいます。メンバーも、スタッフの方々もです」
温かい言葉に勇気付けられて、俺は秋常の手を握って笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。……俺、ちょっと自信出てきました!」
ニッと目を細めて、秋常も笑う。そのまま柔らかい髪をかきあげた彼の優しい表情には、あの日倉庫で俺に見せた怖い顔なんて微塵も残っていない。……彼もまた俺の大事な仲間なんだ。
「じゃ、行きましょうか亜利馬くん」
「はい! ……あ、ごめんなさい秋常さん。俺、手洗わないで握手しちゃいました……」
「いいんですよ、そんなこと。気にしないでください……って、そのまま髪触ってしまったあぁッ!」
「あああ……す、すいませんっ……!」
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