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第18話 会長と頼寿と覚悟の夜
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その日は会長と二人だけで朝を過ごし、それから外に出てショッピングを楽しんだ。何の目的もない「デート」だ。アイスを食べて、色んな店を見て、映画を観て──この感じ、とても久しぶりだ。前は歩いていても会長のことしか考えてなくて、しかも腕に引っ付いて全身で甘えていたけれど、今は心に余裕があるお陰で節度ある振る舞いができている。
会長は大人だ。俺も大人になって、会長の隣に立つのに相応しい完璧な「愛人」になるんだ。
「さて、もうこんな時間だ。頼寿と合流しようか」
午後七時に早めのディナーを済ませて、夏の空が薄暗くなった頃。会長が車を呼んで、俺は行き先も知らされないまま後部座席に乗り込んだ。
「会長、そろそろどこに行くのか教えてください。頼寿はどこに?」
隣に座った会長に訊ねると、俺の期待する答えどころか全く予想もしていなかったことを言われた。
「玉雪は、頼寿のどこに惚れたんだい」
「ええっ! な、何ですか急に……」
「いいじゃないか! あの通り頼寿はいい男だが、玉雪は外見で惚れるタイプではないからな。頼寿のことは俺も息子のように思っている。大事な息子のどこに、大事な玉雪が惚れたのか知りたいのさ」
「う、……」
俺は縮こまって、膝の上で両手を組み合わせた。
頼寿のどこが好き。訊かれると返答に詰まる。
どこが嫌いか、なら山ほど答えられたはずなのに。
だけどそれは頼寿の良いところが分からないのではなく、単純に恥ずかしくて言いにくいだけだ。今までそんなこと、口にしたことなかったから。
「い、言わなきゃダメですか」
「目的地まで時間はたっぷりある。沈黙が気にならないなら秘密のままでいいが」
イタズラっぽく笑う会長。その笑顔からは本当に頼寿も俺のことも愛しているというのが伝わってくる。
「えっと……」
俺は頬をカッカと熱くさせながら、少しずつ会長に白状した。
「頼寿の好きなところは、……強いところ。自分を持ってて、曲げないところ。たまにそれが腹立つこともあるけど……頼寿はいつも間違ってないし、何か言ってもらえるだけで安心できる。厳しいけど、厳しくするのは俺のためになってて──」
恥ずかしくてそこで止めてしまったが、会長は満足げだった。俺の手を握り、何度も力強く頷いている。
「やはり、俺にはできないことをしてくれている。頼寿をお前に会わせて本当に良かった……」
「でも、俺を『人間』にしてくれたのは会長です。俺が今ここにいるのは、全部会長のお陰です」
「お前のことは本当に大事に想っているよ。いつでもお前の味方だ。頼寿に任せれば安心だが、お前にも覚悟を持ってもらいたいんだ」
覚悟。
会長が俺の頬に触れ、真剣な目で言った。
「本来ならセックスを他人に見せるなんて考えられない行為だろう。ましてや、それで儲けるなど。常軌を逸していると言われても──」
「違います、会長!」
会長の言葉を遮り、その手を握って胸にあてる。
「確かに恥ずかしくて緊張するけど……常軌を逸しているなんて思いません。性風俗は人類に必要不可欠です。セックスがカッコいいショーになるってこともサルベージで知ったし、それに……」
頭の中に頼政さんの顔が浮かび、俺は少しだけ苦笑した。
「それに、セックスは芸術にもなります。絵画に音楽、映画、詩、他にもいっぱい。……ライブステージだって」
会長の手に頭を撫でられ、俺は唇を噛みしめた。普段そんなこと思ってもいなかったのに、スラスラと言葉にできて自分でも驚いてしまう。
──セックスは芸術。この考え方って、おかしいかな。
「そうか。杞憂だったな」
会長が俺の頭を撫で続け、言った。
「とっくに覚悟はできているようだ」
会長は大人だ。俺も大人になって、会長の隣に立つのに相応しい完璧な「愛人」になるんだ。
「さて、もうこんな時間だ。頼寿と合流しようか」
午後七時に早めのディナーを済ませて、夏の空が薄暗くなった頃。会長が車を呼んで、俺は行き先も知らされないまま後部座席に乗り込んだ。
「会長、そろそろどこに行くのか教えてください。頼寿はどこに?」
隣に座った会長に訊ねると、俺の期待する答えどころか全く予想もしていなかったことを言われた。
「玉雪は、頼寿のどこに惚れたんだい」
「ええっ! な、何ですか急に……」
「いいじゃないか! あの通り頼寿はいい男だが、玉雪は外見で惚れるタイプではないからな。頼寿のことは俺も息子のように思っている。大事な息子のどこに、大事な玉雪が惚れたのか知りたいのさ」
「う、……」
俺は縮こまって、膝の上で両手を組み合わせた。
頼寿のどこが好き。訊かれると返答に詰まる。
どこが嫌いか、なら山ほど答えられたはずなのに。
だけどそれは頼寿の良いところが分からないのではなく、単純に恥ずかしくて言いにくいだけだ。今までそんなこと、口にしたことなかったから。
「い、言わなきゃダメですか」
「目的地まで時間はたっぷりある。沈黙が気にならないなら秘密のままでいいが」
イタズラっぽく笑う会長。その笑顔からは本当に頼寿も俺のことも愛しているというのが伝わってくる。
「えっと……」
俺は頬をカッカと熱くさせながら、少しずつ会長に白状した。
「頼寿の好きなところは、……強いところ。自分を持ってて、曲げないところ。たまにそれが腹立つこともあるけど……頼寿はいつも間違ってないし、何か言ってもらえるだけで安心できる。厳しいけど、厳しくするのは俺のためになってて──」
恥ずかしくてそこで止めてしまったが、会長は満足げだった。俺の手を握り、何度も力強く頷いている。
「やはり、俺にはできないことをしてくれている。頼寿をお前に会わせて本当に良かった……」
「でも、俺を『人間』にしてくれたのは会長です。俺が今ここにいるのは、全部会長のお陰です」
「お前のことは本当に大事に想っているよ。いつでもお前の味方だ。頼寿に任せれば安心だが、お前にも覚悟を持ってもらいたいんだ」
覚悟。
会長が俺の頬に触れ、真剣な目で言った。
「本来ならセックスを他人に見せるなんて考えられない行為だろう。ましてや、それで儲けるなど。常軌を逸していると言われても──」
「違います、会長!」
会長の言葉を遮り、その手を握って胸にあてる。
「確かに恥ずかしくて緊張するけど……常軌を逸しているなんて思いません。性風俗は人類に必要不可欠です。セックスがカッコいいショーになるってこともサルベージで知ったし、それに……」
頭の中に頼政さんの顔が浮かび、俺は少しだけ苦笑した。
「それに、セックスは芸術にもなります。絵画に音楽、映画、詩、他にもいっぱい。……ライブステージだって」
会長の手に頭を撫でられ、俺は唇を噛みしめた。普段そんなこと思ってもいなかったのに、スラスラと言葉にできて自分でも驚いてしまう。
──セックスは芸術。この考え方って、おかしいかな。
「そうか。杞憂だったな」
会長が俺の頭を撫で続け、言った。
「とっくに覚悟はできているようだ」
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