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第三章 建国祭と学園と
52.妹?妹。
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「ふわあ、あったかいし、サクふわでおいしい!」
「そう?嬉しいな。城のシェフにレシピを教わったんだ。簡単だけどおいしいやつ、って」
「なるほど、さすがの王城クオリティ……!素朴ながらも品がある」
「ふふ、今日もリリーは面白いね。イデアーレ嬢もどう?」
「とても!美味しいです!」
「良かった。たくさん食べてね」
あれから私たちは空いているベンチに座り、飲み物の出店でアイスハーブティーを購入して、揚げたてほかほか王子ドーナツをいただいている。うまし。
最初は緊張していたイデアも、フィスから(私的には)恥ずかしい話を聞き、甘いものも食べたしで、わりとすぐに解れているようだ。
私はすぐにマリーアたちのクラスに行くつもりだったのだけれど、「まだ交代まで時間があるよね?少し回ってから向かおうよ」と、フィスに言われ、それもそうかとそうすることにしたのだ。
マリーアたちにもドーナツを差し入れをしたいと話したら、後でヒンターたちが持っていってくれることになっているらしく、ありがたくイデアと二人で揚げたてをいただいている。最高。顔が緩む。美味しいは正義!
まだ周りはさわさわっとしている感じはあるけれど、徐々に流れてくる話と、ひたすらドーナツをはむはむしている妹分の二人を見て、微笑ましい雰囲気になってくれている。ほっ。
「幸せそうに食べてるリリー、かわいい。ドーナツ作って正解だったな」
「ぐふっ」
そんな中で、フィスの急なデレにむせる私。イデアが「リリー、大丈夫?」と、背中を擦ってくれた。
「き、急に何を……」
「だって、学園祭の準備で忙しくてなかなか会えなかったから。久しぶりにリリーの笑顔を見られるのが嬉しくて」
う……!イデアにも話したもんだから、すっかり通常モードだよ……!
「周りに聞かれたら……!」
「妹のいる兄なんて、こんなものじゃない?」
「そ、そうかなあ?」
「そうそう、大丈夫だよ。ね、イデアーレ嬢」
「……多少のシスコンが入っているお兄様と思えば、そうですね」
「ほら!」
「それ、あんまり大丈夫じゃなくない?」
一応突っ込んでみたものの、フィスには笑って流された。イデアは笑顔の沈黙を選んだらしい。
「まあまあ。よし、食べ終わったね?そろそろ行こうか!」
フィスが笑顔で立ち上がって、手を差し出す。
……まあいいか。自分といて楽しそうにしてくれるのは嬉しいし。正直、シスコン兄設定には憧れもあるし。ちょっと、ちょっとだけね!
「そうだね、どこから回る?」
フィスの手を取って、私も立ち上がる。もちろん、フィスはイデアのエスコートも忘れない。
その後小一時間ほど、謎解きに参加したり、魔道具研究会の展示を見たりして(研究会の皆さまの、イデアへの質問攻めがすごかった)、マリーアたちのクラスへと向かった。
到着すると、マリーアたちのクラスの喫茶店もなかなかの人気で、少し並んでから室内に案内される。
「みんな、いらっしゃいませ。ご注文は?」
私たちのテーブルに、マリーアがやって来た。学園には代々喫茶店を開く用の上品なメイド服が揃っているらしく、もちろんマリーアもそれを着ているわけだが。
「マリー姉さま!制服かわいい!とっても似合ってる」
「とっても素敵です」
「ありがとう、二人とも」
私とイデアの賛辞に、ふふっ、と微笑む正統派ヒロイン。そう、途轍もなく似合っている。正しく何かのフラグのように。この輝きを見ると、さすがだなと思う。周りのクラスメートの男子も、お客様の男性も、なんなら女性も、こっそり頷いているのが見える。やっぱり華が違うよね。
「ね、フィスも思うでしょ?」
「ん?そうだね。似合っている」
「ありがとうございます」
あ、あれ?この盛り上がりそうなイベントでも、二人は通常モードなのね。勇者と聖女様と気づいた周りが少し色めき立っているけれど、本人たちは至っての、アルカイックスマイル。
ちょっと怖いくらいなんですけど!
「リリーも似合うと思うな。入学したら、リリーも喫茶店やってよ」
「それはいいわね!絶対かわいいわ!」
「え、えぇ……?」
そしてなぜか私を褒める時だけ気が合う二人。嬉しいんだけどさ、こう、何と言いますか。むず痒いです。すごく楽しそうなんだもん。
あれこれ脱線しながらもサンドイッチとお茶をオーダーすると、何となく視線を感じた。周りの野次馬さんたちよりも、強く感じる視線。
「……グリッタ様?」
振り返ると、そこにグリッタ様がいた。睨み付けるようにこちらを見ている。なんだ、また文句?と思って様子を見に行こうとしたら、グローリア様に呼ばれたようで、そちらへ行ってしまった。
「リリー?どうかした?」
「ううん。この後はどこを回るのか、楽しみだなって」
イデアの問い掛けに、誤魔化して返事をする。
たまたまだろうか?
いろいろ、杞憂だといいのだけれど。
「そう?嬉しいな。城のシェフにレシピを教わったんだ。簡単だけどおいしいやつ、って」
「なるほど、さすがの王城クオリティ……!素朴ながらも品がある」
「ふふ、今日もリリーは面白いね。イデアーレ嬢もどう?」
「とても!美味しいです!」
「良かった。たくさん食べてね」
あれから私たちは空いているベンチに座り、飲み物の出店でアイスハーブティーを購入して、揚げたてほかほか王子ドーナツをいただいている。うまし。
最初は緊張していたイデアも、フィスから(私的には)恥ずかしい話を聞き、甘いものも食べたしで、わりとすぐに解れているようだ。
私はすぐにマリーアたちのクラスに行くつもりだったのだけれど、「まだ交代まで時間があるよね?少し回ってから向かおうよ」と、フィスに言われ、それもそうかとそうすることにしたのだ。
マリーアたちにもドーナツを差し入れをしたいと話したら、後でヒンターたちが持っていってくれることになっているらしく、ありがたくイデアと二人で揚げたてをいただいている。最高。顔が緩む。美味しいは正義!
まだ周りはさわさわっとしている感じはあるけれど、徐々に流れてくる話と、ひたすらドーナツをはむはむしている妹分の二人を見て、微笑ましい雰囲気になってくれている。ほっ。
「幸せそうに食べてるリリー、かわいい。ドーナツ作って正解だったな」
「ぐふっ」
そんな中で、フィスの急なデレにむせる私。イデアが「リリー、大丈夫?」と、背中を擦ってくれた。
「き、急に何を……」
「だって、学園祭の準備で忙しくてなかなか会えなかったから。久しぶりにリリーの笑顔を見られるのが嬉しくて」
う……!イデアにも話したもんだから、すっかり通常モードだよ……!
「周りに聞かれたら……!」
「妹のいる兄なんて、こんなものじゃない?」
「そ、そうかなあ?」
「そうそう、大丈夫だよ。ね、イデアーレ嬢」
「……多少のシスコンが入っているお兄様と思えば、そうですね」
「ほら!」
「それ、あんまり大丈夫じゃなくない?」
一応突っ込んでみたものの、フィスには笑って流された。イデアは笑顔の沈黙を選んだらしい。
「まあまあ。よし、食べ終わったね?そろそろ行こうか!」
フィスが笑顔で立ち上がって、手を差し出す。
……まあいいか。自分といて楽しそうにしてくれるのは嬉しいし。正直、シスコン兄設定には憧れもあるし。ちょっと、ちょっとだけね!
「そうだね、どこから回る?」
フィスの手を取って、私も立ち上がる。もちろん、フィスはイデアのエスコートも忘れない。
その後小一時間ほど、謎解きに参加したり、魔道具研究会の展示を見たりして(研究会の皆さまの、イデアへの質問攻めがすごかった)、マリーアたちのクラスへと向かった。
到着すると、マリーアたちのクラスの喫茶店もなかなかの人気で、少し並んでから室内に案内される。
「みんな、いらっしゃいませ。ご注文は?」
私たちのテーブルに、マリーアがやって来た。学園には代々喫茶店を開く用の上品なメイド服が揃っているらしく、もちろんマリーアもそれを着ているわけだが。
「マリー姉さま!制服かわいい!とっても似合ってる」
「とっても素敵です」
「ありがとう、二人とも」
私とイデアの賛辞に、ふふっ、と微笑む正統派ヒロイン。そう、途轍もなく似合っている。正しく何かのフラグのように。この輝きを見ると、さすがだなと思う。周りのクラスメートの男子も、お客様の男性も、なんなら女性も、こっそり頷いているのが見える。やっぱり華が違うよね。
「ね、フィスも思うでしょ?」
「ん?そうだね。似合っている」
「ありがとうございます」
あ、あれ?この盛り上がりそうなイベントでも、二人は通常モードなのね。勇者と聖女様と気づいた周りが少し色めき立っているけれど、本人たちは至っての、アルカイックスマイル。
ちょっと怖いくらいなんですけど!
「リリーも似合うと思うな。入学したら、リリーも喫茶店やってよ」
「それはいいわね!絶対かわいいわ!」
「え、えぇ……?」
そしてなぜか私を褒める時だけ気が合う二人。嬉しいんだけどさ、こう、何と言いますか。むず痒いです。すごく楽しそうなんだもん。
あれこれ脱線しながらもサンドイッチとお茶をオーダーすると、何となく視線を感じた。周りの野次馬さんたちよりも、強く感じる視線。
「……グリッタ様?」
振り返ると、そこにグリッタ様がいた。睨み付けるようにこちらを見ている。なんだ、また文句?と思って様子を見に行こうとしたら、グローリア様に呼ばれたようで、そちらへ行ってしまった。
「リリー?どうかした?」
「ううん。この後はどこを回るのか、楽しみだなって」
イデアの問い掛けに、誤魔化して返事をする。
たまたまだろうか?
いろいろ、杞憂だといいのだけれど。
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