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番外編

春、う・ら・ら? 最終話

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そして三日後。

「僭越ながら、ご挨拶申し上げます。本日は私の無理な願いを聞き入れて下さり、誠にありがとう存じます」

先日の閣議場に比べると二回りほど小さな部屋ではあるが、この国の重鎮たちを前に、ミルは堂々と挨拶をした。

その精悍な勇姿に、エトルは一瞬見惚れるが、それを慌てて打ち消す。


「では、さっそく本題に入ろうか。君の、コンバル皇国行きを認めて欲しい、って事だよね、ミル嬢」

「はい!と、申しましても、まだあの国に予定していた魔道具全品を輸出するのはいかがなものかと存じますので。ひとまず人道的なものを運ばせてもらえたら、と思っています」

ジークがさらっと言い始め、ミルが答えて会議が始まる。のだが。

「は?!」

まさかの予想的中に、エトルは仕事中にも関わらず地で声を上げてしまった。それをしまった、と考える間もなく、更に言葉を続ける。

「ミル嬢、何を考えている?あの国は今、内乱中だ。とても危険なのは理解できるだろう?君の、故国の子ども達への気持ちは分かる。分かるが、ダメだ。ーーー陛下もなぜ、わざわざこんな会議を開く許可を?必要ないではないですか!!」

驚きと焦りと心配で、感情的に叫んでしまう。

周りのグリーク王国の重鎮たち改めエトルの友人たちは、それをちょっと楽しそうに見たり、あらあらと見たりしているのだが、それは内緒だ。本人は必死で、皆の表情に気づく余裕はない。

「エトル様。陛下も始めは渋っていらっしゃいました。けれど、諦めきれなかったので」

ミルがエトルに答えるように話す。

「だから、分かるが!本当に危険だ!!クーデター騒動が落ち着いてからで、いいだろう!」
「それでは遅いのです。特に、小さい子どもは」
「っ、だが」
「それに、私のモットーがございます。出来ない理由を探すより、出来る事をやりたいと」

エトルはぐっ、と息を飲む。ミルが含みを持たせたのかは分からないが、今のエトルには抉られる言葉だ。

エトルが言葉を詰まらせたのを見て、ミルは話を続ける。

「有り難いことに、家族が愛してくれて、友人や先輩方が心配してくれて、幸せ者なのは自覚しております。ましてや単独で勝手に行動し、あちらの国で何かがあったりしたら、私一人の責任などでは済まなくなることも理解しています。……ですので、私が安全上問題なくあの国に行ければ良いのでは、と考えました」

「は、」エトルはまだ声が出ない。

ので、ミルはつらつらと話を進める。

「なのでまず、ローズ様とエマ様にお会いして、私に最強の加護をかけていただくようにお願いしました。あ、もちろん対価は払いますよ?お二人は直接不要とのことなので、自分の資産から各教会や孤児院に寄付を」
「な、それは、大丈夫なのか……?」

エトルは茫然自失気味だ。

「大丈夫大丈夫。久しぶりに女神様から御神託を賜ってね。遠い国だし、勝手に向こうの国に干渉はできないけれど、グリーク王国の国民を守る体で多少の協力はできるって。今回は特別枠でいけるみたい。ローズと私の陰陽の加護が付いたら、凄いわよ!」
「め、女神様、軽くないか……?」
「エマに似てるわよね。魂を分けただけあって」
「ちょっとローズ、あなたもでしょ!」

グリーク王国の誇る、二人の聖女が、わちゃわちゃしてる。うん、見慣れてなくはないが。いいのか?いいんだな、女神様?とか、収まりつかない気持ちを女神様にぶつけるエトル。

「これで、私の身を守るという心配事は消えました。そして、コンバルの隣のデゼルト国に縁の深いシャロン様のご実家の商会から、コンバルの情報とデゼルトの薬も入手できました。あちらの地方には、あちら独特の病気もあるので……これもまた有り難いことに、今回はルイーダ家が寄付して下さいました」

「私は風魔法が少し使える程度で、魔法で役に立つことは少ないですが。大好きな親友が魔石をたくさん作ってくれて……それと、持っている者同士が通話出来る魔道具も作ってくれました。ちょうど試作ができたらしくて、実験も兼ねてとプレゼントしてくれました。これで、ようやくカリンも諦め……いや、納得してくれました」

「それとですね……」


次から次へと出て来るミルの策略に、エトルはもう、二の句が継げない。


ああ、この子は凄いな。


キラキラキラキラ。エトルは人のオーラなんて見えないけれど、ミルの身体は輝くオーラに包まれているようだ。


自分が同じ所から踏み出せずにいた頃に、下を見ずに前へ進んで。もう次へ向かっていて。自分の情けなさが身に染みる。

「以上です!いかがでしょうか?」

ミルの独壇場のようだった説明が終わる。皆一様に頷き、反対意見など出ない。

「では、ミル嬢のコンバル皇国行きを認めよう。……そして、グリーク王国からも子どもたちに支援を。それだけなら、内政干渉にはなるまい」
「!!ありがとうございます!!!」
「いや、ミル嬢の行動力には恐れ入ったよ。そうだな、守ることも大事だが……動くことを忘れてもいけないな。久しぶりに思い出した心地だ。礼を言う」
「そんな、身に余る光栄です!」

ジークが纏めて、この会議……というか、ミルの説明会は終了だ。魔石を持って行く以上は国の許可を取らないといけないからな。だから俺も呼ばれた訳だ。エトルは、どう表現したらいいか分からない気持ちを抱えさせられ、皆があれこれ盛り上がっているのをぼんやりと眺めることしか出来ないでいた。

「……様!エトル様!どうですか?エトル様も納得して頂けましたか?」
「っ、お、おう。いいんじゃないか」
急にミルに話を振られて、少し慌てるエトル。
「ちゃんと聞いてました?」
「聞いてたよ!さすがミル嬢だ。発想も柔軟だし、さすがだと思っていたよ」
「本当ですか?」
「本当だ。手をこまねいていたこっちが恥ずかしいくらいだ。尊敬さえも覚えるよ」

エトルは心の底から賛辞を贈った。自分には勿体ないほどの輝く女性。

「やった!ではエトル様、私にご褒美を下さい!」
「褒美?」
「はい!私はこの援助活動、移動時間も含めたら、二年は帰れないと思うんです」
「二年……」

それはそうだ。片道数ヶ月かかるのだから。理解しているのに、エトルは心に重石が乗ったように感じる。

「それで、もし二年後も、エトル様がお一人でしたら、私が帰って来てからお付き合いしてください!!」
「……は?」
「……ダメ、でしょうか?」

ミル嬢の上目遣いが反則的に可愛い……じゃなくて!

「何を、バカな、」

ダメだ、考え直させないと。ミルの時間を無駄遣いさせられない。エトルは否定しようとする。

「バカじゃないです!二年経てば、私ももう少し大人になってます!エトル様に少しでも追い付けるように努力します!」
「ミル嬢、そんな」
「そんな、じゃないです!この、間、軽い気持ちで言ったんじゃないんです……」

先ほどまでの様子とは打って変わり、顔を真っ赤にしながら俯いてしまうミル。

……そうだ、俺は何をしていた?何からも逃げるばかりで、今の安定から抜け出すのを恐れて。

あの二人の幸せを心から祝福したけれど、後悔はその倍以上あって。ーーーあの時、そんな相手を見つけたら、情けなくともみっともなくても追いかけると決意をしたのではなかったか。

いつの間にか、出来ない理由ばかりを探すようになって。手を離される恐怖から抜け出せずに、自分から相手の手を叩くような真似をして。

「あー!もう!やっぱダメだな!俺は!!」
「エ、トル様?」

エトルの急な大声にミルが一瞬驚いて顔を上げた……と同時に、エトルはミルを抱きしめた。

「エト、エトル、様?」
「ごめん。俺、嘘ついた。あの日、ミル嬢がああ言ってくれたこと、本当はすげぇ嬉しかったのに……怖くて逃げたんだ」
「エトル様……」
「だって君ときたら笑顔が可愛くて前向きで、へこたれなくて理論的なのに感情も豊かで。眩しすぎて直視出来ないのに、会うとつい目で追ってしまって」
「エト、あの、」
「……いつの間にか、愛していたんだ。二年なんて待たずに、俺の傍にいて欲しい」
「~~~!!」

エトルの言葉に、耳まで真っ赤になったミルは、あまりの恥ずかしさにエトルの胸に顔を埋める。

「ねぇ、ミル嬢。可愛い顔を見せて?」
「~~~!何、何ですか、急に攻撃力が上がって、ついていけません……!!」
「なぜ?そもそもミル嬢が熱烈な事を言ってくれたじゃないか。遠慮するのは止めたんだよ。それに思い出したんだ。今度愛する人が出来たら、全力で口説こうと思っていたこと」
「ソウナンデスカ」
「うん、そうなんだ。情けないことに忘れていてね。ずいぶんと年下の君に思い出さされるなんて、恥ずかしいけれど……」
「わ、も、もう、エト」

過去やら、しがらみやら何やらを全て捨てて、急に放たれたエトルの本気の甘々攻撃に、ミルはもう涙目だ。


「「はい、そこまで!」」
「いてっ!」

二人の聖女が息ピッタリに、エトルの頭を軽く叩く。

「いや、痛いよ。軽くないだろ……」
「何言ってるのよ。人前で急にスイッチ入りすぎよ!」
「まだミルちゃん可愛いんだから~!」

二人の聖女に久々に怒られた。何だか笑ってしまう。

「笑い事じゃないぞ。下手したらカリンに怒られる。いやそれにしても、やっぱりエトルが本気で口説くと凄いな。久しぶり見た」
「トーマス、誤解を招く言い方はよせ。今まで本気で口説いたことなどないからな!」
「ほう、そうだったか」
「ジークまで。止めてください」

エトルの真顔に、皆が笑い出す。特にジークとトーマスは本当に嬉しそうで。

「あの、それで、そろそろ離して……」

エトルの腕に抱えられたままのミルが、少し抗議の声を上げる。

「ああ、ごめん。ミル嬢がずっといてくれるなら、離すよ」
「私もいたいですけれど。……コンバル行きは止めません」

ミルが強い瞳でエトルを見る。

「あ、そうか、言葉足らずだった!俺も一緒に行くから!」
「はい?どこにですか」
「コンバル皇国に決まってるだろ」
「何で?!」
「何でって、惚れた女性が行くから?」
「いや、ダメでしょう!魔法省長官!」
「そんなことミル嬢に言われてもなあ。説得力ゼロだろ。大切な人は近くで守りたいからね。俺、お得よ?結構魔法得意だから」
「……存じ上げておりますが……」
「あ、でも、ローズ、エマ、ちゃんとミルに加護つけてね?慎重になるに越したことないから」
「ちょ、エトル様!」

いつもの軽口のように話すエトルに、さすがのミルも慌てるが、二人の聖女は楽しそうに笑う。

「分かってるわよ」
「エトルはいいの?」
「何、付けてくれるの?」
「そりゃあね、大事な人の大事な人だし。それに」
「私たちも、友達でしょ!」

二人の言葉にエトルは泣きそうになり、慌てて上を向く。それに気づいた四人に揶揄られて、真っ赤になりながらも嬉しそうだ。

もう、ミルが気にした、あんな顔はしないだろう。

ミルも微笑む。


「「ああ、幸せだ……」」

エトルとミルは二人で同時にそう言って、顔を見合わせて笑った。想いが通じ合うって、なんて奇跡的で幸せなことなんだろう。


「ミル嬢、出発はいつ?」
「一週間後の予定ですが……」
「よし、じゃあそれまでにルーエンに長官を引き継ぐわ!」
「ほ、本気で?」

いいの?とジークを振り返ると、笑いながら手でシッシッてしていて。……いいのか。まあ、陛下がいいなら、いいのか?いいでしょ!


「ルーエン優秀だから、大丈夫!」
「まあ、それはそうですが……」


これから二人でいられるなんて、すごく心強いし、幸せだ。ますます、頑張ります!とミルは女神様に誓う。


まずは明日、親友の侯爵夫妻に菓子折りを持って謝罪に行かなきゃな、と思いながら。


うららかな、春の日に。




─────────────────────────



五万字遠かったです(ToT)


まだまだ勉強ですね。


ここまでお付き合い、ありがとうございました!

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