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第18話 会長と頼寿と覚悟の夜
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会長と、俺と頼寿と。
いつもと同じ並びで食卓を囲み、頼寿の手作り料理に舌鼓をうつ。会話も多く楽しいディナーは演出ではなく、会長がいるだけで普段より俺のテンションが上がってしまうのは前と少しも変わらない。
「プールのステージも楽しみにしているぞ、玉雪。泳げるようにはなったと頼寿に聞いたが」
「スパルタ教育のお陰で、一応は……。あっ、でも会長、頼寿のお兄さんに会ったんですけど、凄かったですよ! 庭にプールがあって、シェパードの仔犬がいて!」
「おお、頼政くんか。俺も前に会ったが今は絵描きをしていると聞いたな。弟の頼寿と同じで才能溢れる若者だ」
頼寿は黙って食事をしている。俺と会長の会話を邪魔しないように。
いつ切り出そう。やっぱり食後のワインやデザートが終わった後の方がいいだろうか。ああでも、会長は疲れてるんだ。食べ終わったらお風呂に入りたいだろうし、ゆっくり睡眠もとりたいだろうし……
考えるほど混乱する俺に、もちろん頼寿は気付いている。会長がトイレに立った時、呆れたように笑いながら「大丈夫かよ」と言われてしまったほどだ。
「言い難いなら、俺が言ってやるが」
「だ、大丈夫……。俺が自分で言わないと」
「まあ、同席してる以上は俺もちゃんと意見を言うつもりだ。旦那を信じろ、タマ」
「……う、うん」
それから会長が戻ってきて、再び俺の隣の椅子に座った。
「で、どこまで話したか。玉雪の成人式に着る袴の話はしたかな」
「あ、あの、会長──」
「ん?」
俺は握っていたフォークをテーブルに置き、深呼吸しながら目をつぶった。
言う。言わなきゃ。言うべきなんだ。
「どうした玉雪」
「あの、俺実はその、……会長にご報告があって」
「ああ、分かった。その前に頼寿、ワインを頼めるかな」
「はい」
グラスに注がれた赤ワイン。会長がそれを一口飲んでから、俺の方へ顔を向けた。
「何かな、報告とは」
「あ……えっと、俺……」
頼寿は黙って俺を見ている。会長も目を丸くさせて俺を見ている。
勇気を振り絞る場面なんて、これまでの人生では殆どなかった。いつだって流されて諦めてばかりだった。
そこから救ってくれたのは、他でもない三上会長。
会長にこれ以上、隠し事はしたくない──。
「俺」
顔を上げ、俺ははっきりと真正面から会長の目を見つめて言った。
「俺、頼寿のことを好きになってしまって」
「玉雪、……」
「頼寿と、……付き合っています」
──言ってしまった。もう後戻りはできない。
「………」
次に会長が何を言うか……それを考えると怖くて、今にも息が止まりそうだった。
嫌われたくない。傷付けたくない。でも、嘘もつきたくない。
とにかくこうなった以上、会長が何を言っても受け入れるしかないんだ。怖くて仕方がないけれど覚悟はしている。
「──玉雪」
いつもと同じ並びで食卓を囲み、頼寿の手作り料理に舌鼓をうつ。会話も多く楽しいディナーは演出ではなく、会長がいるだけで普段より俺のテンションが上がってしまうのは前と少しも変わらない。
「プールのステージも楽しみにしているぞ、玉雪。泳げるようにはなったと頼寿に聞いたが」
「スパルタ教育のお陰で、一応は……。あっ、でも会長、頼寿のお兄さんに会ったんですけど、凄かったですよ! 庭にプールがあって、シェパードの仔犬がいて!」
「おお、頼政くんか。俺も前に会ったが今は絵描きをしていると聞いたな。弟の頼寿と同じで才能溢れる若者だ」
頼寿は黙って食事をしている。俺と会長の会話を邪魔しないように。
いつ切り出そう。やっぱり食後のワインやデザートが終わった後の方がいいだろうか。ああでも、会長は疲れてるんだ。食べ終わったらお風呂に入りたいだろうし、ゆっくり睡眠もとりたいだろうし……
考えるほど混乱する俺に、もちろん頼寿は気付いている。会長がトイレに立った時、呆れたように笑いながら「大丈夫かよ」と言われてしまったほどだ。
「言い難いなら、俺が言ってやるが」
「だ、大丈夫……。俺が自分で言わないと」
「まあ、同席してる以上は俺もちゃんと意見を言うつもりだ。旦那を信じろ、タマ」
「……う、うん」
それから会長が戻ってきて、再び俺の隣の椅子に座った。
「で、どこまで話したか。玉雪の成人式に着る袴の話はしたかな」
「あ、あの、会長──」
「ん?」
俺は握っていたフォークをテーブルに置き、深呼吸しながら目をつぶった。
言う。言わなきゃ。言うべきなんだ。
「どうした玉雪」
「あの、俺実はその、……会長にご報告があって」
「ああ、分かった。その前に頼寿、ワインを頼めるかな」
「はい」
グラスに注がれた赤ワイン。会長がそれを一口飲んでから、俺の方へ顔を向けた。
「何かな、報告とは」
「あ……えっと、俺……」
頼寿は黙って俺を見ている。会長も目を丸くさせて俺を見ている。
勇気を振り絞る場面なんて、これまでの人生では殆どなかった。いつだって流されて諦めてばかりだった。
そこから救ってくれたのは、他でもない三上会長。
会長にこれ以上、隠し事はしたくない──。
「俺」
顔を上げ、俺ははっきりと真正面から会長の目を見つめて言った。
「俺、頼寿のことを好きになってしまって」
「玉雪、……」
「頼寿と、……付き合っています」
──言ってしまった。もう後戻りはできない。
「………」
次に会長が何を言うか……それを考えると怖くて、今にも息が止まりそうだった。
嫌われたくない。傷付けたくない。でも、嘘もつきたくない。
とにかくこうなった以上、会長が何を言っても受け入れるしかないんだ。怖くて仕方がないけれど覚悟はしている。
「──玉雪」
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