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第19話 スプラッシュ!!
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そうして、午後三時。
マンションからタクシーを呼んでホテルへ行き、緊張しながらエントランスへ入るとラウンジで頼寿がコーヒーを飲んでいた。スーツだし珍しくオールバックだし、何だこのエリートオーラは……物凄く声をかけづらい。
「よ、頼寿……」
「ああ、タマか。早かったな」
長い脚を組んで、カップを手に笑う頼寿。こんなことなら俺も快晴に服を見立ててもらえばよかった。どうせ脱ぐからと普段着で来てしまって、馬鹿みたいだ。
「お前も何か飲むか」
「いい、いい。それより早く部屋に行きたい」
「なんだ、偉く気合いが入ってるな」
「一息つきたいんだよ」
ん、と言って、頼寿が残りのコーヒーを飲み干してから立ち上がった。こうして向かい合うと改めて頼寿との身長差を実感し、今更ながら「どうしてこんな色男が俺を?」という気分になる。
とはいえ今は、今夜のステージだ。雑念を振り払ってエレベーターに乗り、頼寿の指が二十階のボタンを押すのをじっと見つめる。
「………」
「……なあ、頼寿。今夜のアレって、何人くらいお客さん来るんだ?」
「ざっと三十くらいだな」
「はあぁ……」
三十人も来るのか。最上階のラウンジがどれだけ広いか分からないけれど、絶対に失敗できない。
「んあああ!」
エレベーターを降りて部屋に入るなり、俺はキングサイズのベッドにダイブした。緊張から今にも体が爆発しそうだった。
ここは時間がくるまで俺達が待機する部屋だ。ホテル側が運んでくれたのだろう、三上グループを始め会長と懇意にしている会社やサルベージからの花や差し入れが置いてある。
「まだ時間はある、ゆっくりしてろ」
頼寿がネクタイを緩めながらベッドに腰かけ、セットしていた髪をぐしゃぐしゃにし始めた。
「ホテルの人に挨拶してたの?」
「ラウンジでセックスを見せるホテルなんて日本じゃ滅多にねえからな。コッチも高い金払ってるわけだし、打ち合わせは必要だろ」
「俺も同席した方が良かったんじゃ……」
「お前、どうせ昨日は緊張で寝てねえだろ。なるべく日中は寝かせてやりたかった」
以前の俺なら「子供扱いしやがって」と文句を言っていただろう。今は素直に有難いと思える、頼寿の優しさ。……悔しいけど、やっぱり好きだ。
俺は頬を熱くさせながら、ベッドに横たわったまま頼寿に訊ねた。
「ラウンジの円柱型プールって、普段からこういうショーをやってるの? 男が二人入れるって相当デカいよね? まさか普段はイルカが泳いでるとかじゃないだろうな」
「イルカが泳ぐには狭いだろうな。普段はライトアップしてるだけで、たまに接待に使う時は裸の女を泳がせるんだってよ」
「へえぇ……!」
水槽の中で裸の女の人が泳いでいるのを見る方が映えそうだ。人魚みたいにキラキラして、エロいというより美しいだろうなと想像する。
「ちなみに一般客は、最上階にラウンジがあることさえ知らねえとのことだ」
「はぁ……。世の中って、普通に生きてたら知らないままなことだらけだなぁ……」
くすくすと笑って、頼寿が俺の頬に手を伸ばしてきた。
「お前は一般常識さえ知らなかったもんな」
「う、うるさい……」
頼寿の指が頬に触れる。それだけで体がゾクッとして、つい声が上ずってしまった。
「セックスも最近知ったばかりの玉雪が、十月にはショーSMクラブの店長か。人生分からねえモンだな」
マンションからタクシーを呼んでホテルへ行き、緊張しながらエントランスへ入るとラウンジで頼寿がコーヒーを飲んでいた。スーツだし珍しくオールバックだし、何だこのエリートオーラは……物凄く声をかけづらい。
「よ、頼寿……」
「ああ、タマか。早かったな」
長い脚を組んで、カップを手に笑う頼寿。こんなことなら俺も快晴に服を見立ててもらえばよかった。どうせ脱ぐからと普段着で来てしまって、馬鹿みたいだ。
「お前も何か飲むか」
「いい、いい。それより早く部屋に行きたい」
「なんだ、偉く気合いが入ってるな」
「一息つきたいんだよ」
ん、と言って、頼寿が残りのコーヒーを飲み干してから立ち上がった。こうして向かい合うと改めて頼寿との身長差を実感し、今更ながら「どうしてこんな色男が俺を?」という気分になる。
とはいえ今は、今夜のステージだ。雑念を振り払ってエレベーターに乗り、頼寿の指が二十階のボタンを押すのをじっと見つめる。
「………」
「……なあ、頼寿。今夜のアレって、何人くらいお客さん来るんだ?」
「ざっと三十くらいだな」
「はあぁ……」
三十人も来るのか。最上階のラウンジがどれだけ広いか分からないけれど、絶対に失敗できない。
「んあああ!」
エレベーターを降りて部屋に入るなり、俺はキングサイズのベッドにダイブした。緊張から今にも体が爆発しそうだった。
ここは時間がくるまで俺達が待機する部屋だ。ホテル側が運んでくれたのだろう、三上グループを始め会長と懇意にしている会社やサルベージからの花や差し入れが置いてある。
「まだ時間はある、ゆっくりしてろ」
頼寿がネクタイを緩めながらベッドに腰かけ、セットしていた髪をぐしゃぐしゃにし始めた。
「ホテルの人に挨拶してたの?」
「ラウンジでセックスを見せるホテルなんて日本じゃ滅多にねえからな。コッチも高い金払ってるわけだし、打ち合わせは必要だろ」
「俺も同席した方が良かったんじゃ……」
「お前、どうせ昨日は緊張で寝てねえだろ。なるべく日中は寝かせてやりたかった」
以前の俺なら「子供扱いしやがって」と文句を言っていただろう。今は素直に有難いと思える、頼寿の優しさ。……悔しいけど、やっぱり好きだ。
俺は頬を熱くさせながら、ベッドに横たわったまま頼寿に訊ねた。
「ラウンジの円柱型プールって、普段からこういうショーをやってるの? 男が二人入れるって相当デカいよね? まさか普段はイルカが泳いでるとかじゃないだろうな」
「イルカが泳ぐには狭いだろうな。普段はライトアップしてるだけで、たまに接待に使う時は裸の女を泳がせるんだってよ」
「へえぇ……!」
水槽の中で裸の女の人が泳いでいるのを見る方が映えそうだ。人魚みたいにキラキラして、エロいというより美しいだろうなと想像する。
「ちなみに一般客は、最上階にラウンジがあることさえ知らねえとのことだ」
「はぁ……。世の中って、普通に生きてたら知らないままなことだらけだなぁ……」
くすくすと笑って、頼寿が俺の頬に手を伸ばしてきた。
「お前は一般常識さえ知らなかったもんな」
「う、うるさい……」
頼寿の指が頬に触れる。それだけで体がゾクッとして、つい声が上ずってしまった。
「セックスも最近知ったばかりの玉雪が、十月にはショーSMクラブの店長か。人生分からねえモンだな」
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