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第三章 建国祭と学園と
54.目覚め
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近くにいた人々は、慌てて逃げ出す。今日は学園祭だから、小さい子たちもたくさんいる。頑張って逃げてほしい。
グローリア様は、グリッタ様の後ろでへたり込んでしまっていた。無理もないよね、魔獣なんて初めて見ただろうし、間近すぎるし。でも、このままじゃ危険だ。
「スザンヌ!イデアの侍女さんと、グローリア様を連れて逃げて!」
「しかし、お嬢様!」
「こっちはみんな何かしかの守護持ちだから!早く!」
私の指示に、迷いながらもスザンヌたちはグローリア様を抱き抱えるように支えて連れ出した。うん、一安心。
正直、私も怖いけどさあ!魔王とか魔獣とか、ファンタジー!とかってどこかで油断していたことを猛省中だよ!!でも、力をもらっているんだ。頑張らないと。膝はだいぶ大笑いしているけど、踏ん張るんだ。
私たちまで逃げたら、きっとグリッタ様も魔獣も追いかけてくる。被害を広げる訳にはいかない。私たちは誰からともなく五人で視線を合わせて頷き合った。
「あら……これは願いを叶えるブレスレットと聞いていたけれど……すごいわ、そう、そうね……邪魔者は消せばいいわよね……」
そして何だかグリッタ様が怖いことを言っとる!
魔獣と同じ様に赤い目を光らせての恍惚とした表情と、さっきまでの辿々しさが抜けた言葉が更に怖さを増している。そしてそのブレスレットからも禍々しい赤黒い光が発せられ、魔獣と繋がっていた。
「ふふっ、邪魔者は消えてちょうだい!」
「グワァッ!!」と、大きな口を開けて魔獣がこちらへ飛び込んで来……ようとしたところで、テンダーが氷の矢を出し魔獣を突き刺す。その矢は身体を貫き、魔獣は大きく後ろに仰け反ったが「グォォォ」と唸ってまた直ぐに飛び込んで来る。そして今度はフィスが炎の鎖を出し、魔獣を縛りつけた。肌の焼ける臭いが生々しい。
「マリー!あのブレスレットを浄化できないか?」
「!やってみるわ!」
フィスからの言葉に、マリーアが手をかざしグリッタ様と魔獣に対して浄化の光をまとわせる。光は二人を包み込み……一瞬だけ彼らの動きを止めたが、すぐに散開してしまい、マリーアは反動で後ろに飛ばされた。「姉さま!」とイデアと駆け寄ると、イデアが「軽い用しかないのだけれど」と、ポーションを出してくれた。その様子に、グリッタ様はさも愉しそうに嗤う。
「ふ、ふふふっ。やはり!中途半端な聖女の力なんてこんなものなのよ!そんな貴女がなぜ殿下の隣に?妹に血筋も魔力も劣っている貴女ごときが、なぜ……!」
グリッタ様の言葉と同時に、魔獣を縛りつけていたフィスの鎖が引きちぎられる。そして怒りに染まった顔で、フィスとテンダーに飛びかかった。二人はそれをギリギリ避けながら、魔法で応酬する。今はいつもの剣もないから、魔法のみでの戦いでやりづらそうだ。魔獣は二人の魔法を受けながらも、構わず突進していく。
そしてその様子を、満足そうに見るグリッタ様。
「悔しいでしょう?中途半端で妹に劣る自分!情けないでしょう?恥ずかしいでしょう?なのに……!」
ちょっと!さっきから聞き捨てならないんですけど!!グリッタ様!
「マリー姉さまを悪く言わないで!!」
「何……?」
「グリッタ様は私たちのなにを分かって言っているのですか?姉さまが私より劣っている?ふざけないで!!姉さまは私の最高の姉さまなんだから!!!」
「うるさい!うるさい!!そうだ、お前も邪魔者だ!殿下にあんな、顔を……お前!あの子を殺して!!」
グリッタ様の叫びと共に魔獣が身を翻し、私を目掛けて飛びかかってくる。ものすごい早さで、フィスもテンダーも反応できていない。私は咄嗟に眼前にシールドを張った……が、魔獣はそれを踏み台にするように飛んで、高い高い真上から私に急降下してくる。牙を携えた、大きな口を開いて。私は、えっ、と茫然としてしまい、目を見開くしかできない。身体が動かない。で、でも、私にはルシーの祝福もある。大丈夫、大丈夫、と頭の中だけはぐるぐる言葉が動く。でも怖いものは怖……っ、
「……るっさいわね!!リリーに何をしくさってんのよ!!!」
およそ聖女様とは思えぬ口調と、信じられないほどの早さと共に、マリーアが両手を広げて私の前に立ちはだかり、彼女の全身から白い光が放たれた。
「グ……!」
白い光が魔獣を包み込み、空中で動きを止める。
「中途半端でも何でもいいわ!!でも!リリーに手を出す奴は、誰でも許さないんだから!!!」
マリーアが右手を払うように振ると、さらに輝く光とその粒たちが魔獣を中心に校庭の隅々まで広がった。
魔獣の赤黒い気はすっと消え、気のせいだろうか、瞳の輝きも澄んできて顔の険も抜けて見えた。そして光に包まれたまま、身体が徐々に消えて無くなっていく。
グリッタ様のブレスレットも粉々に砕け散り、彼女は糸が切れた人形のように倒れ込んだ。
肩で息をするマリーアと、それを(いろんな意味で)呆然と見つめる私たち。
そして光の粒たちは消えずに留まり、マリーアの周りをくるくる囲って、人形になっていく。
「これは……」
『マリーア、マリー!ようやく会えた、光の愛し子!聖女が聖女が目覚めたよ!』
『わーい、わーい!マリー!真実の愛、だね!』
「真実の……、わたし、聖女……?」
『そうだよ、そうそう!待ってたよ!』
あれ、真実の愛、とは……。
『やれやれ。光の者は厳しいからなあ』
ルシーが何事もなかったようにさらりと現れる。
「ルシー!遅いけど!」
『はは、すまん。女神様からしばし手出し無用と言われてな』
「女神様……スパルタやん……」
『仕方ない部分もあってな。いよいよなら手出しするつもりであったが。リリーを守ろうとする心が真実の愛と認められたのだ。聖女はそれを発現せんと真に目覚めない』
ルシーが、目を細めてマリーアを見る。
『リリーを守ってくれて、ありがとう。わたしからも礼を言う』
「っ、いいえ!いいえ!リリーが無事で良かった」
「姉さま!ありがとう!」
私は、泣き笑いのマリーアの腕に飛び込んだ。マリーアはそっと抱きしめてくれる。大好きな、大好きなお姉ちゃんだ。みんなも無事で、本当に良かった。
私に真実の愛なんて、くすぐったくて嬉し……
「マリー、リリー!無事で良かった!」
いや、なんかごめんだな。フィスの笑顔に罪悪感を感じてしまうのは、やはり原作が過るからで。確かに今の二人は恋人同士でもなく、姉妹愛で真実なんて、嬉しかったりしちゃうのだけれど。
「フィス……なんかごめん」
「ん?何が?」
「あはは、何でもない」と濁してごまかしつつ、頑張った自分たちを労いあったのであった。
……私、あんまりなにもしてなかったけど……。
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