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失踪7〜8日目 夜間
21話
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その衣装は先程八木達が脱ぎ捨てたそれとは比較にならない程しっかりとしていたが、カラフルとは縁遠い程に圧倒的に赤色が多い。いや、赤というよりは黒く変色しているその部分は、かつてこの遊園地で殺された子供達の血液なのだろう。
バイキングの一席に座っていたそれは、機械音と獣の声を足して割ったような、奇妙な声で笑いながら立ち上がる。そして船を降り、固まったままの4人の前で一度、深々とお辞儀をした。
頭が上がると、雲から顔を出した月の明かりが、白塗りの上に笑顔を模したメイクを照らす。彼にはピエロなら必ずある筈の涙のマークがない。だから本来ならそれをピエロと呼称するのは間違っているのだろう。だがそれは巷では涙が涸れたことを表現していると考察されており、それこそが本物の殺人ピエロの証だった。
「……げろ」
滝田が掠れた声で言う。
「逃げろおおお!」
もう一度、腹から声を出した瞬間、また全員のスマホから剣闘士の入場が流れ出す。走り出す4人の後を、音楽に乗って踊るようについてくる殺人ピエロ。楽しげな彼の手には、しっかりと血の付いた包丁が握られている。
「あああああ!」
「なんで!なんで!?」
後ろから追ってくるピエロは、涎を垂らしながら徐々に白目を剥き、ピクピクと震えながらも、器用にステップを踏みながら速度を落とすことなくついてくる。
まだそんなに離れていなかったので、振り向くことなく全員が必死に走り、1分もすれば目の前に入場ゲートが見えてきた。もちろんゲートはシャッターが閉まっていて通れないが、あそこにある従業員用の扉を開ければ、チケット売り場を通って外に出られるのだ。
「嘘でしょ?」
そして1番に到着した加藤が立ち止まる。後ろから来たその他の3人が、扉を開けるように急かそうとしたが、肝心の扉を見て言葉を失った。
その扉は開かない。なぜなら開かないように、異物が扉の前に貼られているからだ。その異物を見て、坂上が呟いた。
「……浜中さん?」
扉を塞ぐように、両手の平と両足を、大の字の状態で壁に大きな釘で打ち付けられた浜中は、恐怖の中で死んだと思われる表情を晒している。地面から足が少し浮いていて、下には大量の血が流れ出ていた。
外開きの扉は、浜中の身体が邪魔して開かないだろう。そしてその扉の上部には『さがして 罪を』と血で書かれている。
「抜いて!釘!」
一瞬、坂上はなにを言っているのかわからなかった。そう叫んだ成田が、死んだ浜中の手を引っ張って釘から外そうとしているのを見て、坂上は頭が壊れそうになる。引っ張る度に血が跳ねて、成田の綺麗な顔を汚していく。
「早く!手伝って!」
そう言われた滝田が意を決して、同じように逆の手を外そうとする。しかしその行為は、死体を傷付けるだけでなにも変わらない。
4人は知る由もないが、坂上からの連絡が無かった浜中は、ネットで足立の写真を見付け、自力でなんとかこの場所を特定した。だが捜査本部ではこれらの写真と事件との関連性については懐疑的な意見が多く、直属の上司からも自身の思い込みでの調査は控えるように通達されていた。
だが浜中はその写真の場所がこの遊園地であると判明した時点で、なにか運命のような物を感じていたのだ。ここに行けば必ずなにかがわかる。そう信じて単身ここへ来た。
──なにか起こってからでは遅いんだ!
その一心で駆け付け、そしてネットの書き込み通りこの扉から内部へ侵入し、その直後ここへ磔にされた。今4人の後ろで踊る殺人ピエロによって。ちょうどそれは、4人がミラーハウスで逃げ惑っていた最中だった。
楽しげな音楽の中、滝田と成田を血塗れにしながら、一向に動かないままの浜中。今度こそ自分が事件を未然に防ぐのだと、意気込んで駆け付けた彼は、今ここから逃げようとする4人を阻み続ける。
そんな中加藤は恐る恐る後ろを振り向いた。さっきまで追って来ていた殺人ピエロが、そこに居ないわけがないのだから。
「ッキィ、ハッ!カッ、クェェ」
口から、声のようでもあり、ただなにかが引っ掛かった呼吸のようでもある音を出しながら、音楽に合わせて踊り続ける。そして、スマホから流れていた音楽が止まった。曲が終わったのだ。
それと同時にピエロの身体がゼンマイ仕掛けの人形のように止まる。それを見て恐怖で頭がいっぱいになっていた坂上は、なぜかあの廃墟で見た首の無いピエロのオルゴールを思い出した。だからだろうか、その後起こった変化を見て、坂上は恐怖より先に、やっぱりなと思ったのだ。
ギギギと首だけが右に倒れていき、そして一定の位置で、反動を受けたように止まる。そしてなにかがせめぎ合うような動きで震えを見せた後に、ポロんとその頭が落ちた。
頭は坂上の足元まで転がって来て──。
「キエエエエエエエエエエ!」
叫ぶと同時に残った身体が痙攣しながら包丁を振り回す。
「駄目!逃げるわよ!」
それを見た成田が坂上の手を引っ張って走る。もう終わってしまいたくなるほど、恐怖で頭が真っ白な坂上は、ただ自分の手を握る成田の暖かさだけを信じて走った。
バイキングの一席に座っていたそれは、機械音と獣の声を足して割ったような、奇妙な声で笑いながら立ち上がる。そして船を降り、固まったままの4人の前で一度、深々とお辞儀をした。
頭が上がると、雲から顔を出した月の明かりが、白塗りの上に笑顔を模したメイクを照らす。彼にはピエロなら必ずある筈の涙のマークがない。だから本来ならそれをピエロと呼称するのは間違っているのだろう。だがそれは巷では涙が涸れたことを表現していると考察されており、それこそが本物の殺人ピエロの証だった。
「……げろ」
滝田が掠れた声で言う。
「逃げろおおお!」
もう一度、腹から声を出した瞬間、また全員のスマホから剣闘士の入場が流れ出す。走り出す4人の後を、音楽に乗って踊るようについてくる殺人ピエロ。楽しげな彼の手には、しっかりと血の付いた包丁が握られている。
「あああああ!」
「なんで!なんで!?」
後ろから追ってくるピエロは、涎を垂らしながら徐々に白目を剥き、ピクピクと震えながらも、器用にステップを踏みながら速度を落とすことなくついてくる。
まだそんなに離れていなかったので、振り向くことなく全員が必死に走り、1分もすれば目の前に入場ゲートが見えてきた。もちろんゲートはシャッターが閉まっていて通れないが、あそこにある従業員用の扉を開ければ、チケット売り場を通って外に出られるのだ。
「嘘でしょ?」
そして1番に到着した加藤が立ち止まる。後ろから来たその他の3人が、扉を開けるように急かそうとしたが、肝心の扉を見て言葉を失った。
その扉は開かない。なぜなら開かないように、異物が扉の前に貼られているからだ。その異物を見て、坂上が呟いた。
「……浜中さん?」
扉を塞ぐように、両手の平と両足を、大の字の状態で壁に大きな釘で打ち付けられた浜中は、恐怖の中で死んだと思われる表情を晒している。地面から足が少し浮いていて、下には大量の血が流れ出ていた。
外開きの扉は、浜中の身体が邪魔して開かないだろう。そしてその扉の上部には『さがして 罪を』と血で書かれている。
「抜いて!釘!」
一瞬、坂上はなにを言っているのかわからなかった。そう叫んだ成田が、死んだ浜中の手を引っ張って釘から外そうとしているのを見て、坂上は頭が壊れそうになる。引っ張る度に血が跳ねて、成田の綺麗な顔を汚していく。
「早く!手伝って!」
そう言われた滝田が意を決して、同じように逆の手を外そうとする。しかしその行為は、死体を傷付けるだけでなにも変わらない。
4人は知る由もないが、坂上からの連絡が無かった浜中は、ネットで足立の写真を見付け、自力でなんとかこの場所を特定した。だが捜査本部ではこれらの写真と事件との関連性については懐疑的な意見が多く、直属の上司からも自身の思い込みでの調査は控えるように通達されていた。
だが浜中はその写真の場所がこの遊園地であると判明した時点で、なにか運命のような物を感じていたのだ。ここに行けば必ずなにかがわかる。そう信じて単身ここへ来た。
──なにか起こってからでは遅いんだ!
その一心で駆け付け、そしてネットの書き込み通りこの扉から内部へ侵入し、その直後ここへ磔にされた。今4人の後ろで踊る殺人ピエロによって。ちょうどそれは、4人がミラーハウスで逃げ惑っていた最中だった。
楽しげな音楽の中、滝田と成田を血塗れにしながら、一向に動かないままの浜中。今度こそ自分が事件を未然に防ぐのだと、意気込んで駆け付けた彼は、今ここから逃げようとする4人を阻み続ける。
そんな中加藤は恐る恐る後ろを振り向いた。さっきまで追って来ていた殺人ピエロが、そこに居ないわけがないのだから。
「ッキィ、ハッ!カッ、クェェ」
口から、声のようでもあり、ただなにかが引っ掛かった呼吸のようでもある音を出しながら、音楽に合わせて踊り続ける。そして、スマホから流れていた音楽が止まった。曲が終わったのだ。
それと同時にピエロの身体がゼンマイ仕掛けの人形のように止まる。それを見て恐怖で頭がいっぱいになっていた坂上は、なぜかあの廃墟で見た首の無いピエロのオルゴールを思い出した。だからだろうか、その後起こった変化を見て、坂上は恐怖より先に、やっぱりなと思ったのだ。
ギギギと首だけが右に倒れていき、そして一定の位置で、反動を受けたように止まる。そしてなにかがせめぎ合うような動きで震えを見せた後に、ポロんとその頭が落ちた。
頭は坂上の足元まで転がって来て──。
「キエエエエエエエエエエ!」
叫ぶと同時に残った身体が痙攣しながら包丁を振り回す。
「駄目!逃げるわよ!」
それを見た成田が坂上の手を引っ張って走る。もう終わってしまいたくなるほど、恐怖で頭が真っ白な坂上は、ただ自分の手を握る成田の暖かさだけを信じて走った。
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