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16.光と闇 その1

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私の言葉に、二人が固まる。

私も黙ってしまう。

最初に言葉を発したのは、やはりジークだった。

「なるほど……ゲームではそんな表現はないが、現実となると、そうか」

そして、私を真っ直ぐに見る。

「でも、エマはやらないのだろう?」

笑いながら言ってくれる。


嬉しすぎる。

「もちろんです!ここは、聖女の名に懸けても!!」

ローズがそっと、私の手を握る。

「私も信じてるわ、エマ」

その言葉に泣きそうになり、ローズに抱きつく。

「まあ、そもそもエマは飴ちゃん知らなかったしな。俺らの前で魔法を見せたのだって、俺らを安心させる為だろう?黙ってやろうと思えばできることを」

私は頷く。

「魅了魔法は禁忌だし、怖いし、練習したこともないし、絶対使わないけれど、やろうと思えばできてしまうのが分かるの」

そう、治癒の魔法の付与ができると分かった時から、感じていた不安。力がありすぎる恐怖。


「だから一生懸命修行して、魔力のコントロールをしっかり覚えた……せっかくの力を、人を傷つけることに使いたくない」

そうだ、そこは私の譲れないポリシーだ。

前世から、今生にだって引き継ぐぞ。

「エマ……とても頑張ったのね」

「そうなの、褒めてー!」

「よしよし」

ローズに背中を撫でられる。落ち着く。優しい、静かな温かさが広がるよう。


ローズは暫くの間撫でていてくれて、ふと、手を止めた。

そして、一瞬の間。

どうしたのだろうと、私も顔を上げる。


「……ジーク、私も、いいわよね……?」

「……ああ……」

「……………………っ」

「ローズ、大丈夫か?」

「……ええ、大丈夫、ちゃんと言うわ」


そして。


「エマ……私の魔力属性は『風』と…そして、『闇』もなの……」

ローズが、弱々しい声で告げた。


「闇……」

私は呟く。光と同じように珍しく、詳細不明な事も多いはずだ。

「俺から補足すると……ゲームの中では、ローズはその闇魔法を使って、エマを虐めるというか……殺そうとしたとされるんだ」

私はヒュッと息を飲む。

「もちろん、未遂で終わるし、そもそもゲーム内でもローズは風魔法使いで……ちょっと脅すつもりが、嫉妬心と闇魔法が反応して、大袈裟なことに……それを助けるのがゲーム内の俺。で、ローズはそれが原因で国外追放になるわけだ」

「……エマは…ちゃんと自分のことを全部話してくれたのに、黙っていて……卑怯でごめんなさい……せっかく友達になれたのに……嫌われたらと思うと、怖くて言い出せなかったの……でも、エマは魅了魔法の事まで話してくれた……私、自分が恥ずかしくて…!」

私はまた、ローズに抱きつく。いや、今度は抱き締める。


「ローズ、話してくれてありがとう。私だって、魅了魔法の話をしたのはさっきよ?おあいこじゃない!」

ローズが泣くのを堪えた顔で、私を見る。

「しかもあれでしょ、ローズもきっとたくさん頑張ったでしょ?闇魔法は文献も少ないし、分からないことが多いけど……感情のコントロールが大切だと聖女教育中に教わったわ」

ローズの両目から、堪えきれなくなった大粒の涙が流れる。


「公爵令嬢で、しかも闇魔法まで持たされて。しかも小さい時に前世まで思い出して……ローズの努力は、尊敬するわ。なかなかできないわよ?」

「……ひぐっ、ちがっ、わた、わたしよりエマっ、エマがっ…おと、お父様も早くに亡くして……い、いろいろ、頑張っ、てっ!」

やだもう、何、この可愛らしい生き物。

またもらい泣きしちゃうじゃない。

「ふふ、私たち、きっと同じくらい頑張ったわよ!これから幸せをたくさん取り返しましょう?」

「ふぅえ~~ん、えまぁ~!」

「もう、美人が台無しじゃない、ぐすっ」

「っ、エマも泣いてる、じゃん」

「っつっ、だっ、だってローズが可愛いからあ」

「何それぇ、嬉しい~!」

「う、嬉しいねぇ~!」


そうして私たちは、そのまま暫くわんわん泣いた。

そんな私たちを、ジークはやれやれと肩を竦めていたけれど、ものすごくホッとしたような、とても嬉しそうな顔をして見ていた。
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