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3.聖女になりました
しおりを挟む聖女修行の3年間はあっという間に過ぎ、私は16歳になった。今日から私はグリーク魔法剣術学園の四年生に編入する。
「はあ…さすがにちょっと緊張するわあ。途中からって」
教会の本殿で与えられた部屋で、一人言る。
貴族のお屋敷のような優美さはないけれど、清潔できちんとした、充分な部屋だ。
聖女修行は、驚くくらい順調に過ぎた。
シスターの宣言通り、母は守ってもらえたし。
聖女なので、言葉使いとか姿勢とか、帝王学ならぬ聖女学?を学んだ。
あれよね、前世で言うところの、有名人になる前の勉強みたいな。スポーツで全日本に入ったりとか芸能人になったりとか、心構えを教わるやつ。もちろん前世で受けたことはないが。当たり前か。そんな感じだと勝手に想像する。グリーク学園に行くことになるので、マナーもだ。
聖女が使えるのは、もちろん光魔法。怪我や病気を治せる。全部、助けられるわけではないけれど。
この世界も魔物はいないので、そういった結界を張るとかはないが、害獣避けや悪意とかそういったものに対しての結界は張れる。もちろん、魔法避けとかも。
神官やシスターでも光魔法を使える人はいる。
聖女は最上級ね。そして、いるだけでも国が栄えるらしい。何かすごい。魔力量もかなりある。この3年でコントロールも学んだ。
ともかく、完璧な淑女の出来上がりですよ!
擬態とも言いますが!
それにしても聖女の編入…何かのフラグっぽいが…あえて気にせずに行こう。12歳の時の、初心を忘れず。
その時、部屋のドアがノックされた。
「はい」
「エマ、準備はどう?」
と、安定の笑顔の大神官様がひょっこりと顔を出す。私の指導係兼、父さん係。後者は恥ずかしいから秘密だ。丸顔の、かわいい熊さんのような大神官様。
今日は保護者として学園まで一緒に行ってくださる。
「はい、大丈夫です。本日はお付き添い、ありがとうございます、お願いします」
私は教わったカーテシーをする。
「うんうん、エマ、立派になりましたね。ここからいなくなるのは寂しいが…時々は顔を見せておくれ」
「はい」
泣き笑いのような大神官様の顔を見て、私までつられて泣きそうになる。
その時、廊下から忙しない足音が聞こえ、一人の若い神官が顔を出す。
「ハイハイ、大神官様!お気持ちは分かりますが、時間がありませんよ!今生の別れではないのですから、お早く!初日からエマを遅刻させたくないでしょう?」
「お、おう、ルース、分かっておる。行こうか、エマ」
大神官様の秘書のようなことをなさってるルース神官は時間に厳しい。紫の髪で瞳は綺麗な銀色で、シュッとした美形。お兄ちゃんのように可愛がってもらったけど、怒らせたらいかん人。大神官様もわたしも涙は引っ込み、はしたなくならないくらいの早足で廊下を進んで、本殿玄関正面で待ち構えていた教会の馬車に乗り込んだ。
「エマ、私も他の皆も、いつでも貴女の帰りを待っていますからね」
馬車の扉を閉めながら、ルース神官が声をかけてくれた。とびきりの乙女心キラーな笑顔を浮かべながら。
後光が見えます…。
乙女ゲームなら、攻略対象になりそう。ツンデレ枠かしら。
私が眩しさに目を細めている横で、
「おいしいところを持って行かれた…」
と不貞腐れる大神官さまの声は、聞かなかったことにして。私も負けじと笑顔ではい、と答えた。
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