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失踪7〜8日目 夜間
22話
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憔悴しきった4人は今、殺人ピエロを振り切って遊園地中央に位置するアトラクションの中で休憩している。あと少しでも逃走が長引けば、誰かが根を上げていてもおかしくなかった。
周囲を壁で仕切られた6畳程の真っ暗な空間の中で、それぞれ自身の周囲だけを照らした4人が座って放心している。しばらく誰も話そうとしなかったが、煙草を吸い始めた滝田が立ち上がって話出す。
「あれの名前、呼んでたみたいだが、知り合いか?」
あれとは浜中のことだろう。まだ話せそうもない坂上に代わり、成田が説明してくれた。成田もまた、坂上が浜中と話をしている所を見ていたし、話していた内容も全て聞いていたので答えられる。
「警察か。単独で着てたのならこれ以上の応援は期待出来ないな」
「応援が来てくれるなんていう、希望的観測は捨てましょう。意味がない」
それぞれに念の為スマホを確認するが、やはり圏外で外とは連絡が取れそうにない。
「真由美ちゃん大丈夫?」
成田は坂上を気遣って背中を摩る。ここまで走れたのが嘘のように、さっきからカタカタと震えているだけで顔を上げもしない。
「あんた、あの日ここに居たの?」
加藤がそう聞くと、ようやく坂上は顔を上げた。
「わかんない。でも、ここに来た記憶なんてないのに、ここのこと知ってるの」
今4人が居る立体迷路にも、どこか懐かしさを感じていた。
「確か高2って言ってたわよね?逆算したら、事件当時は小学2年生。そんな時期にあの事件を現場で見ていたら──」
「道化恐怖症にもなるよな、そりゃあ。記憶も吹っ飛ぶだろうし。でもまあ、見てない子供も噂を聞いただけでなっちまってたよ。この辺の子は特にな」
今でも根深くこの地で生きる人間に残る傷跡なのだ。
「なんなんだろう、罪って」
少しだけ落ち着いた坂上が言った。そしてその言葉に1番敏感な加藤が振り向く。
「奈々恵ちゃんとこの遊園地に来た時の話、聞かせてくれないか?」
3人の顔を見た加藤は、遅疑逡巡しながらも口を開く。
「足立は、怖がりで、肝試しとかは苦手なの。それを知った和田が面白がって、それじゃあ克服する為に肝試ししようって言い出して」
「それで公園や廃墟に?」
「ネットで調べたこの辺の心霊スポットに適当に行ったの。結局なにも無かったけど、足立はずっと顔を青くしてて、それでも帰ろうなんて一度も言わないで」
どこか悔しそうに語る加藤を見て、坂上は驚いた。彼女がそんな顔をすると思っていなかったのだ。
「夜になったら遊園地で肝試しって聞いても、ただ頷くだけで。遊園地に来てからは、エスカレートした八木とかが、足立を建物に閉じ込めたりし始めて」
あの時ミラーハウスで、「足立にやって遊んでたのと同じ」と八木が言っていたのはそういうことだろう。彼はそれを最後までただの遊びだと本心から思っていたようだ。
「それ、完全に虐めじゃない」
成田の最もな言葉で下を向く加藤。しかし尚更坂上は信じられなかった。そんな顔をしている加藤がなぜ、最後に足立を置いて帰ったのか。
「ねえ、なんで奈々恵を置いて帰ろうなんて言ったの?」
あれも和田達が勝手に言っていた妄言なのだろうか。むしろそう思いたいとさえ、坂上は感じていたが。
「それは……ムカついたから」
「なにに?」
成田が子供を叱るような声で聞くも、加藤は黙ってしまって答えない。
「なにかあったんじゃないの?」
坂上は加藤の目を見て問う。しかしすぐに目を逸らした加藤はやはり答えない。
「はあ」とわざとらしく溜息を吐いた滝田が、短くなった煙草をポケット灰皿に入れる。
「いつまでもここには居られないぞ、どうする?」
「他に出口は?」
「従業員用の裏口とか、搬入用口があるだろうが、それがどこかまでは知らねえな。あっても鍵は閉まってるだろうし。いや、中からなら開くのか?」
「楽観視は出来ないわね。この遊園地のどこかに鍵があったりはしないかしら。従業員用の建物とかになら置いてあるかも」
「んなもん回収してるに決まってるだろ?鍵は扉を開ける為に存在するんだ。誰も居ない筈の園内に置いておく必要なんかねえよ」
滝田の正論で肩を落とす成田。
「いっそ朝までここで過ごす?」
せめて明るくなってからなら。4人ともそう思いだしたが。
「ごめん、私は奈々恵を探さないと」
「真由美ちゃん……」
失踪からもう1週間になる。あれからずっと遊園地内に居るのなら、今危険な状態である可能性が高い。食べ物はともかくとして、水分だけはどこかで摂取出来ていることを願うしかない。
「だから最後に奈々恵と別れた場所だけでも、教えて」
「それは……」
なぜかそれすらも教えてくれない加藤に、流石に苛立ちを感じ始める坂上。なにかの糸が切れそうになっていたその時、滝田が覇気のない声で言った。
「ま、とりあえずはここ出るか」
「そうね」
その言葉に成田も賛同し立ち上がる。放っておけば坂上も加藤も、別々に足立を探そうとするだろうことは明白だった。それならばせめて大人2人が緩衝材になり、4人で探した方がまだ目があるだろう。
今いる立体迷路は、通路に数々の扉が設置されている。色んなタイプの取手や鍵が付いていて、開く物とどう頑張っても開かない物に別れている。子供騙しな内容に見えるが、大人でも判断が難しく、暗い中で無くとも意外と脱出に時間が掛かる。
現在地は迷路の中ほどにある休憩地点。看板には『あと半分!』と書かれている。前に進むも後ろへ戻るも掛かる時間はそう変わらなさそうだ。
「どっちへ行く?」
「元の場所へ戻る勇気はあんまりないわね」
迷路の入り口は入場ゲートにも近い。まだ殺人ピエロがウロチョロしているかも知れないと思うと、そっちへは行きたくないと考えるのもおかしくはない。成田の意見を参考にして、滝田は「わかった」と言って休憩地点の出口である扉の取手を握る。
「え?」
取手を握った。滝田は間違いなくそうしたつもりであったが、その手はまるで握手をするように、扉から生えた手に握られていた。
「おおおお!?おおおい!おいおい!ちょ!離せえええ!」
滝田の異変に気付いた加藤が近付くと、今度は後ろから坂上の悲鳴が聞こえた。
「いいいやああ!」
成田がすぐに坂上を抱き寄せる。そして坂上が震えながら指差した天井を照らすと、そこには小さいトカゲが大量に引っ付いており、全ての顔がピエロになっていた。
「なにこれ」
流石の成田も寒気を感じ後退る。成田達は入口側に居たので、ちょうど入口と出口でピエロ顔のトカゲに分断された2組。まだ扉から生えた手と格闘していた滝田は、天井をチラッと見て叫ぶ。
「仕方ない!別々に逃げるぞ!えっと、後で救護室で落ち合おう!怪我しててもどうにかなる!」
早口で言った滝田だが、全く手を離して貰えないので、先に入口から逃げた2人に置いて行かれた形になる。
「私もあっち行っていい?」
「見捨てないで」
ふんと鼻息を吐いた加藤は、「こっち見んなよ?」と言ってからスカートのまま扉へ回し蹴りをした。
「うおっ!」
扉は滝田ごと勢い良く開き、外へと放り出された彼はようやく解放された。
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
倒れる滝田を引っ張って立たせた加藤は、真っ直ぐ前を向く。
「とりあえずここ、出るんでしょ?」
「あぁ、急ごう」
後ろの休憩室からはピエロ顔のトカゲが出始めている。2人はそのまま走って扉を開けていき、出口を目指した。
周囲を壁で仕切られた6畳程の真っ暗な空間の中で、それぞれ自身の周囲だけを照らした4人が座って放心している。しばらく誰も話そうとしなかったが、煙草を吸い始めた滝田が立ち上がって話出す。
「あれの名前、呼んでたみたいだが、知り合いか?」
あれとは浜中のことだろう。まだ話せそうもない坂上に代わり、成田が説明してくれた。成田もまた、坂上が浜中と話をしている所を見ていたし、話していた内容も全て聞いていたので答えられる。
「警察か。単独で着てたのならこれ以上の応援は期待出来ないな」
「応援が来てくれるなんていう、希望的観測は捨てましょう。意味がない」
それぞれに念の為スマホを確認するが、やはり圏外で外とは連絡が取れそうにない。
「真由美ちゃん大丈夫?」
成田は坂上を気遣って背中を摩る。ここまで走れたのが嘘のように、さっきからカタカタと震えているだけで顔を上げもしない。
「あんた、あの日ここに居たの?」
加藤がそう聞くと、ようやく坂上は顔を上げた。
「わかんない。でも、ここに来た記憶なんてないのに、ここのこと知ってるの」
今4人が居る立体迷路にも、どこか懐かしさを感じていた。
「確か高2って言ってたわよね?逆算したら、事件当時は小学2年生。そんな時期にあの事件を現場で見ていたら──」
「道化恐怖症にもなるよな、そりゃあ。記憶も吹っ飛ぶだろうし。でもまあ、見てない子供も噂を聞いただけでなっちまってたよ。この辺の子は特にな」
今でも根深くこの地で生きる人間に残る傷跡なのだ。
「なんなんだろう、罪って」
少しだけ落ち着いた坂上が言った。そしてその言葉に1番敏感な加藤が振り向く。
「奈々恵ちゃんとこの遊園地に来た時の話、聞かせてくれないか?」
3人の顔を見た加藤は、遅疑逡巡しながらも口を開く。
「足立は、怖がりで、肝試しとかは苦手なの。それを知った和田が面白がって、それじゃあ克服する為に肝試ししようって言い出して」
「それで公園や廃墟に?」
「ネットで調べたこの辺の心霊スポットに適当に行ったの。結局なにも無かったけど、足立はずっと顔を青くしてて、それでも帰ろうなんて一度も言わないで」
どこか悔しそうに語る加藤を見て、坂上は驚いた。彼女がそんな顔をすると思っていなかったのだ。
「夜になったら遊園地で肝試しって聞いても、ただ頷くだけで。遊園地に来てからは、エスカレートした八木とかが、足立を建物に閉じ込めたりし始めて」
あの時ミラーハウスで、「足立にやって遊んでたのと同じ」と八木が言っていたのはそういうことだろう。彼はそれを最後までただの遊びだと本心から思っていたようだ。
「それ、完全に虐めじゃない」
成田の最もな言葉で下を向く加藤。しかし尚更坂上は信じられなかった。そんな顔をしている加藤がなぜ、最後に足立を置いて帰ったのか。
「ねえ、なんで奈々恵を置いて帰ろうなんて言ったの?」
あれも和田達が勝手に言っていた妄言なのだろうか。むしろそう思いたいとさえ、坂上は感じていたが。
「それは……ムカついたから」
「なにに?」
成田が子供を叱るような声で聞くも、加藤は黙ってしまって答えない。
「なにかあったんじゃないの?」
坂上は加藤の目を見て問う。しかしすぐに目を逸らした加藤はやはり答えない。
「はあ」とわざとらしく溜息を吐いた滝田が、短くなった煙草をポケット灰皿に入れる。
「いつまでもここには居られないぞ、どうする?」
「他に出口は?」
「従業員用の裏口とか、搬入用口があるだろうが、それがどこかまでは知らねえな。あっても鍵は閉まってるだろうし。いや、中からなら開くのか?」
「楽観視は出来ないわね。この遊園地のどこかに鍵があったりはしないかしら。従業員用の建物とかになら置いてあるかも」
「んなもん回収してるに決まってるだろ?鍵は扉を開ける為に存在するんだ。誰も居ない筈の園内に置いておく必要なんかねえよ」
滝田の正論で肩を落とす成田。
「いっそ朝までここで過ごす?」
せめて明るくなってからなら。4人ともそう思いだしたが。
「ごめん、私は奈々恵を探さないと」
「真由美ちゃん……」
失踪からもう1週間になる。あれからずっと遊園地内に居るのなら、今危険な状態である可能性が高い。食べ物はともかくとして、水分だけはどこかで摂取出来ていることを願うしかない。
「だから最後に奈々恵と別れた場所だけでも、教えて」
「それは……」
なぜかそれすらも教えてくれない加藤に、流石に苛立ちを感じ始める坂上。なにかの糸が切れそうになっていたその時、滝田が覇気のない声で言った。
「ま、とりあえずはここ出るか」
「そうね」
その言葉に成田も賛同し立ち上がる。放っておけば坂上も加藤も、別々に足立を探そうとするだろうことは明白だった。それならばせめて大人2人が緩衝材になり、4人で探した方がまだ目があるだろう。
今いる立体迷路は、通路に数々の扉が設置されている。色んなタイプの取手や鍵が付いていて、開く物とどう頑張っても開かない物に別れている。子供騙しな内容に見えるが、大人でも判断が難しく、暗い中で無くとも意外と脱出に時間が掛かる。
現在地は迷路の中ほどにある休憩地点。看板には『あと半分!』と書かれている。前に進むも後ろへ戻るも掛かる時間はそう変わらなさそうだ。
「どっちへ行く?」
「元の場所へ戻る勇気はあんまりないわね」
迷路の入り口は入場ゲートにも近い。まだ殺人ピエロがウロチョロしているかも知れないと思うと、そっちへは行きたくないと考えるのもおかしくはない。成田の意見を参考にして、滝田は「わかった」と言って休憩地点の出口である扉の取手を握る。
「え?」
取手を握った。滝田は間違いなくそうしたつもりであったが、その手はまるで握手をするように、扉から生えた手に握られていた。
「おおおお!?おおおい!おいおい!ちょ!離せえええ!」
滝田の異変に気付いた加藤が近付くと、今度は後ろから坂上の悲鳴が聞こえた。
「いいいやああ!」
成田がすぐに坂上を抱き寄せる。そして坂上が震えながら指差した天井を照らすと、そこには小さいトカゲが大量に引っ付いており、全ての顔がピエロになっていた。
「なにこれ」
流石の成田も寒気を感じ後退る。成田達は入口側に居たので、ちょうど入口と出口でピエロ顔のトカゲに分断された2組。まだ扉から生えた手と格闘していた滝田は、天井をチラッと見て叫ぶ。
「仕方ない!別々に逃げるぞ!えっと、後で救護室で落ち合おう!怪我しててもどうにかなる!」
早口で言った滝田だが、全く手を離して貰えないので、先に入口から逃げた2人に置いて行かれた形になる。
「私もあっち行っていい?」
「見捨てないで」
ふんと鼻息を吐いた加藤は、「こっち見んなよ?」と言ってからスカートのまま扉へ回し蹴りをした。
「うおっ!」
扉は滝田ごと勢い良く開き、外へと放り出された彼はようやく解放された。
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
倒れる滝田を引っ張って立たせた加藤は、真っ直ぐ前を向く。
「とりあえずここ、出るんでしょ?」
「あぁ、急ごう」
後ろの休憩室からはピエロ顔のトカゲが出始めている。2人はそのまま走って扉を開けていき、出口を目指した。
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