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亜利馬、落ちた先はセクハラ大地獄
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しおりを挟む俺の母ちゃんは世間でいう「肝っ玉系」で、よく笑いすぐ怒る、だけど頼もしい人だった。
父ちゃんは田舎者のくせに江戸っ子気質で、情に脆く、酒を飲んでだらけては母ちゃんに蹴られていた。
そんな二人に育てられた一人っ子の俺は、平々凡々な人生を歩んできたと思う。成績は悪くても友人には恵まれ、子供の頃はパンツ一丁で近所を走り回る鼻たれ小僧だった。虫も平気で触れたし水溜まりの上で思い切りジャンプして、台風の日に意味なく外で万歳していた子供だった。
おっかないけど料理上手な母ちゃんと、酒飲みでだらしないけど豪快な父ちゃん。俺の「両親」のイメージは、こんな感じだ。
「亜利馬、美味しいパンケーキが焼けましたわよ。さあお食べなさい」
「……は、はい」
「亜利馬、学校のテストはどうだったんだ。また赤点じゃないだろうな? はっはっは」
「う、うーん……」
優雅でお上品な獅琉ママと、英字新聞が良く似合うエリートサラリーマンな竜介パパ。ホテルみたいな朝食。汚れ一つない立派なダイニングテーブル。
「な、何か違うんですよね。不満はないし二人ともハマり役なんですけど、そこに俺が息子としているというのは……場違いというか」
溺愛される末っ子というよりは、もはや「亜利馬お坊ちゃま」だ。もちろん悪い気なんてしないし、出来る事ならこんな家庭に生まれてもみたかった。
だけど今回の企画は「末っ子に執着しまくるちょっとアレな家族」だ。上手く説明できないけれど、キラキラ輝くお坊ちゃま扱いは少し違うような気がする。
「それに獅琉さんは母親役だけど、別に女性っぽくしなくていいんじゃないですか? そこはAVのネタなんですから、いつも通りのキャラでいいと思いますよ」
「え、俺女っぽくなってた?」
「言葉遣いが微妙に……」
ふりふりのエプロンを着けて「そうかしらね?」と首を傾げる獅琉。それがまた似合うから余計リアルになってしまう。
「二丁目のオネエさんじゃないんですから」
「じゃあ、亜利馬の本当のお母さんっぽくやった方がいいかな? 頼もしい人なんでしょ」
「それはもっと駄目です! ファンの人が引いちゃいます!」
年齢が違い間柄での家族の演技って難しい。竜介は一番お父さんぽくはあるけど、普段の彼が誰よりも常識人だからか、全然俺に執着しているようには見えないのだ。
「もっと俺を好きになってください!」
「すごい台詞だね。亜利馬のことはみんな大好きだよ」
「もっともっとです。よく分からないけど、溺愛の域を超えた、もっとドロドロとした愛情っていう感じの……うーん、そうだ。二人は『息子を性的な目で見てる』ってことでしょ。爽やかさよりも狂気を感じるくらいで構わないんじゃないですかね」
「狂気ねぇ」
獅琉が宙を見つめ、やがて「分かった!」と手のひらを拳で叩いた。
「亜利馬、牛乳飲む?」
「え? はい、飲みます」
グラスに注がれていた牛乳を獅琉が口に含み、──にんまりと笑ってそのまま俺に口付けてきた。
「んぶっ……!」
急過ぎて対応できず、口元からダラダラと牛乳が零れてしまう。
「んはぁっ……し、獅琉さん……!」
更には口を拭こうとティッシュに伸ばした手を獅琉に掴まれ、なおも垂れ続ける牛乳を舌で舐め取られる。ねっとりとした、いやらしい舌使いだ。
「亜利馬、零すなんていけない子だよ。初めからマナーを教えないとね」
「うぅ……」
「……って感じで、テーブルの上で『獅琉ママのマナー教室』が始まるのはどう? 亜利馬の体をパンケーキに見立てて、シロップかけたりクリーム塗ったりするの」
「た、たしかにそれはマニアックな愛情だな……」
得意げに説明する獅琉に、流石の竜介も引き攣った笑みを浮かべている。
「みんなで食べるのもいいかもね。俺は亜利馬のアソコをフォークでつんつんしちゃおうかな」
「や、やめてくださいそんなのっ! 考えただけでゾッとします……!」
「しかも、それだとマナー教室ではなくただの料理教室だろう」
竜介のツッコミに、獅琉が目を輝かせた。
「それいい! 料理教室! もちろん食べ物は粗末にできないけど、俺が亜利馬の体と一緒に全部食べちゃえば良さそうだもん! まさに『食べちゃいたいほど愛してる』って感じじゃん!」
「ええ……何か気乗りしないです……」
「山野さんにメールしとこっと」
普通なら企画内容はメーカーが考えるのだけど、今回は俺達による俺達のための企画ということで、簡単な設定やプレイ内容にも関わっていくらしい。
普段は与えられたものしかできない分、獅琉は「自分のやりたいプレイを考える」ということを心底楽しんでいるらしかった。
……色々な意味で、新しい挑戦になりそうだ。
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