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番外編
春、う・ら・ら? その9
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言い訳すると、ミルは駆け出しと謙遜するが、今やグリーク王国で一、ニを争うマーシル商会の凄腕商人だ。
その商売センスと才能はピカ一で、カリンの父からも商会のホープとして学園在学中から目をかけてもらっている。だからこそ、この若さでの今回のような大役だって任されたのだ。
いつでも冷静に、相手を見て。相手の要望に沿うように、何よりこちらにも利があるように。上手く、上手く。
恋愛も興味がない訳ではなかったが、仕事より夢中になれる異性なんかいなくて、ミルのエキゾチックな外見と商会に惹かれて言い寄ってきた奴等は軽くあしらえた。
のに。
なぜかミルはエトルの前だとらしさを失う。いや、ある意味ではこれがミルでいいのだ。……けれど、仕事としては、ない。
グリーク王国は18歳で成人だ。
アルコールを嗜んでまだ一年そこそこだが。
今まで醜態を晒したことなんぞも、ない。アルコール耐性も結構ありそうだし、何よりコントロールしている。
のに。
今日のこれは、ダメだ。やらかしだ。
やらかしその1はもちろん、エトルの学生時代の異性関係に触れたこと。でもこれは、話題としては仕方ないとも取れる。私は彼の学生時代は知らないのだから。
ーーーそう。やらかしその2は話題を止めたことだ。
何も知らないようにさらっと聞いて、何事もなかったかのように違う話に変えれば良かったのだ。
いつもなら、できたことなのに。
しかしもう、時間は戻らない。出した言葉も。
そういえば、頭が真っ白になるって、何も考えられないのてはなくて、たくさん考えすぎて訳が分からなくなるものだって聞いたことがあるわ……。
と、ここまでミルがぐずぐず考えているのは、せいぜい三秒ほど。でも会話としては、なかなかな間だ。
「……カリンに、何か聞いたの?」
さらに少し間を置いて、エトルが視線を下げて口を開く。何だか自虐的な表情に見える。
「や、違っ……いえ、違ってはいないのですが、そういう意味ではなく」
「……いいよ。自分でしたことだから。どこまで聞いたの?」
「っ、私が、カリンに聞いたんです。……ちょっと、気になって。あの、カリンは言うべきか迷っていたんです!けど、他から曲がった事を聞くよりは、って。自分が見ていた事実だけ、って」
「事実、か……」
それきり、エトルは黙ってしまう。
……重い。空気が重すぎる。
きっと私は思い違いをしていた。そうだ、今でもあんな顔してしまうほどの出来事だったのだ。
エトルにとっては、簡単に昔のことでは……ないのだ。
「……すみません」
今さらそんなことに気づいたミルは、居たたまれなくなり俯いてしまう。
そんなミルを見て、ハッとした顔をするエトル。そして困ったような、自分もやってしまったような表情をして、ミルの頭にポンと手を置く。
「ごめん、ごめん。ミル嬢に気を使わせたな」
優しい声に、ミルは顔を上げる。
エトルは優しい顔をしている。でも、また泣きそうな、あの笑顔だ。……本当にやらかしだ。ミルは生まれて初めて、時を巻き戻したいと思った。
その商売センスと才能はピカ一で、カリンの父からも商会のホープとして学園在学中から目をかけてもらっている。だからこそ、この若さでの今回のような大役だって任されたのだ。
いつでも冷静に、相手を見て。相手の要望に沿うように、何よりこちらにも利があるように。上手く、上手く。
恋愛も興味がない訳ではなかったが、仕事より夢中になれる異性なんかいなくて、ミルのエキゾチックな外見と商会に惹かれて言い寄ってきた奴等は軽くあしらえた。
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なぜかミルはエトルの前だとらしさを失う。いや、ある意味ではこれがミルでいいのだ。……けれど、仕事としては、ない。
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のに。
今日のこれは、ダメだ。やらかしだ。
やらかしその1はもちろん、エトルの学生時代の異性関係に触れたこと。でもこれは、話題としては仕方ないとも取れる。私は彼の学生時代は知らないのだから。
ーーーそう。やらかしその2は話題を止めたことだ。
何も知らないようにさらっと聞いて、何事もなかったかのように違う話に変えれば良かったのだ。
いつもなら、できたことなのに。
しかしもう、時間は戻らない。出した言葉も。
そういえば、頭が真っ白になるって、何も考えられないのてはなくて、たくさん考えすぎて訳が分からなくなるものだって聞いたことがあるわ……。
と、ここまでミルがぐずぐず考えているのは、せいぜい三秒ほど。でも会話としては、なかなかな間だ。
「……カリンに、何か聞いたの?」
さらに少し間を置いて、エトルが視線を下げて口を開く。何だか自虐的な表情に見える。
「や、違っ……いえ、違ってはいないのですが、そういう意味ではなく」
「……いいよ。自分でしたことだから。どこまで聞いたの?」
「っ、私が、カリンに聞いたんです。……ちょっと、気になって。あの、カリンは言うべきか迷っていたんです!けど、他から曲がった事を聞くよりは、って。自分が見ていた事実だけ、って」
「事実、か……」
それきり、エトルは黙ってしまう。
……重い。空気が重すぎる。
きっと私は思い違いをしていた。そうだ、今でもあんな顔してしまうほどの出来事だったのだ。
エトルにとっては、簡単に昔のことでは……ないのだ。
「……すみません」
今さらそんなことに気づいたミルは、居たたまれなくなり俯いてしまう。
そんなミルを見て、ハッとした顔をするエトル。そして困ったような、自分もやってしまったような表情をして、ミルの頭にポンと手を置く。
「ごめん、ごめん。ミル嬢に気を使わせたな」
優しい声に、ミルは顔を上げる。
エトルは優しい顔をしている。でも、また泣きそうな、あの笑顔だ。……本当にやらかしだ。ミルは生まれて初めて、時を巻き戻したいと思った。
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