一日戦争

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2章

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円陣の直後だった。
 全員の端末に着信があった。掛けてきたのは、もちろんあの鈴木大佐だ。
 電話はテレビ会議モードだったので画面を見ると全員の顔が映っていた。って言うか、一人の端末で話した方が効率が良くないか?
『青春劇は終わったか?』
初っ端から喧嘩を売ってきやがった。
「待っててくれて、ありがとうございます。」
 思いっきり厭味ったらしく返答しといた。その返事に、普通に返してくるところにベテランの風格が感じれる。
『任務の内容を説明する。今回の任務は囮作戦だ。お前らが囮な。』
 息をのむ音が聞こえる。俺も内心焦っていた。囮となると死ぬ危険性はとてつもなく高くなる。そんなことは、赤ん坊でも分かる簡単なことだ。
 端末には地図が表示される。敵地の中に味方がポツンと表示されている。
『お前たちには、この敵地に残された味方が脱出しやすいように敵を引き付けてもらう。この残された一千の味方は南に逃げる。だから、お前たちはこの味方より北で囮となるんだ。』
「ま、待ってくれ、一千の兵士を逃がすための作戦にさっきまで学生だった五人しか当てないのか?それはさすがに…」
『自惚れんなガキども。お前らだけの訳ないだろ。ちゃんとベテラン兵士もいる。』
「じゃ、じゃあ、俺らいらないんじゃ…」
『猫の手も借りたいご時世なんだ。それに囮作戦は銃を撃つだけの簡単なことだし、うまくいけば明日には帰ってこれるぞ。』
「ああ、その分死ぬ確率が極めて高いがな!」
『俺だって好きでこんな指示出してる訳じゃないんだ。それにお前らには最新装備を渡してるんだしな』
 彼はそう言ったあと、付け加えた。
『必ず生きて帰ってきてくれ』
 声のトーンが少し下がったのを不思議に感じたが、俺以外の他の奴は気になんなかったらしく作戦についての質問していた。
「どうやって行けばいい?」
『行は戦闘機に乗ってもらう、で目標地点に着いたら。パラシュートと降下だ。』
「僕、パラシュート使ったことないいんだけど…」
『今の時代、使ったことのある学生の方が少ないんじゃないか?大丈夫その時になったら何とかなるさ。』
「人を殺すの…?」
『そんなあざとい顔しても無駄だからな。ま、暗闇でなんも見えないから暗視スコープつけなきゃなんも見なくて済むんじゃないか。まぁ、呻き声が聞こえるのは我慢しろ』
 不思議なことにジャックが何も言わなかった。でも俺ら四人には分かっていた。通信が終わったあとに怒りを爆発させるのを…
『もういいか。ならさっさと飛行機に乗って戦場に行け。あぁ、聞かれなかったからいい忘れていたけど、帰りは各隊で国境まで来ること。じゃ。』
 ブチッと音をたて通信が切れる。
 ていうかあいつ最後何て言った?


ここから事件が発生するまでは平和だった。
 簡単に説明すると、まず機内でジャックが怒りをまき散らしていた。「捨て駒じゃねえか!」と叫びながらだ。
 しかし、そんな彼もすぐに黙り込んでしまった。飛行機がアクロバティックな動きをして飛び出したのだ。これは別にジャックがうるさくてしたわけではない…と思う。
 そもそも、俺たちが乗せられた飛行機は輸送機ではなく戦闘機だった。何でも敵地の上空を飛ぶならこっちの方がいいらしい。しかし戦闘機だから狭い、しかもジャックが怒っているスペースで二人分くらい使っているのだ。だから俺ら四人は縮こまって座ることになる。
 ケンの奴はサラと密着していた。どうもあの二人は付き合っているという噂があったが、真意は不明だ。そのことを絡めて茶化そうと思ったが、その時の俺にはそんな権利は無かった。俺は俺でサラと密着していたのだ。いくら幼馴染だからと言っても、一人の女の子として見ることだってある。サラは普通に可愛いしな。しかも密着している時は顔を赤くしているんだ。それが可愛いのなんのって。思わずこっちも意識しちまうよ。
 話がそれた。それで飛行機のアクロバティック飛行の話だ。これは言ってしまえば、敵地の哨戒機との戦闘である。俺らを乗せた状態でだ!それはどっちが上でどっちが下か分からなくなるくらい激しかった。そんな飛行機の中ではジャックも黙るしかなかった。
 戦闘は結構長い時間かかっていた。そりゃ怖かったが、落ちるとは思っていなかった。乗る前の機長の言葉が信用できたからだ。
「俺はお前らを絶対に送り届けてやる。たとえ、この命が尽きてしまってもだ。」
 だから、俺らも全面的に彼を信じた。それに哨戒機を落とさなかった場合、俺らの生存率が下がってしまう。できるならつぶしておきたかったのだ。
 結果として敵地上空に上がっていた哨戒機は全部落としたらしい。まあ気休め程度だが有難いことだ。礼を言うと
「いいよ礼なんて、俺はまた最多撃墜数を増やしただけだからな。礼を言うなら、あの大佐に言っときな。この国で一番のパイロットを用意してくれたんだからな。」
 そう言って彼は笑っていた。あいつに礼を言う気はないが。
 そして、目的地まで降下する。いや、投げ出されたの方が正しいか。パラシュートを背負った次の瞬間、飛行機の底が開き真っ逆さまに落とされたのだ。あの機長は最後まで笑っていた。ああいう豪胆な奴が一番長生きするんだ。
 パラシュートは自動に開いたので俺らはそれを操縦しながら目的地に向かった。操縦方法は端末に書いてあった。至れり尽くせりだ。
 もっと怖いものかと思っていたが、夜の空が暗すぎて何も見えず、あまり怖くなかった。そうして端末の情報を頼りに俺らは目的地に向かった。

 で囮としての仕事をした。つまり敵の後方から銃弾を浴びさせ、敵がそれに乗ったら北に逃げる、そして撃つ、逃げる、の繰り返しだ。そうやって俺らが敵を引き付けている間に敵地に残されている味方が南に撤退する。一見完璧な作戦に見えるが、これは不親切なほど囮部隊の事を考えていない。ジャックが「捨て駒」と言うのも無理はない。
銃を撃っている時、みんな黙っていた。俺は正直心を空っぽにしていたといっても過言ではないと思う。
 でも、聞こえてくるのだ。銃声の合間に聞こえる敵の呻き声、怒号、叫び…それが嫌でたまらなかったから俺らは早々に引き上げた。ありがたいことに、俺らのほかにも銃声が聞こえる。多分、あいつが言っていたベテラン兵士の方々だろう。だから俺らはさっさと集合地点に行ってしまった。
 ここまでは良かったのだ、この時点では正直言って楽勝だと感じていた。だってあと帰るだけだぜ?今のところ誰一人としてけがもないし、味方が無事撤退したことを確認したら俺らも撤収だ。しかも今度はベテラン兵士も一緒に帰れるんだ。
 でも俺たちは戦争を甘く見ていた。そんな簡単に行くわけがない。
 何が起こったのか。すべての始まりは集合
地点で保護した一人の少女だった。

「名前はなんていうの」「お母さんはどこ?」と女二人が少女を質問攻めにする。
「おい、困っているだろ。少し落ち着け。」とジャックが言うが、
「あんたもこうしたいんでしょ、このロリコン!」とサラに罵倒される始末
「俺にはジェーンがいるから…」とか言っていたが知ったこっちゃない。
 その少女は布一枚を羽織っている感じのみすぼらしい恰好だった。そして何より無口だ。二人の質問にも「う…」「あ…」としか言わず容量を得ない。
「おい二人とも。自分の母性本能を押さえて、この子をどうするか考えてくれないか。」
「キムとの…」「ケンとの…」
「なんか言ったか?」
『何でもない!』
 二人が何を言っていたのかとてつもなく気になったが、今はそんなことより大事なことがある。
「で、どうする?」
「今から聞いてみればいいじゃないか」
 横からケンが意見を述べる。
「もういろんな人が集まっているんだし話し合いもするんでしょ。その時にでも聞けばいいんじゃないか。」
 集合地点には、味方の囮部隊が揃っていた。そしてみんなが少女のことを興味深そうに見ている。みんなロリコンなのか?
「みんなもケンの意見で賛成か?」
 全員がそれぞれ同意を示してくれたため、俺は隊長達が集まっているところに向かった。

 話し合いは乱闘寸前にまでヒートアップしていた。理由を聞くと、今後の方針でもめてるらしい。味方の部隊は無事撤退中だが、俺ら囮部隊はどうするかと言うことだ。ケビンと名乗る小隊長は徹底抗戦をおす。今ここで敵をあらかた削っておけば、自分たちが逃げる時に楽だ。と言うことらしい。もう一つが、ジョニーという小隊長が言う今すぐ脱出派だ。こっちは説明する必要はないだろう。被害を最小限に抑えるという考えだ。
 俺は、まず味方が無事撤退していることにホッとした。俺らの仕事の所為で失敗していたらたまったもんじゃない。それから今後の方針についての言い争いを聴いていた。
 出来ることなら、脱出したい。こんな戦場からはおさらばして、元の生活に戻りたかった。
 しかしそんな俺の気持ちにお構いなく事態は動く。
 隊長達の言い争いに一つの報告がもたらされた。
「た、た、大変です!て、て、敵にこの村は包囲されています!」
 それからは蜂の巣を突っついたような大騒ぎだった。囮として引き寄せたのに、いざ敵が来られると対処できないなんて。
 それでも俺はここにいる意味を思い出して、それを質問しようとした。ケビンのほうはいなかったのでジョニーに聞いた。すると
「お前らで保護しておけ。お前らが発見したんだろ。それで後方に避難しててもいいから。」
 ですよねー。まあ分かっていたことだ。後方に避難する名目もできたし、遠慮なく避難しよう。
 そう思って、俺はその場から離れた。その時、俺の背中にジョニーが声をかける。
「そうそう、お前ら五人いたよな。最低でも三人は戦ってくれ。俺はいいんだが、ケビンがうるさい。」
 ありがたい助言を受けながら俺はみんなのところに帰った。歩きながら後方に避難する二人を考えていた。まあもう決まったようなものだが。


 想像してた通り、残ったのはケンとマリアだった。まああいつらが自分から言わなくても、俺ら三人に強制的にやらせただろうが。
 後方に避難といっても、村そのものが包囲されているのだから、後方もなにもない。だから、後方避難組は村の中心にある大きな家に居させた。二人から弾倉を受けとり、俺らは村の端に向かう。
 別れる時、隊の空気がピリピリしていた。その空気を緩和してくれたのは、以外にもジャックだった。
「二人とも、そいつ俺の妹に似ているしな。絶対に危ない目に合わせんじゃねえよ。」
 そんなジャックの言葉にサラが空気を読む。
「あんた、自分より年下の女の子を見ると、皆妹に見えるんじゃない。」
 そんな二人のやり取りを見て、隊の空気が少し緩んだ。マリアやケンも笑みを浮かべている。
 突然、パーンと甲高い銃声が鳴り響いた。 
「始まった!」
「マリア、ケン、その子を頼んだわよ。」
「分かりました」「任せてくれ」と二人の返事を背中に俺らは、戦場に向かった。

そこは地獄だった。さっきの囮作戦が遊びに感じれる。真夜中だというのに、昼のように明るい。森の木が燃えているのだ。木が燃え、銃口は光り、鳴り響く。銃声のうるさすぎて隣の人との会話もままならない。
「おい!生きてるか!」
 どこか遠くでジャックの声が聞こえる。俺も負けじと怒鳴り返す。
「生きてるぞ!」
「ちょ、ちょっと!向こう戦車まで出てきたわよ!」
「伏せろ!」
 奇跡的に、俺らはだれ一人として怪我せずにすんだ。長い時間戦っている気がしたが、実はそんなたっていないのかもしれない。
 やがて、敵の攻撃が散発的になった。周りの味方の会話を聞く限り、もう一回来る可能性があるとか。これが戦場の凪というやつか。
「みんな無事か?」
「おう…」「何とか…」
 返事が聞こえてきてホッとした。やはり生の声が聞こえると落ち着く。
「今は敵が来ないみたいだから、一回二人のところに戻らないか?」
「て言うか、もう撤退してもいいんじゃないか?」
 それは俺も思った。敵を殲滅することは目的じゃないし。っていうか流れで戦っちまったけど、もう撤退してもいいんじゃないか?
 周りを見たらもういくつかの隊は帰り支度を始めていた。でも残る隊もあるみたいだ。
 こういう時は、誰に聞けばいいのだろうか?ケビンもジョニーも見当たらないし。 「あの人に聞けば。」
サラが言った人物はうってつけの人だった。そう思って俺は端末を開く。

『それが俺ってわけか』
「そ、どうすればいいと思う?」
 俺がかけたのは鈴木大佐だ。こいつの命令なら、ケビンやジョニーに文句を言われても言い訳のしようがある。
『死にたいなら。そこに居続ければいいさ。』
「分かった。なら撤退するわ。どう行けばいい?」
『なんでも聞くな。ちょっとは自分で調べろ。その場所からずっと南にいけば街道に出る。そこをまっすぐに行けば国境につく。以上だ。』
 なんだかんだ言って、答えてくれることに優しさを感じる。
「ああ、そういや、一人の少女を保護したんだけどどうすればいい?」
『少女?』
「興味あんのか?お前まさかロリコンのか?犯罪だぞ。」
『その少女はどんな格好で、いま何をしている。』
 あいつの声が少し切羽詰まった声を出していた。その声にあてられて俺も思わず声が上ずる。
「しょ、少女は布一枚をくるまっている感じで、今はケンとマリアと一緒に村の家いるけど…」
『今すぐ!』
 突然の大声に俺は思わず端末から耳を離す。そんな俺に構わず、鈴木大佐は話を続ける。
『今すぐ二人をその少女から離せ!早く…』
 俺はその言葉を最後まで聞くことができなかった。村の中心で大きな爆発音が鳴ったのだ。俺は端末から耳を離し、現場に向かった。不安で押しつぶされそうだった。
 まさか、ありえない、何かの間違いだ…
 そう感じながら俺は走った。現場にはジャックとサラが呆然と佇んでいた。
 そこでは、ケンとマリアがいたはずの家が燃えながら崩れ落ちるところだった。
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