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44.聖女の立場
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「あ、あの、リック様は大丈夫そうですか?」
スラン先生の表情も心配だけど、状況も確認しなければ。私は様子を伺いながら聞いてみる。
「……彼はエマのヒールのお陰で怪我もなく元気だ。サーラ先生にも診てもらった。さすが、エマのヒールだと褒めていらしたよ」
「そうだね。まあ、あとは奴の気持ちがどうだかだ!乗り越えるか、諦めるか。今頃はカーラに説教されてるだろう」
あの自信家のリック様だ。確かに、精神的にはかなりキツいだろう。でも。
「……できれば乗り越えて欲しいですね。1度失敗すれば、気付きも多いですし」
失敗は成功の母ですよ!
「そう、思うのか?」
スラン先生が少し驚いたように言う。
「そうですね。失敗も大切な経験だと……まあ、今回は誰も怪我などもしなかったから言えることでもありますが……サーラ先生も仰っていましたが、あとはご本人次第ですけどね」
「そうか……やはり、俺はダメだな……」
最後の方は、やっと聞こえるくらいの声で呟き、スラン先生はまたそのまま黙ってしまった。……もしかして自分に怒ってる……?落ち込んでしまっているようだ。
「あ、あの、スラン先生。あのリック様の状態でしたら、あの対応で仕方無かったと思います。私が倒れてしまったのは、私の自業自得ですし」
「それはそうさね」
サーラ先生がすかさず突っ込む。そうなんですけど!反省してます!
「そ、そうです、それに、ローズの魔法がなければ、あんなにすんなりと行ったか……」
と、言ったところで思い出す。咄嗟のこととはいえ、まだ秘密であるはずの月の魔力を……。
「ロ、ローズ、ごめん、その、あの後は……?」
「ふふ、ええ、あの後にすぐセレナ様がいらして下さって」
『ローズマリー様、畏れながら先ほどの魔法は、先日ラインハルト様が仰っていた慶事ごとと関係がおありですわね?』
『でしたら、皆様のことは私にお任せを。大きくならないように対処致します。ローズマリー様はエマ様に付いていて差し上げて下さい』
「って、仰ってくれて。…お言葉に甘えて、お願いしたわ」
さ、さすがのセレナ様ー!!頼りになります!
「よ、良かった……」
「……その事も含めてだ。二人には余計なことをさせてしまった…ローズにも、改めて済まなかったと思う」
スラン先生が、苦々しく言う。
「…スラン先生!」
私が少し大きな声で呼んだので、驚いたようにこちらを見るスラン先生。
「余計なことって何ですか?皆が無事でしたし、良かったじゃないですか?!あの錯乱状態の自信家の魔力暴走を、…大怪我をさせずに…万が一があったら殺しもせずに、止めるのは困難です!」
「だが」
「だが、じゃないです!スラン先生が水で縛って下さらなかったら、炎がもっと広まってしまったかもしれない。皆で出来ることをやりました!……ローズの魔法は、そりゃ、ちょっと国の意思に反してしまいましたけど……ローズがいなければ、あんな短時間では済まなかった……きっと、陛下も許して下さる」
「そうさな。陛下も聖女たちには甘かろう。大事にはならないだろ」
サーラ先生……どこまで気付いてるの……怖いわ。
「そうですわ、スラン先生。私、この魔力がお役に立てて……少し不謹慎ですけれど、喜びもございます」
ローズも援護してくれる。
「……ありがとう。生徒に慰められて、情けないな、俺は」
苦笑気味に言うスラン先生。
「ああ、もう、しみったれた奴だね!あんたは二人の気持ちをありがたく受け取って、自分の給料の心配だけしてればいいんだよ!」
サーラ先生がバシッとスラン先生の背中を叩きながら言う。
「……お給料?」
何のこと?私は聞き返す。
「あ、いや、それは……」
「錯乱したのはリック本人に一番責任があるのは確かだが、そりゃ、監督責任者にも何かしらの罰はあるだろう?特に今回はエマ、聖女のお前さんも倒れたんだ」
スラン先生が否定するのを遮って、サーラ先生が一気に話す。私はひゅっと息を飲む。
「……自分の立場を忘れてはいけないよ」
「……はい。申し訳ありませんでした」
私はしゅんと俯いてしまう。そうだった、国の宝と言われる立場に立たせてもらっているのだ。最近またいろいろ順調で気持ちが浮かれすぎていた。ローズが心配そうに背中を擦ってくれる。優しくて落ち着く。
「サーラ先生…」
スラン先生が咎めるように言う。
「本当の事だ。スラン。勘違いするなよ、何も今回の行動がダメだと言っている訳じゃない。立場がある者は、体調管理も仕事の内だ」
「…ですが」
「スラン先生、サーラ先生の仰る通りです。ありがとうございます、私は大丈夫です!サーラ先生もありがとうございます。これからもご指導お願いします」
「ああ」
サーラ先生が優しく微笑んでくださる。叱ってくれて、フォローしてくれて、ありがたい。
「エマ……君は、本当に」
「あ、スラン先生!あの、せめて今日の私の体調不良はちゃんとお伝えします!!私の責任分は、私が取りますので!お給料とか、大変……!理事長で大丈夫ですか?…陛下は大袈裟、よね?あ、あと、普段の先生たちの素晴らしさも合わせてお伝えします!スラン先生の水魔法、芸術的ですし、カーラ先生も……」
「エマ、」
「?は……」
返事をしようとしてスラン先生の方を見ると、眩しそうな表情をしている先生と目が合う。
そしてスラン先生の右手が私に向かって伸びて来て、左頬に触れそうな時、トントン、とドアがノックされた。
スラン先生がビクッと手を止める。
「誰だい?お入り」
「…失礼します、ラインハルトです。エマ嬢が倒れたと聞いて、様子を……」
ラインハルト様が軽く会釈をして入って来る。
そして私を見て笑顔の後、スラン先生の伸ばされたままの右手に気付く。
「……スラン先生?それは?」
「…っ、いや」
スラン先生は、右手を私の頭にポンと乗せる。
「…エマ、今回はいろいろとありがとう。私たちの事は心配しなくて大丈夫だ。…次の授業の準備もあるので、これで失礼するよ」
そして他の三人に会釈して、保健室から出て行った。
「ラインハルトの勘は、たいしたもんだねぇ」
「サーラ先生。恐れ入ります」
何ですか、この会話。
「ハルト、こっわ!」
ローズの囁くような一人言も怖いです。
スラン先生の表情も心配だけど、状況も確認しなければ。私は様子を伺いながら聞いてみる。
「……彼はエマのヒールのお陰で怪我もなく元気だ。サーラ先生にも診てもらった。さすが、エマのヒールだと褒めていらしたよ」
「そうだね。まあ、あとは奴の気持ちがどうだかだ!乗り越えるか、諦めるか。今頃はカーラに説教されてるだろう」
あの自信家のリック様だ。確かに、精神的にはかなりキツいだろう。でも。
「……できれば乗り越えて欲しいですね。1度失敗すれば、気付きも多いですし」
失敗は成功の母ですよ!
「そう、思うのか?」
スラン先生が少し驚いたように言う。
「そうですね。失敗も大切な経験だと……まあ、今回は誰も怪我などもしなかったから言えることでもありますが……サーラ先生も仰っていましたが、あとはご本人次第ですけどね」
「そうか……やはり、俺はダメだな……」
最後の方は、やっと聞こえるくらいの声で呟き、スラン先生はまたそのまま黙ってしまった。……もしかして自分に怒ってる……?落ち込んでしまっているようだ。
「あ、あの、スラン先生。あのリック様の状態でしたら、あの対応で仕方無かったと思います。私が倒れてしまったのは、私の自業自得ですし」
「それはそうさね」
サーラ先生がすかさず突っ込む。そうなんですけど!反省してます!
「そ、そうです、それに、ローズの魔法がなければ、あんなにすんなりと行ったか……」
と、言ったところで思い出す。咄嗟のこととはいえ、まだ秘密であるはずの月の魔力を……。
「ロ、ローズ、ごめん、その、あの後は……?」
「ふふ、ええ、あの後にすぐセレナ様がいらして下さって」
『ローズマリー様、畏れながら先ほどの魔法は、先日ラインハルト様が仰っていた慶事ごとと関係がおありですわね?』
『でしたら、皆様のことは私にお任せを。大きくならないように対処致します。ローズマリー様はエマ様に付いていて差し上げて下さい』
「って、仰ってくれて。…お言葉に甘えて、お願いしたわ」
さ、さすがのセレナ様ー!!頼りになります!
「よ、良かった……」
「……その事も含めてだ。二人には余計なことをさせてしまった…ローズにも、改めて済まなかったと思う」
スラン先生が、苦々しく言う。
「…スラン先生!」
私が少し大きな声で呼んだので、驚いたようにこちらを見るスラン先生。
「余計なことって何ですか?皆が無事でしたし、良かったじゃないですか?!あの錯乱状態の自信家の魔力暴走を、…大怪我をさせずに…万が一があったら殺しもせずに、止めるのは困難です!」
「だが」
「だが、じゃないです!スラン先生が水で縛って下さらなかったら、炎がもっと広まってしまったかもしれない。皆で出来ることをやりました!……ローズの魔法は、そりゃ、ちょっと国の意思に反してしまいましたけど……ローズがいなければ、あんな短時間では済まなかった……きっと、陛下も許して下さる」
「そうさな。陛下も聖女たちには甘かろう。大事にはならないだろ」
サーラ先生……どこまで気付いてるの……怖いわ。
「そうですわ、スラン先生。私、この魔力がお役に立てて……少し不謹慎ですけれど、喜びもございます」
ローズも援護してくれる。
「……ありがとう。生徒に慰められて、情けないな、俺は」
苦笑気味に言うスラン先生。
「ああ、もう、しみったれた奴だね!あんたは二人の気持ちをありがたく受け取って、自分の給料の心配だけしてればいいんだよ!」
サーラ先生がバシッとスラン先生の背中を叩きながら言う。
「……お給料?」
何のこと?私は聞き返す。
「あ、いや、それは……」
「錯乱したのはリック本人に一番責任があるのは確かだが、そりゃ、監督責任者にも何かしらの罰はあるだろう?特に今回はエマ、聖女のお前さんも倒れたんだ」
スラン先生が否定するのを遮って、サーラ先生が一気に話す。私はひゅっと息を飲む。
「……自分の立場を忘れてはいけないよ」
「……はい。申し訳ありませんでした」
私はしゅんと俯いてしまう。そうだった、国の宝と言われる立場に立たせてもらっているのだ。最近またいろいろ順調で気持ちが浮かれすぎていた。ローズが心配そうに背中を擦ってくれる。優しくて落ち着く。
「サーラ先生…」
スラン先生が咎めるように言う。
「本当の事だ。スラン。勘違いするなよ、何も今回の行動がダメだと言っている訳じゃない。立場がある者は、体調管理も仕事の内だ」
「…ですが」
「スラン先生、サーラ先生の仰る通りです。ありがとうございます、私は大丈夫です!サーラ先生もありがとうございます。これからもご指導お願いします」
「ああ」
サーラ先生が優しく微笑んでくださる。叱ってくれて、フォローしてくれて、ありがたい。
「エマ……君は、本当に」
「あ、スラン先生!あの、せめて今日の私の体調不良はちゃんとお伝えします!!私の責任分は、私が取りますので!お給料とか、大変……!理事長で大丈夫ですか?…陛下は大袈裟、よね?あ、あと、普段の先生たちの素晴らしさも合わせてお伝えします!スラン先生の水魔法、芸術的ですし、カーラ先生も……」
「エマ、」
「?は……」
返事をしようとしてスラン先生の方を見ると、眩しそうな表情をしている先生と目が合う。
そしてスラン先生の右手が私に向かって伸びて来て、左頬に触れそうな時、トントン、とドアがノックされた。
スラン先生がビクッと手を止める。
「誰だい?お入り」
「…失礼します、ラインハルトです。エマ嬢が倒れたと聞いて、様子を……」
ラインハルト様が軽く会釈をして入って来る。
そして私を見て笑顔の後、スラン先生の伸ばされたままの右手に気付く。
「……スラン先生?それは?」
「…っ、いや」
スラン先生は、右手を私の頭にポンと乗せる。
「…エマ、今回はいろいろとありがとう。私たちの事は心配しなくて大丈夫だ。…次の授業の準備もあるので、これで失礼するよ」
そして他の三人に会釈して、保健室から出て行った。
「ラインハルトの勘は、たいしたもんだねぇ」
「サーラ先生。恐れ入ります」
何ですか、この会話。
「ハルト、こっわ!」
ローズの囁くような一人言も怖いです。
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