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第6話 静かな青の世界へと
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青。青と深緑、それから若干の白や黒。
「ふ、ふわ、……ふわあぁ!」
夏休みのデートスポットといえばこれを忘れていた。
「す、凄いです千代晴! 綺麗です!」
「そうだろ」
K県で一番有名な水族館、『水と光のウォーターエデン』。俺も初めて来たが、なかなかにデカい水族館だ。
「千代晴うぅ!」
「デカい声出すな、ちゃんと見てるから」
ヘルムートが興奮しているのは、壁いっぱいのガラスで仕切られた向こうにいるミズクラゲ達だ。ふよふよとのんびり浮かんでいる様子はまさにヘルムートそっくりで、それが数えきれないほど泳いでいるとなると確かに全て宇宙人に見えてくる。
「おれがいっぱいです……」
薄暗い空間。水槽の光に照らされたヘルムートの目は、海底に差し込む太陽光のように揺らぎ輝いていた。クラゲよりもその瞳に見とれてしまうなんて、俺の気持ちも少しは「好き」に向かっているのだろうか。
「は、……ふ……」
「どうした? 息荒くさせて」
「み、みんながおれに、遊ぼうって……」
「クラゲと話してるのか? テ、テレパシー的な?」
興奮しているのか、ヘルムートの頬は赤くなっていた。
「おれヒトの形ですから、みんなと遊べないです……。でも、綺麗なみんなが泳いでるの見てるだけで、とてもしあわせな気持ちなります……」
俺に言っているのかと思ったが、ヘルムートはガラスの向こうのクラゲ達に話しかけているらしい。
本当に生き物の声が聞こえるなら、水族館にいる彼らは何を思って過ごしているのだろう。
「ヘル、違う生き物も見るか?」
「見ます! ……みんな、さよなら。また来ます」
はたから見れば兄弟でも通じるであろう俺達。
俺は自然と、何の躊躇もなく、ヘルムートの手を握っていた。
「大きなカメがいます! あ、あっ、イソギンチャク、ああぁっ! あっちにはジュゴンもいます!」
「カメは何て言ってるんだ?」
「もうすぐご飯の時間だぞ~って、小さい子に呼び掛けてます」
ジュゴンはヘルムートを見て「クラゲの子がどうして人間の形をしているのか」しきりに聞いてきたらしい。
カラフルな魚達は「ここは安全な海だ」と無邪気に遊んでいるのだという。
「あのサメは?」
「サメさんは、何か変だなって思ってるみたいです。ごはんに飢えることはないけど、海みたくどこまでも行けないのが不思議みたいです」
……それぞれみんな、色々なことを考えているらしい。単純に皆のんびりしているだけかと思っていたけれど、見た目には分からなくても不安な者もいれば楽しんでいる者もいる。水族館で産まれた者と海から来た者とで考え方が違うのもまた面白い。
「うわっ、千代晴! イワシの群れのみんなです! すごい綺麗です、銀色に光ってます!」
「お、落ち着け。見てるから落ち着けって」
「ちっち、千代晴ううぅッ!」
「今度は何だっ?」
目も口もこれ以上ないほど大きく開いてヘルムートが指差したのは、館内で一番の人だかりができている超巨大水槽だった。
「うおぉっ!」
そうして俺も驚愕の声をあげてしまう。巨大な水槽を悠々と泳いでいたのは、生まれて初めて見るジンベエザメだったのだ。様々な種類のエイやアカシュモクザメ、他にもカラフルな小魚などと一緒にゆったりと水中を飛んでいる。
期間限定でウォーターエデンにジンベエザメがやってくる! という広告を見てここに来ることを思い付いたのだが……本当に来て良かった。
流石にシロナガスクジラを見せることはできないから、せめて他の海の生き物を見てヘルムートが満足してくれれば、それで良い。
青。青と深緑、それから若干の白や黒。
「ふ、ふわ、……ふわあぁ!」
夏休みのデートスポットといえばこれを忘れていた。
「す、凄いです千代晴! 綺麗です!」
「そうだろ」
K県で一番有名な水族館、『水と光のウォーターエデン』。俺も初めて来たが、なかなかにデカい水族館だ。
「千代晴うぅ!」
「デカい声出すな、ちゃんと見てるから」
ヘルムートが興奮しているのは、壁いっぱいのガラスで仕切られた向こうにいるミズクラゲ達だ。ふよふよとのんびり浮かんでいる様子はまさにヘルムートそっくりで、それが数えきれないほど泳いでいるとなると確かに全て宇宙人に見えてくる。
「おれがいっぱいです……」
薄暗い空間。水槽の光に照らされたヘルムートの目は、海底に差し込む太陽光のように揺らぎ輝いていた。クラゲよりもその瞳に見とれてしまうなんて、俺の気持ちも少しは「好き」に向かっているのだろうか。
「は、……ふ……」
「どうした? 息荒くさせて」
「み、みんながおれに、遊ぼうって……」
「クラゲと話してるのか? テ、テレパシー的な?」
興奮しているのか、ヘルムートの頬は赤くなっていた。
「おれヒトの形ですから、みんなと遊べないです……。でも、綺麗なみんなが泳いでるの見てるだけで、とてもしあわせな気持ちなります……」
俺に言っているのかと思ったが、ヘルムートはガラスの向こうのクラゲ達に話しかけているらしい。
本当に生き物の声が聞こえるなら、水族館にいる彼らは何を思って過ごしているのだろう。
「ヘル、違う生き物も見るか?」
「見ます! ……みんな、さよなら。また来ます」
はたから見れば兄弟でも通じるであろう俺達。
俺は自然と、何の躊躇もなく、ヘルムートの手を握っていた。
「大きなカメがいます! あ、あっ、イソギンチャク、ああぁっ! あっちにはジュゴンもいます!」
「カメは何て言ってるんだ?」
「もうすぐご飯の時間だぞ~って、小さい子に呼び掛けてます」
ジュゴンはヘルムートを見て「クラゲの子がどうして人間の形をしているのか」しきりに聞いてきたらしい。
カラフルな魚達は「ここは安全な海だ」と無邪気に遊んでいるのだという。
「あのサメは?」
「サメさんは、何か変だなって思ってるみたいです。ごはんに飢えることはないけど、海みたくどこまでも行けないのが不思議みたいです」
……それぞれみんな、色々なことを考えているらしい。単純に皆のんびりしているだけかと思っていたけれど、見た目には分からなくても不安な者もいれば楽しんでいる者もいる。水族館で産まれた者と海から来た者とで考え方が違うのもまた面白い。
「うわっ、千代晴! イワシの群れのみんなです! すごい綺麗です、銀色に光ってます!」
「お、落ち着け。見てるから落ち着けって」
「ちっち、千代晴ううぅッ!」
「今度は何だっ?」
目も口もこれ以上ないほど大きく開いてヘルムートが指差したのは、館内で一番の人だかりができている超巨大水槽だった。
「うおぉっ!」
そうして俺も驚愕の声をあげてしまう。巨大な水槽を悠々と泳いでいたのは、生まれて初めて見るジンベエザメだったのだ。様々な種類のエイやアカシュモクザメ、他にもカラフルな小魚などと一緒にゆったりと水中を飛んでいる。
期間限定でウォーターエデンにジンベエザメがやってくる! という広告を見てここに来ることを思い付いたのだが……本当に来て良かった。
流石にシロナガスクジラを見せることはできないから、せめて他の海の生き物を見てヘルムートが満足してくれれば、それで良い。
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