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第6話 あめ欲しい!
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快晴のパエリアは少し辛口だけどレストランで食べるヤツみたいに美味かった。食後のカフェオレも、泡の風呂も、風呂上がりのアイスも全部最高だった。
「………」
だけど俺の機嫌は悪かった。
頼寿も快晴も、俺のことなど全く気にせず世間話をしたり時々笑ったり、ビールを飲んだり煙草を吸ったりしている。
俺の部屋なのに。俺のリビング、俺のソファ、俺のトイレに俺の風呂。全部俺の物なのに、この二人は──特に頼寿は我が物顔で部屋の中央にあるソファにふんぞり返っているのだ。
腹に溜まったストレスを言葉にして吐き出したいけれど、言ったところで現状は変わらない。それどころか頼寿は面白がって、ますます俺を怒らせるようなことを言うだろう。
……ムカつく。ムカつく!
「ご、ご機嫌ななめですね坊ちゃん……」
「……快晴は悪くない」
そう、快晴は全く悪くない。この家にいるのは頼寿に呼ばれたからだし、俺をバカ扱いしないでくれるし、アメもくれた。イケメンだし優しい。
「頼寿さんに色々と扱かれて大変だと思いますが、めげないで下さいね」
「……別にめげてないし」
その頼寿は、今は風呂に入っている。快晴はチラリと廊下の向こうの浴室に目を向けてから、苦笑して俺に向き直った。
「はしゃいでるんですよ、頼寿さん。坊ちゃんみたいに育て甲斐のある子と出会えて」
「何だよそれ。……アイツ俺のことMの素質あるとか言ってたけど、絶対そんなことないから」
「あはは。SM関係なく、頼寿さんの周りって坊ちゃんみたいに正面から刃向かってくタイプの子、今までいなかったんですよ。だから新鮮で楽しいんだと思います」
そう言う快晴も心から楽しそうに笑っていた。笑ってないのは、俺だけだ。
快晴がふいに声を潜めて言った。
「ここだけの話ですけどね。今まで面倒見てきた子達の前では、頼寿さん一度も笑ったことないんですよ」
「え?」
「そりゃ今までの子達は生粋のマゾっ子ばかりだったんで、頼寿さんもSに徹してたわけですけど……軽口の一つも叩かずに黙々と調教してました。それだけでも坊ちゃんへの態度がどんなに特別か分かるでしょ?」
「………」
「頼寿さんも人間ですから、楽しい時とか嬉しい時は笑うんですよ」
何となく快晴の言いたいことは伝わったけれど、俺だって頼寿みたいなタイプの奴は初めてだからよく分からないんだ。
変な理由で知り合って、好きでもないのに変なことされて、恋人でもないのにキスまでされて──
俺だって分からない。頼寿とどう接するのがベストなのか、快晴の話を受けて頼寿にどんな感情を持てばいいのかも。
「俺が買い物から帰ってきた時、頼寿さんプレイ中断したでしょ。それも坊ちゃんに気を遣ってのことですよ。普通のM調教なら誰がその場にいようと問答無用で続行しますからね」
「も、もう分かったよ……充分伝わったから」
快晴がニマッと笑い、口元に手を当てて囁いた。
「なので頼寿さん、今夜俺が寝た後で坊ちゃんに夜這いかけるかもしれません。きっとムラムラしてるはずですから」
「えっ、……!」
多分ですよ、と意味ありげに笑って、快晴が洗濯済みの下着やタオルを脱衣所へ運ぶためリビングを出て行った。
「よ、夜這い……?」
今夜、頼寿が俺の部屋に……?
快晴のパエリアは少し辛口だけどレストランで食べるヤツみたいに美味かった。食後のカフェオレも、泡の風呂も、風呂上がりのアイスも全部最高だった。
「………」
だけど俺の機嫌は悪かった。
頼寿も快晴も、俺のことなど全く気にせず世間話をしたり時々笑ったり、ビールを飲んだり煙草を吸ったりしている。
俺の部屋なのに。俺のリビング、俺のソファ、俺のトイレに俺の風呂。全部俺の物なのに、この二人は──特に頼寿は我が物顔で部屋の中央にあるソファにふんぞり返っているのだ。
腹に溜まったストレスを言葉にして吐き出したいけれど、言ったところで現状は変わらない。それどころか頼寿は面白がって、ますます俺を怒らせるようなことを言うだろう。
……ムカつく。ムカつく!
「ご、ご機嫌ななめですね坊ちゃん……」
「……快晴は悪くない」
そう、快晴は全く悪くない。この家にいるのは頼寿に呼ばれたからだし、俺をバカ扱いしないでくれるし、アメもくれた。イケメンだし優しい。
「頼寿さんに色々と扱かれて大変だと思いますが、めげないで下さいね」
「……別にめげてないし」
その頼寿は、今は風呂に入っている。快晴はチラリと廊下の向こうの浴室に目を向けてから、苦笑して俺に向き直った。
「はしゃいでるんですよ、頼寿さん。坊ちゃんみたいに育て甲斐のある子と出会えて」
「何だよそれ。……アイツ俺のことMの素質あるとか言ってたけど、絶対そんなことないから」
「あはは。SM関係なく、頼寿さんの周りって坊ちゃんみたいに正面から刃向かってくタイプの子、今までいなかったんですよ。だから新鮮で楽しいんだと思います」
そう言う快晴も心から楽しそうに笑っていた。笑ってないのは、俺だけだ。
快晴がふいに声を潜めて言った。
「ここだけの話ですけどね。今まで面倒見てきた子達の前では、頼寿さん一度も笑ったことないんですよ」
「え?」
「そりゃ今までの子達は生粋のマゾっ子ばかりだったんで、頼寿さんもSに徹してたわけですけど……軽口の一つも叩かずに黙々と調教してました。それだけでも坊ちゃんへの態度がどんなに特別か分かるでしょ?」
「………」
「頼寿さんも人間ですから、楽しい時とか嬉しい時は笑うんですよ」
何となく快晴の言いたいことは伝わったけれど、俺だって頼寿みたいなタイプの奴は初めてだからよく分からないんだ。
変な理由で知り合って、好きでもないのに変なことされて、恋人でもないのにキスまでされて──
俺だって分からない。頼寿とどう接するのがベストなのか、快晴の話を受けて頼寿にどんな感情を持てばいいのかも。
「俺が買い物から帰ってきた時、頼寿さんプレイ中断したでしょ。それも坊ちゃんに気を遣ってのことですよ。普通のM調教なら誰がその場にいようと問答無用で続行しますからね」
「も、もう分かったよ……充分伝わったから」
快晴がニマッと笑い、口元に手を当てて囁いた。
「なので頼寿さん、今夜俺が寝た後で坊ちゃんに夜這いかけるかもしれません。きっとムラムラしてるはずですから」
「えっ、……!」
多分ですよ、と意味ありげに笑って、快晴が洗濯済みの下着やタオルを脱衣所へ運ぶためリビングを出て行った。
「よ、夜這い……?」
今夜、頼寿が俺の部屋に……?
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