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■結成編
【2】
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「私も気を緩ませていましたが声をかけられるまで気がつきませんでした。なかなかやるようになりましたね」
「ふふん、まあな当然だ」
笑っている王子を見て、守備隊長は向けていた剣をおろした。
複雑だ。目の前にいるのはこの国の王子。言わば自分の雇い主なのである。
こんな深夜にこっそり会ってることがばれたら、王に国外追放を命じられるかもしれない。
「では、始めますか?」
隊長は稽古用の上着をとって着直すと、王子に向かって改めて剣を構えた。
「もちろん、今日は勝つぜ」
王子も椅子から立ち上がると、腰についている鞘から剣を抜いた。
そう、一国の王子が夜こっそりと訓練所に足を運ぶのは、隊長に稽古をつけてもらうためであった。
「お願いします」
「よろしくな」
挨拶を交わすと同時に、王子は地面を蹴って隊長に向かっていった。
そして、
「──まだダメか」
王子は道場の床に大の字に寝転ぶと荒い呼吸と共にぼやいた。
「………」
一戦交えおわった隊長は椅子に座り、わずかに肩を揺らして呼吸を整えていた。
(まったく、感嘆の一言ですね)
まだ半年ほどの訓練なのに、もうここまでの実力とは。
どんどん強くなる。驚くほどに。
これで光力を持っていたなら、すぐにでも大きな戦力になっただろう。
光力──。
この世界における絶対の強さの最低ラインだ。
これを生まれ持っているかどうかで今後の人生は大きく変わるだろう。
後天的に目覚める場合をあるが、年齢が上がるほどそれに比例し目覚める確率は下がっていく。
(今の王子の年齢では……いや、私はなにを……)
王子に光力があればなんて意味のない考えだ。
なぜなら、あったところでなんだというのか。
彼はいずれ王になる男だ。
そこに必要なのは目の前の敵を斬る力ではなく、国を統治する力、民を導き守り抜く力だ。
(そうだ、私は彼が人間的に成長を遂げたいと言うから手を貸しているだけ。決して……)
そこに自分の感情を混ぜてはいけない。
なぜなら自分はこの国の守備隊長なのだから。
「なあ」
不意に声かけられ、隊長はビクッとなった。
「な、なんですか」
「いや、今日は考えてる様子多いし……もしかして俺のかくしごとに気づいているのか?」
「……かくしごと?」
なんだろうと考えるが、なんだかんだこの国の王子であるし、そういうもののひとつふたつあってもおかしくはないだろう。
「なんだ気づいてないのか……んー、しかし、ずっと隠しとくのもなんかなー……もう言っちまおうかな……」
ぶつぶつとつぶやく王子を見て、隊長は首をかしげる。
なにかを言いたいみたいだが、そんなに言いづらい話をしようとしているのか。
「……いや、うじうじ悩むのもあれか。守備隊長、聞いてくれ」
王子は立ち上がり、守備隊長に近づいていく。
(え、まさか……)
かくしごと。
言いづらいこと。
意を決したようにこっちに向かってくること。
これらを総合すると、まさか王子が言おうとしていることは──
「……あれ」
まさかの展開に緊張していた隊長の思いもつゆ知らず、王子は横を素通りしてさらに歩いていく。
隊長が若干恨めしそうになった目を向けると、王子は剣を握って訓練用のカカシの前に立っていた。
「剣を習いにきた半年ぐらい前からか……突然この力が目覚めたんだ。ただ、俺は一応この国の王子だし、このことを誰かに話していいのかわからなくてさ。でも、守備隊長にはやっぱ知って欲しいと思ったんだ」
言葉を発しながら王子の身体を光が包みこむ。
光力。さらに、その光の色を見て守備隊長は絶句した。
「『魔法剣“幻剛刀”』」
その言葉と共に、カカシの身体が真っ二つに両断された。
「ふふん、まあな当然だ」
笑っている王子を見て、守備隊長は向けていた剣をおろした。
複雑だ。目の前にいるのはこの国の王子。言わば自分の雇い主なのである。
こんな深夜にこっそり会ってることがばれたら、王に国外追放を命じられるかもしれない。
「では、始めますか?」
隊長は稽古用の上着をとって着直すと、王子に向かって改めて剣を構えた。
「もちろん、今日は勝つぜ」
王子も椅子から立ち上がると、腰についている鞘から剣を抜いた。
そう、一国の王子が夜こっそりと訓練所に足を運ぶのは、隊長に稽古をつけてもらうためであった。
「お願いします」
「よろしくな」
挨拶を交わすと同時に、王子は地面を蹴って隊長に向かっていった。
そして、
「──まだダメか」
王子は道場の床に大の字に寝転ぶと荒い呼吸と共にぼやいた。
「………」
一戦交えおわった隊長は椅子に座り、わずかに肩を揺らして呼吸を整えていた。
(まったく、感嘆の一言ですね)
まだ半年ほどの訓練なのに、もうここまでの実力とは。
どんどん強くなる。驚くほどに。
これで光力を持っていたなら、すぐにでも大きな戦力になっただろう。
光力──。
この世界における絶対の強さの最低ラインだ。
これを生まれ持っているかどうかで今後の人生は大きく変わるだろう。
後天的に目覚める場合をあるが、年齢が上がるほどそれに比例し目覚める確率は下がっていく。
(今の王子の年齢では……いや、私はなにを……)
王子に光力があればなんて意味のない考えだ。
なぜなら、あったところでなんだというのか。
彼はいずれ王になる男だ。
そこに必要なのは目の前の敵を斬る力ではなく、国を統治する力、民を導き守り抜く力だ。
(そうだ、私は彼が人間的に成長を遂げたいと言うから手を貸しているだけ。決して……)
そこに自分の感情を混ぜてはいけない。
なぜなら自分はこの国の守備隊長なのだから。
「なあ」
不意に声かけられ、隊長はビクッとなった。
「な、なんですか」
「いや、今日は考えてる様子多いし……もしかして俺のかくしごとに気づいているのか?」
「……かくしごと?」
なんだろうと考えるが、なんだかんだこの国の王子であるし、そういうもののひとつふたつあってもおかしくはないだろう。
「なんだ気づいてないのか……んー、しかし、ずっと隠しとくのもなんかなー……もう言っちまおうかな……」
ぶつぶつとつぶやく王子を見て、隊長は首をかしげる。
なにかを言いたいみたいだが、そんなに言いづらい話をしようとしているのか。
「……いや、うじうじ悩むのもあれか。守備隊長、聞いてくれ」
王子は立ち上がり、守備隊長に近づいていく。
(え、まさか……)
かくしごと。
言いづらいこと。
意を決したようにこっちに向かってくること。
これらを総合すると、まさか王子が言おうとしていることは──
「……あれ」
まさかの展開に緊張していた隊長の思いもつゆ知らず、王子は横を素通りしてさらに歩いていく。
隊長が若干恨めしそうになった目を向けると、王子は剣を握って訓練用のカカシの前に立っていた。
「剣を習いにきた半年ぐらい前からか……突然この力が目覚めたんだ。ただ、俺は一応この国の王子だし、このことを誰かに話していいのかわからなくてさ。でも、守備隊長にはやっぱ知って欲しいと思ったんだ」
言葉を発しながら王子の身体を光が包みこむ。
光力。さらに、その光の色を見て守備隊長は絶句した。
「『魔法剣“幻剛刀”』」
その言葉と共に、カカシの身体が真っ二つに両断された。
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