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第四章 そして学園

挿入話 エレナ=グリッタ 1

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「ふん、ギリギリ合格か。グリッタ家の面目は保てたな」

うるさいうるさい。自分がたまたま青色魔力だからって。お兄様たちが、たまたま紺色に魔力だからって。

「まったく……女なぞ金がかかるばかりで意味がない。殿下の婚約者候補にも届かずか……いいか、せめて寄親のグローリア様が王太子になられるように侍れ!侍女くらいにはしてもらえ!」

魔力が足りない分、勉強はしているのよ。貴族らしく、淑女らしくとも努力している。ねぇ、なぜ上に届かないの?私はそんなに……

「なぜお前たちは、兄たちのようにできぬのかなあ」





父の言葉は、今でも鮮明に記憶に残る。
ああ、私はダメな子なんだと、植え付けられたもの。

私は確かにいろいろ足りなかった。弱かった。魔力量も、勉学も。……でも、本当に必要なは、そこではなかった。

あの頃は、悔しい、悲しい、情けない。いろいろな感情が駆け巡っていた。でも今は、そんな私があったからのだって、胸を張って言える。

「……グリッタ嬢の心根をウンディーネ殿が認めたのだな。過去のしがらみを乗り越えた君に、最大の敬意を。おめでとう。そして、これからは更に我が国のために尽力を願うが……よろしく頼む」
「はい。ありがたきお言葉、ありがとう存じます。愛し子に恥じぬよう、精進致します」

今日は、私がウンディーネ様の愛し子になったことを陛下に上申するために、登城している。
侯爵家としては下位だけど、陛下には何度かお目にかかることはあった。あったけど、まさか、自分がこんな報告をできるなんて、夢みたいだ。

そんな私を見守るように、今日は他の愛し子の皆と、精霊様も来てくれている。もちろん、殿下と聖女マリーア様も。きらきら、きらきらと眩しい空間で、自分がここにいる現実が信じられないくらいだ。---あんなに大きなやらかしをした、自分が。

彼らを妬み、淀んでいた自分。全てを周りのせいにしていた、恥ずかしい私。魔道具のせいだと言われても、そもそもは私の心の奥底にあったもの。それを増長させられたのだ。結局、自分だ。

「グリッタ侯爵も、よい娘を持てたな。共々にこれからも頼む」
「はっ!」

隣では、母が神妙な顔で、父が得意気な顔を隠せずに頭を下げている。正直、盛大にため息をつきたいけれど、陛下の御前だ。我慢我慢。
私が愛し子になったことを知った両親は、手放しで喜んだ。母はともかく、父が「お前のことを信じていた」とか語るの、どの口が言っているの。
あの事件の後、すぐに除籍するつもりだったのを知っているわ。判っている、当たり前のことだ。だけど、今思えば。私がそんなことになった理由も聞かず、自分も省みず。親としてはどうなのとも思う。うわべだけ、マリーア様たちに頭を下げて。自分は無関係アピールをして。

そんな父と私を見て、痛ましい顔をしながら除籍と退学を留まらせてくれたのは、サバンズ姉妹だ。もちろん、殿下方も赦してくれたからだけど、あの二人の進言がなければ、再び立ち上がれなかった。その後だって、必死な私を助けてくれたのは、母とデュオルだけだ。母はそれまで父の顔色ばかりを伺っていた自分を振り返ってくれて、寄り添おうと努力してくれた。
今日だって、できたら母とだけで、本心なら一人で来たかった。未成年って、不便よね。……守られる事が多いということも、理解しているけれど。

そうそう、あれから、デュオルも憑き物が落ちたように落ち着いている。追いつめられ方が私と似ていて、心配はしていた。まさか、アンクレットもあったなんて。本当に手にした経緯が思い出せないのがもどかしい。
デュオルももちろん、始めは急な展開に目を白黒させていたけれど、私の愛し子をかなり喜んでくれて。リリアンナ様にも真摯に頭を下げていた。あのお人好しで優しい彼女は、デュオルが無事で良かったと、笑顔で赦してくれた。本当にあの姉妹はどちらが聖女でもおかしくないと思う。

「さて、堅苦しい挨拶はここまでとして。精霊様たちも久方ぶりに揃われたらしい。この後、茶会を用意している。グリッタ侯爵、エレナ嬢をお借りしてもよろしいか?」
「もちろん!もちろんでございます!殿下におかれましては、ぜひ我が娘も婚約しゃ……」
「お父様。ここまでありがとうございました。わたくし、本日はウンディーネ様とサバンズ家でお世話になる予定ですので。ここで失礼致しますわ」

殿下の謁見の幕引きの言葉に、アホなことを言いかけた父に目を細めながら言葉を被せる。全く、本当に嫌になる。そもそも論として、私は王太子妃を望んだことなどないのだ。昔も今も、器ではない自覚をしている。

「エレナ!お前、」
「何かお気に召しませんか?でしたら、いつものように出ていけと言われても構いませんが」 

そう言われて、小さくなるしかなかった自分。今はそれでも何とかなると思える自分が誇らしい。最悪、学園を中退になっても、ウンディーネ様と諸国癒しの旅とかに出てもいいかもしれない。……あら、考えると、本気でいい気がするわ。

「そっ、そんなことを言うわけがないだろう!なっ、何を言っておるのだ!で、殿下方、よろしくお願いいたします」

お父様、カミカミですわ。なんて、引いた目で見られる日が来るなんて、考えたこともなかった。

そんなこんなで謁見は終了し、父は母を促すようにしてそそくさと帰って行った。やれやれ。



『……本当にあの親で、よくやっていたと思うわ、エレナ』
「ありがとうございます、ウンディーネ様」
『んもう!エレナも他の子みたいに早く気軽に打ち解けてよ~!』
「そうおっしゃられましても」

案内された王宮の庭園で、美しく整えられたお茶会。私まで妖精さんが見えるようになって、こんな可愛らしくお菓子を食べる様を見られて、現状認識にいっぱいいっぱいです。四大精霊様も揃っておられるのよ?

こんな尊い光景を見られたら、本当に父なんぞどうでもよくなりますわね。

「でも、エレナ様、本当に格好よかったです!」
「ええ。申し訳ないけれど、少し胸がスッとしたわ」

憧れ……今や目標となるような姉妹にそういわれると、恥ずかしいやら嬉しいやらで。
イデアーレ様もテンダー様も受け入れてくれて。

ああ、清い人たちとは、こうなんだろうな、と思う。

殿下が、リリアンナ様に惹かれるのも、とてもとても理解ができる。お茶会なんかができるのも久しぶりみたいで、本当に楽しくて、幸せそう。それも、いい、のだけれど。

殿下の為にと頑張っていた、貴族らしい淑女の見本の彼女が頭を過る。彼女なりに、殿下の隣に立てるように努力を惜しまずにいる。リリアンナ様とは、対極に位置するような人。

いろいろ、いろいろ分かる、つもりだけれど。

ずっと彼女を見ていた。そして、他にもいるはずだ。彼は殿下だ仕方ない。けれど。
王族を目指す努力と時間は、きっととても果てしない。彼女には、覚悟がある。リリアンナ様が王太子妃……そして王妃になったなら、それはそれできっと素敵だ。だけど。だからこそ。

「……殿下は、グローリア様をどう考えていらっしゃるのですか?」

こんな華やかな幸せな席で。

気づけばそんな言葉が口から出ていた。

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