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第四章 そして学園

57.自己紹介

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私は淑女の仮面を被りつつ、そっと空いている席へ座った。真ん中の列の、うしろから二番目。自己紹介は四隅の端から始まることが多いから、ちょっと様子も窺えるし。情報も大事、大事!小市民気質は簡単には抜けないわあ。

ひとクラスは20人程度。それがひと学年3クラスだけだから、この学園の厳しさが分かる。どうしても高位貴族が多くなる学園とはいえ、あくまで身分ではなく、まず魔力量だし。そして学力。

周りの様子を窺うと、ちらほらとグループが出来ているのが見える。ぼっちもちらほらいるわね、ほっ。

なんて思っていると、強めの視線を感じて、そちらを振り返る。そこには水色の髪色で紺色の目の男子生徒がいて、私と軽く視線が絡むとキッと睨んできて、すぐに視線を逸らされた。

(えええ?今、睨まれたよね?会ったことは……いや、ないぞ)

でもどこかで見たような、と、少し逡巡したものの思い当たる節がなく、気持ち悪いから何ならこっちから話しかけてみようかと思った所で、担任の先生が教室に入ってきた。

「はい、皆さん初めまして。担任のカロス=レクトールです。1年間よろしくお願いしますね。ちなみに担当科目は魔法実践で、得意な魔法は火魔法……かな」

濃い茶髪に黒目で眼鏡をかけた優しげなレクトール先生は、このカラフルな世界で前世もちの私がほっとするような風貌だ。一見地味だけど、魔法の実践を担当ってことは、魔法扱いがお上手なんだろう。

「じゃあ、さっそく自己紹介を始めてもらおうかな。名前と、自己アピールね。右端の一番前からよろしく」

出た、自己アピール!こういうさあ、ぼんやりした事言われるの嫌だよねぇ?嫌じゃない?
サクッと指名された子から立ち上がり、自己紹介が始まる。皆わりと堂々としているなあ、そうか、貴族って挨拶多いもんね?とか感心しながら耳を傾ける。大半の子は、先生が得意魔法を言ったのを真似して、無難に名前と得意魔法を話している。うむ、間違いないね。トントンと1/3くらいの子達が終わる。

「はい、ありがとう。次、お願いします」
「はい。ソーニャ=シュマールです。えっと、うち、わたくしの家は男爵家なので、何か粗相がありましたらご指摘ください!よろしくお願いいたします!得意魔法は水魔法です。あっ、聖女様に憧れています!」

ソーニャ様は上目遣いで窺うように私の方をチラチラ見てくる。私がにこっと笑顔を返すと、きゃあ、と、嬉しそうに頬に手を当てて、弾むように椅子に座った。あざとい。あざといが、かわいいと思う。ふわふわの栗色の髪に栗色の瞳。全体的にくりっとした印象で、庇護欲を掻き立てられる。

そうか、彼女が聞いていた数十年ぶりの男爵家からの入学者か。

……いや、何だかのゲーム要素とかはいってないよね?マリーアファンみたいだし、大丈夫だよね?
ううむ、と少し考えていたら、次はあの彼だった。

「デュオル=グリッタです。得意魔法は風魔法です。魔物討伐騎士団に入るのが目標です。……絶対に首席を奪い取ります」

彼の自己紹介に、おお……とクラスがざわつき、また私にまで視線が集まる。
そうか、エレナ様の弟さんか。似てるわあ。

……で。

なぜ睨むのよ~!なんならこっちが睨みたいくらいですけれど?恩を着せる訳じゃないけど、エレナ様が退学しないで済んだのは、マリーアの進言が大きいかったんだぞ?しかも彼女の将来を見据えて、学園と国の上層部で話を止めて、エレナ様のブレスレットの件は伏せてあるんだぞ?そう、彼女の1ヶ月の停学は、表向きには体調不良での休学となったのだ。
恨まれるような謂れはないはずだけど。

「おお、宣戦布告だね!結構、結構。はは、サバンズさん絡みが続いたから、順番飛ばすけど受けて立つサバンズさんからも決意をどうぞ!」
「え、ええ……?」

なぜそこで楽しそうに私に振るんだ、先生。
面倒臭いじゃないか。えー。
とは思うけど、皆見てるし、このまま止めてしまうのもあれだよなー。えー。
まあ、でも。

「リリアンナ=サバンズです。わたくしも首位をキープできるように頑張りたいと思っていますが、皆さんとも仲良くできたら嬉しいなとも思っています!気軽にお声をかけてくださいませ。どうぞよろしくお願いいたします」

にっこりと、余裕綽々にクラスの皆様にご挨拶よ!うわあ、デュオル君たら、舌打ちしそうな顔をしている。

挑発になんて、簡単に乗ってあげませんわよーだ。
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