37 / 48
第6話 静かな青の世界へと
3
しおりを挟む
「そんじゃね! ヘルちゃんと仲良くね!」
「おう……」
ナハトがいなくなっただけで部屋の中が妙に静かになったように感じた。ヘルムートの寝息を聞きながら朝食用のパンを焼き、湯を沸かしてインスタントコーヒーの準備をする。テレビを点ければ天気予報がやっていて、今日も三十度越えのカンカン照りになるそうだ。
「はあ……クソナハトのせいで朝から調子悪りぃ……」
「……ん。千代晴……?」
「あ、悪い。起こしちまったか」
「おはようございます……わ、パン焼いてくれましたか。お腹ぺこぺこです」
「歯を磨いてからだ」
慌ててヘルムートがソファから降り、リビングを出て洗面所へ駆けて行く。こうして少し手を焼きながらも穏やかな時間を一緒に過ごせるなら、家庭を作っても良いという気持ちになるのに。
「歯、磨きました!」
「早いな。ちゃんと磨いたか?」
「顔も洗いました!」
剥きタマゴのように艶々と光る肌をタオルで拭きながら、ヘルムートが俺の隣に座り込んだ。甘い香りがふわりと鼻先をくすぐり、ほんの一瞬──ムラッと性欲が沸き上がってくる。
「千代晴?」
「な、何だよ」
「へへ。新婚さんみたいでしあわせです」
焼いたトーストを齧るヘルムート。俺は間抜けにも頬を熱くさせながら、「まぁな」と小さく呟いた。
「今日はお休みですか?」
「ああ、少し早めの盆休みだ。この時期は暇だし休みも多少多く貰える」
「じゃあずっと千代晴と二人きりです!」
「……ナハトが来なければな」
休みは今日から五日間。
俺は理性を保ち続けられるのだろうか。
「どっか行くか。行きたい場所あるか?」
「おれ、千代晴とならどこにいてもいいですよ」
「……うーん」
今までは相手の行きたい場所に合わせていたから、こうして全てを任されると途端に悩んでしまう。
海もプールも人混みの嵐だし、水場が綺麗なクーヘンから来たヘルムートに都会の海を見せたところで何の感動もないだろう。
花火に夏祭り。海外のリゾート……はパスポートが必要だから駄目か。夏のイベントなんて腐るほどあると思っていたのに、いざとなると難しいモンだ。
「行きたい場所って言われても、何があるかなんて分からないもんな」
「駅ビルは覚えました。後は衛さんのケーキ屋さんと、コンビニ」
「せっかく地球に来たのに、なかなか良い所連れてってやれなくて済まねえ……」
「千代晴がいる場所が『いい所』です!」
「………」
どうしてコイツは俺に惚れているんだろう。俺なんかより見た目も中身も良い奴が地球には溢れ返っているというのに。
俺はあの日、ケーキを一つ奢ってやっただけだ。それがこんなに愛されて良い理由になるんだろうか。
「千代晴、少し元気ないです。……悩み事してますか?」
「いいや、そんなこともねえけど──」
瞬間、ヘルムートの唇が俺の頬に押し付けられた。
「な、……なっ?」
「キスしたら元気出ます」
「………」
まるで子供同士のおまじないのようなキス。ほんの少し触れた唇の感触がどれほど今の俺を煽っているか、コイツは少しも分かっていない。
あんな夢を見たせいで、ナハトとあんな話をしたせいで、今にも爆発しそうになっているというのに。
「あ……ありがとうよ、元気出たぜ」
「千代晴、出掛けましょう!」
「え?」
「出掛ければもっと元気出ます! 千代晴の行きたいとこ、おれも行きたいです!」
俺の腕を引っ張って立ち上がるヘルムート。その嬉しそうな顔を見ているだけで、俺にも健全なやる気がみなぎってくる。
「よし、行くか!」
「行きます! どこ行きますか?」
「まだ秘密だ」
「……?」
「おう……」
ナハトがいなくなっただけで部屋の中が妙に静かになったように感じた。ヘルムートの寝息を聞きながら朝食用のパンを焼き、湯を沸かしてインスタントコーヒーの準備をする。テレビを点ければ天気予報がやっていて、今日も三十度越えのカンカン照りになるそうだ。
「はあ……クソナハトのせいで朝から調子悪りぃ……」
「……ん。千代晴……?」
「あ、悪い。起こしちまったか」
「おはようございます……わ、パン焼いてくれましたか。お腹ぺこぺこです」
「歯を磨いてからだ」
慌ててヘルムートがソファから降り、リビングを出て洗面所へ駆けて行く。こうして少し手を焼きながらも穏やかな時間を一緒に過ごせるなら、家庭を作っても良いという気持ちになるのに。
「歯、磨きました!」
「早いな。ちゃんと磨いたか?」
「顔も洗いました!」
剥きタマゴのように艶々と光る肌をタオルで拭きながら、ヘルムートが俺の隣に座り込んだ。甘い香りがふわりと鼻先をくすぐり、ほんの一瞬──ムラッと性欲が沸き上がってくる。
「千代晴?」
「な、何だよ」
「へへ。新婚さんみたいでしあわせです」
焼いたトーストを齧るヘルムート。俺は間抜けにも頬を熱くさせながら、「まぁな」と小さく呟いた。
「今日はお休みですか?」
「ああ、少し早めの盆休みだ。この時期は暇だし休みも多少多く貰える」
「じゃあずっと千代晴と二人きりです!」
「……ナハトが来なければな」
休みは今日から五日間。
俺は理性を保ち続けられるのだろうか。
「どっか行くか。行きたい場所あるか?」
「おれ、千代晴とならどこにいてもいいですよ」
「……うーん」
今までは相手の行きたい場所に合わせていたから、こうして全てを任されると途端に悩んでしまう。
海もプールも人混みの嵐だし、水場が綺麗なクーヘンから来たヘルムートに都会の海を見せたところで何の感動もないだろう。
花火に夏祭り。海外のリゾート……はパスポートが必要だから駄目か。夏のイベントなんて腐るほどあると思っていたのに、いざとなると難しいモンだ。
「行きたい場所って言われても、何があるかなんて分からないもんな」
「駅ビルは覚えました。後は衛さんのケーキ屋さんと、コンビニ」
「せっかく地球に来たのに、なかなか良い所連れてってやれなくて済まねえ……」
「千代晴がいる場所が『いい所』です!」
「………」
どうしてコイツは俺に惚れているんだろう。俺なんかより見た目も中身も良い奴が地球には溢れ返っているというのに。
俺はあの日、ケーキを一つ奢ってやっただけだ。それがこんなに愛されて良い理由になるんだろうか。
「千代晴、少し元気ないです。……悩み事してますか?」
「いいや、そんなこともねえけど──」
瞬間、ヘルムートの唇が俺の頬に押し付けられた。
「な、……なっ?」
「キスしたら元気出ます」
「………」
まるで子供同士のおまじないのようなキス。ほんの少し触れた唇の感触がどれほど今の俺を煽っているか、コイツは少しも分かっていない。
あんな夢を見たせいで、ナハトとあんな話をしたせいで、今にも爆発しそうになっているというのに。
「あ……ありがとうよ、元気出たぜ」
「千代晴、出掛けましょう!」
「え?」
「出掛ければもっと元気出ます! 千代晴の行きたいとこ、おれも行きたいです!」
俺の腕を引っ張って立ち上がるヘルムート。その嬉しそうな顔を見ているだけで、俺にも健全なやる気がみなぎってくる。
「よし、行くか!」
「行きます! どこ行きますか?」
「まだ秘密だ」
「……?」
3
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる