15 / 21
君色の空に微笑みを・15
しおりを挟む
脱衣所の方から聞こえていたシャワーの音が止まる。
俺は咥えた煙草に火をつけ、深く煙を吸い込みながらクリアになった自身の心音を聞いていた。
幻龍楼以外で混一と夜を過ごすのは初めてだ。未だに信じられない。
「……お待たせ、浩介」
「早いな。もっとゆっくり入ってて良かったのに」
「一人じゃつまらないよ」
俺は煙草を処理してソファから立ち上がった。バスローブの前をはだけさせた混一が、誘うような眼差しで俺を見ている。
「浩介、前より男らしくなったね」
「そうかな。先輩にも言われたけど、自分じゃあんまり……」
「多分だけど、浩介に関心がある人しか気付かないんじゃない?」
その言葉が本当なら、混一……。
「好きだよ、浩介のこと」
堪らなくなって、俺は混一を思い切り抱きしめた。
嘘でもいい。今夜だけでもいい。
「……俺も好きだ」
「そっか」
ベッドに倒した混一の身体は熱く火照っている。シャワーのせいだけじゃないと思いたい。俺が混一を求めているのと同じように、彼も俺を求めてくれていると信じたい。
「ん……」
唇から唇、指先から指先。俺と混一の重なった部分から、蕩けるような熱が互いに浸透してゆくようだ。
「はぁ……」
舌から舌、吐息から吐息……上半身、下半身。身体中、全て。
「浩、介……」
「……混一」
そして、囁き。
もう誰も俺達の間に入り込めない。一寸の隙間も出来ないほどに重なり合いたい。
「あっ……」
熱く尖った乳首に指を這わせると、混一は初めて会った日の夜と変わらない愛らしい声をあげた。
「んっ、あ……気持ちいい……」
「気持ちいい? これは?」
指の代わりに唇で優しく挟み、口に含んだ突起をゆっくりと味わうように舌で転がす。
「ん、や、ぁ……!」
切なげに眉根を寄せて喘ぎ悶える混一は、俺が今まで目にしてきたどんなものよりも美しかった。
肌に滲む汗さえも、吐き出される吐息さえも。
「浩介っ……気持ちいい、もっと……」
「…………」
「あっ、あ、……あ」
「硬くなってる。上も、下も」
「あっ、……浩介、初めと比べて余裕出てきたね……。初めは……あっ、もっとがつがつしてたのに……」
「混一の調教のお陰だろ」
「ふふ……」
まるで小さな子供を褒めるみたいに、俺の頭を優しく撫でながら混一が呟く。
「俺好みに調教したんだよ……」
混一の甘い肌に舌を這わせ、俺は出来るだけそっと、愛撫を待ち侘びている彼の下半身に手を伸ばした。
「……ふ、ぅ」
熱い。握った手のひらが溶かされるようだ。
「浩介っ……、浩介……!」
「ん」
「擦って、お願い……」
目尻に涙を溜めて俺を上目に見つめながら、混一がのろのろと首を振る。熱を持った頬はまるで林檎のように赤く、潤んだ鳶色の瞳は緩く輝く宝石のようだ。
「我慢できない……」
「ま、まだ握ったばかりだろ? そんなに急ぐなって」
「だって、……分かるだろ。凄い熱くなってる……」
恥ずかしそうに呟く混一が可愛くて、俺は思わず噴き出してしまった。
「俺の調教は完璧なのに、自分の制御はできないのか? じっくり時間かけさせてくれよ」
「……じれったいのは嫌だ」
「たまにはいいだろ、ねちっこく攻められるのも」
「んん……や、やだ……ぁ」
「混一、足開いて俺によく見せて」
俺に握られたままの状態で、混一がゆっくりと両脚を開いた。白い内股に汗が伝っている。俺は握ったそれの先端に唇を寄せ、弾くような軽いキスをした。
「やっ……」
もう一度。
「あ、ぁ……!」
更にもう一度、……繰り返し何度も。俺がキスをする度に、混一は背中をくねらせて喘ぎ悶えている。が、それは快感からくる仕草じゃない。ただただじれったくてその先を俺に訴えているのだ。
「ちゃんと、やってよ……ぉ」
「可愛い」
尚もキスを繰り返しながら言うと、混一がムッとして「可愛くない」と呟いた。
「拗ねるなよ。ちゃんとしてやるって」
大きく開いた口の中へ、深く混一のそれを咥え込む。舌で撫でる感触、混一から滲み出る体液の味。一ヶ月ぶりの行為に頭がくらくらした。
「あ、あぁっ……! 浩介、気持ちいいっ……」
混一の喘ぎ声が更に拍車をかける。
「浩介っ……」
俺は激しく舌を動かし、混一のそれを吸い上げた。
「んぁっ……、あ……! いい……蕩けそ……」
時折自分の涎を舐めながら喘ぐ混一が堪らなく艶めかしい。もっと乱れさせたくて、俺は混一のそれを吸うと同時に小さな入口へ指を突き立てた。
「や、だっ……」
「……嫌なのか? こんなに欲しそうにしてるのに」
「違う、……。指じゃ、嫌だ……、じれったいだけだから……ぁ」
勿論分かってるけれど、敢えて意地悪して指を挿れてやった。
「――あっ! や、嫌っ……!」
「嫌そうじゃないけどな……」
「指、動かさない……でっ」
「ほら、やっぱり嫌じゃねえんだ」
「だって浩介……やらしいんだよ、動かし方……。中でぐりぐりするんだもん……」
中指を奥へ突き立てる度に混一の身体が跳ねる。指を曲げて中をかき回すように動かせば、その愛らしい口から濡れた声が零れる。
「やだっ、嫌……。浩介っ……」
「イヤイヤじゃなくてさ、もっと可愛くおねだりしてみろよ」
「うー……」
いつもなら混一が男達からお願いされる立場なんだろう。あるいは混一が挑発的に笑って一言言えば、男達は何でもその通りにしてきた。だから彼は、本心から自分のして欲しいことを訴えるのに慣れていない。赤くなった顔を見る限りだと、どうやら相当恥ずかしいみたいだ。
「言えって、混一……」
「………」
「じゃあもうしてやんない」
「そ、それもやだ」
「ワガママな奴」
「こ、浩介こそ……。俺に、そんなこと言わせて何が楽しいのさ……」
「ふふ」
今度は俺が笑う番だ。
「他の男には見せない顔を、見てみたいだけだ」
「もう充分見てるはずなのに……」
本当は気付いていた。
初めて出会った時と今とでは、混一の見せる表情に雲泥の差があること。初めは表情の乏しい人形のような喋り方だったのに、今では俺の前で笑ったり拗ねたり、様々な顔をして見せてくれていること。
それだけ混一が俺を信用してくれたということ。即ち、俺は他の男より一歩も二歩も前に出ているんだ。
「混一……」
そうじゃなきゃ今が存在しない。俺のような男とプライベートでの肉体関係なんて、持ってくれるはずがない。
「………」
俺は乾いた唇を開き、数瞬迷ってからその言葉を囁いた。
「好きだよ、混一」
「……ん」
「愛してる」
口にしてしまえば何て陳腐な台詞だろうか。こんな言葉だけじゃ、俺の想いは伝え切れない。「浩介……?」
「一時的な感情に惑わされてるんじゃない。お前を抱きたいから言ってる訳でもない。初めて会った時から今も、ずっと……俺はお前に惹かれ続けてるんだ」
「浩介……どうしたの……」
「混一が居てさえくれれば、嫌な仕事も頑張れる。お前を幸せにするって目標があれば、何だってできる。好きなんだよ、混一……」
「あっ……」
言いながら、俺は自分のそれを混一の入口にあてがった。
我ながら卑怯な奴だと思う。快楽に乗じて混一の首を縦に振らせようなんて。
「毎晩でも、好きなだけ満足させてやる。もうお前は働かなくていい。ずっと俺だけの為に傍に居てくれればいいんだ。……好きな物食わせてやるし、欲しい物だって全部……」
「あっ、あ……浩介っ……」
「お前が望むことは、何だって叶えてやるから……」
好条件だろ。
頼むから、俺を受け入れてくれ……。
「ふ、あ……浩介、俺がっ、欲しいのは、……自由……」
「………」
涙に濡れた瞳で、混一が俺を見上げる。
「本当の意味での、自由……」
初めは混一が何を言っているのか良く分からなかった。
「誰にも、……何にも縛られない……、……」
「………」
混一の呟く言葉はまるで悪い夢を見てうなされている時のような、重々しく、苦く、そして悲しい言葉だった。
「俺だけの、世界っ……」
「……混一」
彼が言う「自由」――それはひょっとしたら、俺自身が求めている「自由」なのかもしれない。
社会に出て仕事をして、嫌なことでも我慢して、その報酬として毎月給料をもらい、安い酒を飲んで満足するだけの日常……。
そんな日常から解放されたいと思いながらも、本心からやりたいことがあっても、どっぷりと社会に浸った精神はそれを許さない。そうしている間にまた一カ月、一年……時間だけが残酷な早さで過ぎて行く。
ただ人生を消費して行くだけの、無意味な日常。
「分かるよ、混一……」
そんな日常からの脱出。それこそが自由。
俺がどんなに手を伸ばしても掴むことのできない「自由」――。
「くっ……」
俺の頬を伝う涙を、下から混一が拭ってくれた。
「浩介」
「う……」
「大丈夫だよ」
「………」
俺と彼とじゃ、立っている場所が違う。混一は若い。その気になれば彼が望んでいる自由だって得られるかもしれない。混一には充分その素質があるんだ。だけど俺は……
もう遅い。この齢になって日常から脱し、一から人生を始めるなんて出来る訳がない。
結ばれるはずない。退屈な日常に身も心も固められてしまった俺なんかが、混一と。
「……止まってるよ、浩介」
「………」
「動いて」
「っ……」
きっとこれが最後だ。今日以降、混一への気持ちを断ち切らなければ。
混一が用意してくれた最後の夜。それに精一杯応えなければ――。
「あぁっ、あ……。こ、浩介っ……」
これが最後。
「混一っ……!」
「い、ぁ……。気持ちいっ……、イきそ……」
最後……。
「浩介――」
俺は咥えた煙草に火をつけ、深く煙を吸い込みながらクリアになった自身の心音を聞いていた。
幻龍楼以外で混一と夜を過ごすのは初めてだ。未だに信じられない。
「……お待たせ、浩介」
「早いな。もっとゆっくり入ってて良かったのに」
「一人じゃつまらないよ」
俺は煙草を処理してソファから立ち上がった。バスローブの前をはだけさせた混一が、誘うような眼差しで俺を見ている。
「浩介、前より男らしくなったね」
「そうかな。先輩にも言われたけど、自分じゃあんまり……」
「多分だけど、浩介に関心がある人しか気付かないんじゃない?」
その言葉が本当なら、混一……。
「好きだよ、浩介のこと」
堪らなくなって、俺は混一を思い切り抱きしめた。
嘘でもいい。今夜だけでもいい。
「……俺も好きだ」
「そっか」
ベッドに倒した混一の身体は熱く火照っている。シャワーのせいだけじゃないと思いたい。俺が混一を求めているのと同じように、彼も俺を求めてくれていると信じたい。
「ん……」
唇から唇、指先から指先。俺と混一の重なった部分から、蕩けるような熱が互いに浸透してゆくようだ。
「はぁ……」
舌から舌、吐息から吐息……上半身、下半身。身体中、全て。
「浩、介……」
「……混一」
そして、囁き。
もう誰も俺達の間に入り込めない。一寸の隙間も出来ないほどに重なり合いたい。
「あっ……」
熱く尖った乳首に指を這わせると、混一は初めて会った日の夜と変わらない愛らしい声をあげた。
「んっ、あ……気持ちいい……」
「気持ちいい? これは?」
指の代わりに唇で優しく挟み、口に含んだ突起をゆっくりと味わうように舌で転がす。
「ん、や、ぁ……!」
切なげに眉根を寄せて喘ぎ悶える混一は、俺が今まで目にしてきたどんなものよりも美しかった。
肌に滲む汗さえも、吐き出される吐息さえも。
「浩介っ……気持ちいい、もっと……」
「…………」
「あっ、あ、……あ」
「硬くなってる。上も、下も」
「あっ、……浩介、初めと比べて余裕出てきたね……。初めは……あっ、もっとがつがつしてたのに……」
「混一の調教のお陰だろ」
「ふふ……」
まるで小さな子供を褒めるみたいに、俺の頭を優しく撫でながら混一が呟く。
「俺好みに調教したんだよ……」
混一の甘い肌に舌を這わせ、俺は出来るだけそっと、愛撫を待ち侘びている彼の下半身に手を伸ばした。
「……ふ、ぅ」
熱い。握った手のひらが溶かされるようだ。
「浩介っ……、浩介……!」
「ん」
「擦って、お願い……」
目尻に涙を溜めて俺を上目に見つめながら、混一がのろのろと首を振る。熱を持った頬はまるで林檎のように赤く、潤んだ鳶色の瞳は緩く輝く宝石のようだ。
「我慢できない……」
「ま、まだ握ったばかりだろ? そんなに急ぐなって」
「だって、……分かるだろ。凄い熱くなってる……」
恥ずかしそうに呟く混一が可愛くて、俺は思わず噴き出してしまった。
「俺の調教は完璧なのに、自分の制御はできないのか? じっくり時間かけさせてくれよ」
「……じれったいのは嫌だ」
「たまにはいいだろ、ねちっこく攻められるのも」
「んん……や、やだ……ぁ」
「混一、足開いて俺によく見せて」
俺に握られたままの状態で、混一がゆっくりと両脚を開いた。白い内股に汗が伝っている。俺は握ったそれの先端に唇を寄せ、弾くような軽いキスをした。
「やっ……」
もう一度。
「あ、ぁ……!」
更にもう一度、……繰り返し何度も。俺がキスをする度に、混一は背中をくねらせて喘ぎ悶えている。が、それは快感からくる仕草じゃない。ただただじれったくてその先を俺に訴えているのだ。
「ちゃんと、やってよ……ぉ」
「可愛い」
尚もキスを繰り返しながら言うと、混一がムッとして「可愛くない」と呟いた。
「拗ねるなよ。ちゃんとしてやるって」
大きく開いた口の中へ、深く混一のそれを咥え込む。舌で撫でる感触、混一から滲み出る体液の味。一ヶ月ぶりの行為に頭がくらくらした。
「あ、あぁっ……! 浩介、気持ちいいっ……」
混一の喘ぎ声が更に拍車をかける。
「浩介っ……」
俺は激しく舌を動かし、混一のそれを吸い上げた。
「んぁっ……、あ……! いい……蕩けそ……」
時折自分の涎を舐めながら喘ぐ混一が堪らなく艶めかしい。もっと乱れさせたくて、俺は混一のそれを吸うと同時に小さな入口へ指を突き立てた。
「や、だっ……」
「……嫌なのか? こんなに欲しそうにしてるのに」
「違う、……。指じゃ、嫌だ……、じれったいだけだから……ぁ」
勿論分かってるけれど、敢えて意地悪して指を挿れてやった。
「――あっ! や、嫌っ……!」
「嫌そうじゃないけどな……」
「指、動かさない……でっ」
「ほら、やっぱり嫌じゃねえんだ」
「だって浩介……やらしいんだよ、動かし方……。中でぐりぐりするんだもん……」
中指を奥へ突き立てる度に混一の身体が跳ねる。指を曲げて中をかき回すように動かせば、その愛らしい口から濡れた声が零れる。
「やだっ、嫌……。浩介っ……」
「イヤイヤじゃなくてさ、もっと可愛くおねだりしてみろよ」
「うー……」
いつもなら混一が男達からお願いされる立場なんだろう。あるいは混一が挑発的に笑って一言言えば、男達は何でもその通りにしてきた。だから彼は、本心から自分のして欲しいことを訴えるのに慣れていない。赤くなった顔を見る限りだと、どうやら相当恥ずかしいみたいだ。
「言えって、混一……」
「………」
「じゃあもうしてやんない」
「そ、それもやだ」
「ワガママな奴」
「こ、浩介こそ……。俺に、そんなこと言わせて何が楽しいのさ……」
「ふふ」
今度は俺が笑う番だ。
「他の男には見せない顔を、見てみたいだけだ」
「もう充分見てるはずなのに……」
本当は気付いていた。
初めて出会った時と今とでは、混一の見せる表情に雲泥の差があること。初めは表情の乏しい人形のような喋り方だったのに、今では俺の前で笑ったり拗ねたり、様々な顔をして見せてくれていること。
それだけ混一が俺を信用してくれたということ。即ち、俺は他の男より一歩も二歩も前に出ているんだ。
「混一……」
そうじゃなきゃ今が存在しない。俺のような男とプライベートでの肉体関係なんて、持ってくれるはずがない。
「………」
俺は乾いた唇を開き、数瞬迷ってからその言葉を囁いた。
「好きだよ、混一」
「……ん」
「愛してる」
口にしてしまえば何て陳腐な台詞だろうか。こんな言葉だけじゃ、俺の想いは伝え切れない。「浩介……?」
「一時的な感情に惑わされてるんじゃない。お前を抱きたいから言ってる訳でもない。初めて会った時から今も、ずっと……俺はお前に惹かれ続けてるんだ」
「浩介……どうしたの……」
「混一が居てさえくれれば、嫌な仕事も頑張れる。お前を幸せにするって目標があれば、何だってできる。好きなんだよ、混一……」
「あっ……」
言いながら、俺は自分のそれを混一の入口にあてがった。
我ながら卑怯な奴だと思う。快楽に乗じて混一の首を縦に振らせようなんて。
「毎晩でも、好きなだけ満足させてやる。もうお前は働かなくていい。ずっと俺だけの為に傍に居てくれればいいんだ。……好きな物食わせてやるし、欲しい物だって全部……」
「あっ、あ……浩介っ……」
「お前が望むことは、何だって叶えてやるから……」
好条件だろ。
頼むから、俺を受け入れてくれ……。
「ふ、あ……浩介、俺がっ、欲しいのは、……自由……」
「………」
涙に濡れた瞳で、混一が俺を見上げる。
「本当の意味での、自由……」
初めは混一が何を言っているのか良く分からなかった。
「誰にも、……何にも縛られない……、……」
「………」
混一の呟く言葉はまるで悪い夢を見てうなされている時のような、重々しく、苦く、そして悲しい言葉だった。
「俺だけの、世界っ……」
「……混一」
彼が言う「自由」――それはひょっとしたら、俺自身が求めている「自由」なのかもしれない。
社会に出て仕事をして、嫌なことでも我慢して、その報酬として毎月給料をもらい、安い酒を飲んで満足するだけの日常……。
そんな日常から解放されたいと思いながらも、本心からやりたいことがあっても、どっぷりと社会に浸った精神はそれを許さない。そうしている間にまた一カ月、一年……時間だけが残酷な早さで過ぎて行く。
ただ人生を消費して行くだけの、無意味な日常。
「分かるよ、混一……」
そんな日常からの脱出。それこそが自由。
俺がどんなに手を伸ばしても掴むことのできない「自由」――。
「くっ……」
俺の頬を伝う涙を、下から混一が拭ってくれた。
「浩介」
「う……」
「大丈夫だよ」
「………」
俺と彼とじゃ、立っている場所が違う。混一は若い。その気になれば彼が望んでいる自由だって得られるかもしれない。混一には充分その素質があるんだ。だけど俺は……
もう遅い。この齢になって日常から脱し、一から人生を始めるなんて出来る訳がない。
結ばれるはずない。退屈な日常に身も心も固められてしまった俺なんかが、混一と。
「……止まってるよ、浩介」
「………」
「動いて」
「っ……」
きっとこれが最後だ。今日以降、混一への気持ちを断ち切らなければ。
混一が用意してくれた最後の夜。それに精一杯応えなければ――。
「あぁっ、あ……。こ、浩介っ……」
これが最後。
「混一っ……!」
「い、ぁ……。気持ちいっ……、イきそ……」
最後……。
「浩介――」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
菊松と兵衛
七海美桜
BL
陰間茶屋「松葉屋」で働く菊松は、そろそろ引退を考えていた。そんな折、怪我をしてしまった菊松は馴染みである兵衛に自分の代わりの少年を紹介する。そうして、静かに去ろうとしていたのだが…。※一部性的表現を暗喩している箇所はありますので閲覧にはお気を付けください。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
あの日、北京の街角で4 大連デイズ
ゆまは なお
BL
『あの日、北京の街角で』続編。
先に『あの日、北京の街角で』をご覧くださいm(__)m
https://www.alphapolis.co.jp/novel/28475021/523219176
大連で始まる孝弘と祐樹の駐在員生活。
2人のラブラブな日常をお楽しみください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
去りし桜の片隅に
香野ジャスミン
BL
年季あけ間近の陰間の桜。胸には、彼に貰った簪。
でも、彼はもういない・・・
悲しい想いの桜が幸せを掴んでいく・・・・
「ムーンライトノベルズ」で公開している物です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる