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1.女神さまと聖女さま
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晴れ渡る青空に暖かな日差し、吹き抜ける涼やかな風が肌を撫で、大聖堂へと続く道にはこれでもかと美しい花々が飾られ、色彩と香りを華やかに彩る。
すべてがこの素晴らしい晴れの日を飾る最高のコンディションだ。
何も恐れることなどない。声高らかに謳い上げよう。
「――自らの気持ちを偽ることは我らが女神の教えに背くこと、私は自らの愛に誠実にありたいと願っております。幼い時分から続いた約束を違えること、大変心苦しく思います。ですが、どうかこの愛を貫かせてはいただけないでしょうか」
さあ、一世一代の茶番劇を始めよう。
祭壇を前に一人の少女が膝をつき静かに祈りを捧げている。窓から差し込んだ陽光がその姿を照らし、彼女のプラチナブロンドの髪を煌めかせる。
祭壇の奥にはこの国を守護する愛と豊穣の女神を象った石造が佇んでいた。
「ああ、今日も聖女様は清廉でお美しくいらっしゃる。そのお姿を拝めるだけで我々の心までも洗われるようだ」
「日々の祈りを欠かさず、自らが幼い頃から僻地への慰問へも臨まれ、自らのお力を惜しみなく民にお与えになる」
「セラフィ様ほど聖女に相応しい方はおられません」
聖女の背後に控えるのは自らも祈りを捧げにやってきた王都に住む一市民たちだ。彼らは次々に聖女への賛辞を口にする。
確かに、外側だけ見ていれば正に敬虔な聖女さまに違いない。だがその実、彼女が女神へ語り掛けている内容は全くそのイメージにはそぐわない。
『女神さまー、もうそろそろよくありませんかー? 祈り自体はもう済んでるじゃないですかー』
『駄目です。まだ5分も経っていません。最低でも10分、あと5分はそうしていなさい』
『えーまだ倍もあるんですかー』
『これも聖女の務めです。その姿をもって民たちの標となる、貴女が祈ることが彼らの心の拠り所となるのです』
『わかりましたー。じゃあその間恋バナしましょう! 昨日もたくさんの方が祈りにいらっしゃったのでしょう。活きの良い恋バナ聞きたいですー』
『民の祈りを生鮮食品かのように言うものではありません』
まるで不真面目な女子学生とそれを窘める教師の会話のようである。
民の賛辞の通り、その身、その力を惜しげなく国と民に捧げる彼女だが、ひと皮むけばただの年頃の少女である。求められれば応えるが、やらなくていいならやりたくない。
教会に身を置いているのであまり縁がないが恋バナにだって興味がある。むしろ自分自身に縁がないからこそ他人の話が聞きたくなるのである。
結局聖女に乗せられた女神との恋バナが弾みに弾み、当初の予定の倍の時間祈りを捧げることとなり、祈りを終え満足げにその場を去る姿が聖女の評判を高めることに繋がるのであった。
すべてがこの素晴らしい晴れの日を飾る最高のコンディションだ。
何も恐れることなどない。声高らかに謳い上げよう。
「――自らの気持ちを偽ることは我らが女神の教えに背くこと、私は自らの愛に誠実にありたいと願っております。幼い時分から続いた約束を違えること、大変心苦しく思います。ですが、どうかこの愛を貫かせてはいただけないでしょうか」
さあ、一世一代の茶番劇を始めよう。
祭壇を前に一人の少女が膝をつき静かに祈りを捧げている。窓から差し込んだ陽光がその姿を照らし、彼女のプラチナブロンドの髪を煌めかせる。
祭壇の奥にはこの国を守護する愛と豊穣の女神を象った石造が佇んでいた。
「ああ、今日も聖女様は清廉でお美しくいらっしゃる。そのお姿を拝めるだけで我々の心までも洗われるようだ」
「日々の祈りを欠かさず、自らが幼い頃から僻地への慰問へも臨まれ、自らのお力を惜しみなく民にお与えになる」
「セラフィ様ほど聖女に相応しい方はおられません」
聖女の背後に控えるのは自らも祈りを捧げにやってきた王都に住む一市民たちだ。彼らは次々に聖女への賛辞を口にする。
確かに、外側だけ見ていれば正に敬虔な聖女さまに違いない。だがその実、彼女が女神へ語り掛けている内容は全くそのイメージにはそぐわない。
『女神さまー、もうそろそろよくありませんかー? 祈り自体はもう済んでるじゃないですかー』
『駄目です。まだ5分も経っていません。最低でも10分、あと5分はそうしていなさい』
『えーまだ倍もあるんですかー』
『これも聖女の務めです。その姿をもって民たちの標となる、貴女が祈ることが彼らの心の拠り所となるのです』
『わかりましたー。じゃあその間恋バナしましょう! 昨日もたくさんの方が祈りにいらっしゃったのでしょう。活きの良い恋バナ聞きたいですー』
『民の祈りを生鮮食品かのように言うものではありません』
まるで不真面目な女子学生とそれを窘める教師の会話のようである。
民の賛辞の通り、その身、その力を惜しげなく国と民に捧げる彼女だが、ひと皮むけばただの年頃の少女である。求められれば応えるが、やらなくていいならやりたくない。
教会に身を置いているのであまり縁がないが恋バナにだって興味がある。むしろ自分自身に縁がないからこそ他人の話が聞きたくなるのである。
結局聖女に乗せられた女神との恋バナが弾みに弾み、当初の予定の倍の時間祈りを捧げることとなり、祈りを終え満足げにその場を去る姿が聖女の評判を高めることに繋がるのであった。
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