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第三章 建国祭と学園と
挿入話 テンダー=セラータ 1
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「どうやって殿下や……陛下に説明しようかって悩んだのに、何だか楽しい一日になっちゃったな」
『良かったではないか』
「うん。でも不思議な感じだ」
何色にも輝く、スノーフレークのキーホルダーを眺めながら、セラータ家のタウンハウスでどこか呆然と呟く。今日は本当に想像していない一日になった。嬉しい意味で。
テンダー=セラータ、もうすぐ13歳。辺境伯家の次男。
当たり前だが、いつもは国境沿いの領地で、これまた当たり前のように魔物が発生しやすい森を管理しながらの生活をしている。
今日は建国祭の見学と、親がその夜会への出席と……何よりサラマンダーの報告をするために、王都まで親に同行してきた。辺境は、兄と辺境騎士団が留守を守ってくれている。
『辺境伯も安心したのではないか?』
うんうんと、どこか他人事のように話す、目の前の精霊。
「そうだけど、そもそもサラマンダーが……」
『テンダー。我のことはサラと呼べ』
街での呼び合いが、相当気に入ったらしい。
◇
サラマンダー、もとい、サラか。サラとの出会いは突然だった。いつものように家で鍛練をしていたら、突然目の前に現れたのだ。光を纏ったような美しい炎が舞ったと思ったら、それが見たこともないような綺麗な人になって、かなり驚いた。それがおよそ1ヶ月前。王家が殿下たちの発表をしてすぐの頃だ。
俺は刮目しながらも、もう精霊の愛し子の祝福の乙女がいるでしょう、と、たどたどしく言ったのだが、『面倒だと思っていたが、そのシルフを見ていたら我も欲しくなった』と、かなり適当に聞こえる理由を言われて脱力した。
『まあ、我の事情はよしとして、何かがあるようならば力があるものが多い方が良かろう?……そしてそれは、誰でもという訳にはいかぬ』
「それは、そうですが。お、わたし、などではとても」
『いや、お主が良い。お主は力の怖さをしかと認識しておる』
「わたしより、兄の方がよほど……」
『テンダー。我が選んだのはお主じゃ。波長とでも言えば良いのか……これも、不思議と誰とでも繋がれるものでもなくてな……ああ、この感じは懐かしくもあってな……何十年振りに降りてきた甲斐があろうと言うもの』
中性的で優美な微笑みでそんなことを言われると、さすがにグラッと気持ちは揺れたが、それでも、首を縦に振ることは出来ずにいて。
兄のこととか、家のこととか、色々理由を挙げ連ねたけど、結局は自信がなかったんだ、自分に。
なんて、俺がグズグズしていることに痺れを切らせたサラが父に勝手に会いに行き、大概の事には驚かない父が言葉も出ないくらいに驚きながらも、祝福を受けるかはともかく、陛下に報告をしないわけにはいかないと、俺も王都に連れて来られた訳だ。
◇
「……サラが、諦めてくれなかったからだろ」
『当たり前じゃ。リリアンナもじゃが、お主らのように純粋な魂はなかなかおらぬからの。我もまさか見つかるとは思わなんだ。たまにはこっちにも来てみるものじゃな~』
「……前から言ってるけど。俺はそんなに純粋じゃないよ」
『ふふっ、そうかそうか』
このやり取りも何度したことか。その度に流されて、今に至る。
ちなみに、最初の頃は、俺もサラに対して最敬礼状態で話していたのだ。それが、奴のあまりの諦めの悪さと自由奔放ぶりに振り回されていたある日に、地を出してしまった。しまったと思いつつもこれで嫌われたかと少しほっとしたのも束の間、全く意に介されずむしろ楽しまれて更に纏わりつかれる結果になった。
「殿下、フィスはシルフ……ルシーに丁寧に対応していたよな、俺もそうするべきか……?」
『何を今更。あれもちょいちょい出てただろうが』
「ああ、まあ確かに……」
と、振り返り、思い出してクスリとしてしまう。
「リリアンナ嬢……リリーはかなりあの二人に好かれているようだったね」
『そうだのぅ』
サラも一緒に笑い出す。
フィスとルシーは、リリーを巡ってあれこれとずっとやりあっていた。そしてそれをマリーが冷たくあしらうという、喜劇の舞台を見ているようだった。
そしてみんなで記念にお揃いで何か買おう!となった時も二人が自分を主張してきて(きっと無意識だと思う)、マリーに却下されていた。ヒンターとマークも、女性と共に持てるもの、となると、難しいなとぼやいていた。
そんな中、満場一致で選ばれたのが、今手に持つキーホルダーだ。
クリスタルの、スノーフレークモチーフのキーホルダー。クリスタルカラーは、基本のクリアとグリーン、レッド、ブルー、イエローにピンクにと、カラフルだ。
クリスタルだとそれぞれの色が主張し過ぎず、調和が取れていて繊細な美しさがある。「素敵!私たちみたいじゃない?」という、リリーの一言で、皆で即決して購入した。
「リリーはすごいよな……」
キーホルダーをそっと光にかざす。今日の1日の出来事のようにキラキラしている。
『そもそも選んだのはお主だかな』
「……まあ……」
そう、俺はそこそこガタイもいいし、辺境伯次男だし、剣技も得意だが……実は可愛いもの、綺麗なものも大好きだったりする。似合わなくても、好きなのだ。自分がドレスを着てみたいとか、そういう願望はない。ただ、見ているのは好きだ。
恥ずかしくて、誰にも言えないけれど。
サラには速攻バレたけど。
『あの姉妹も楽しそうだったではないか』
サラが微笑ましそうに、目を細める。「そうだといいけど」と、照れ隠しにそっけなく応えてしまう。
あの、みんなであれこれやっていた時。
ふと、ひとつの露店が目に入った。クリスタルを中心にキラキラした小物を扱っていたから、無意識に目が行ったのだと思う。
正直、迷った。引かれるかな、と。でも、このままだといつまでも決まらないし。今日は女の子も一緒だし、言い訳もたつ。そして何より、自分が見たかった。「あの店なんて、どうかな?」と、思い切って言ってみると、俺の心配を余所に、リリーとマリーがものすごく食い付いた。
「「テンダー、素敵!」」
と、ハモられ、二人に腕を引っ張られる形で露店に向かう。怖かったので、フィスとルシーには気づかないふりをした。
露店は、可愛い綺麗に溢れていた。つい、食い入るように見てしまう。あ、あの鈴蘭モチーフの髪飾り、繊細でいいな。母上に似合いそうだ。あの薔薇のモチーフもいい。気づくとあれこれ手にして、真剣に見てしまっていた。
「テンダー、アクセサリーとか好きなの?楽しそうね!」
リリーの声で、我に返る。どうしよう、言い訳しようか。でも楽しそうなのはバレてるし。引かれたら……そこまでだよな。せっかく友だちになったけど。フィスたちにも変な目で見られるかな。
「う、ん……図体でかくて、似合わないだろうけど。キラキラしたものとか、好きで……よく、母上たちに選んだりとか……」
「ええっ、すごい!私も選んで欲しい!」
「リリーずるいわ!私も選んで欲しいわ、テンダー!」
俯きがちに応えると、姉妹に食い気味に言われて驚く。
「あ、俺、似合わなく、ない?」
「何で?むしろギャップ萌えよ!」
「ぎゃ…?もえ?」
「ねー!それにさっきから手に取っているもの、全部センスが良くて素敵だもの!」
両手に花状態で想定外に誉められ、嬉しいやら困惑するやら、後ろからの冷気が怖いやらで少しテンパる。
その時目に入ったのが、このキーホルダーだ。今の自分の気持ちを表しているようで、一目で気に入った。みんなが嫌だと言ったら、自分だけでも買おう。今日の幸せ記念だ。そして提案してみると、先ほどのリリーのセリフにみんなも喜んでくれて、お揃いで購入した、と。
姉妹には更にねだられ、それぞれ二人に似合う髪飾りを選んだ。
「マリーとリリーに喜ばれて嬉しかったけど。フィスたちに引かれなかったのももっと嬉しかったな。ちょっと怖かったけど……」
『お主に負けぬようにおしゃれを勉強するそうだし、いいことをしたのではないか?』
「えー?そう?」
なんて言いながらも、気持ちは結構浮かれている。
仲良くなった人たちが自分を受け入れてくれるって、こんなに嬉しくなるんだな。
「学園に行くのが楽しみになってきたよ」
『……そうか』
サラが優しく頭を撫でてきた。もう子どもじゃないぞと思いながらも、くすぐったくて抵抗できない。
「テンダーは優しいのね!」
なんて、ありきたりのような褒め言葉だったのに。なぜかリリーの笑顔を思い出して。
実は編み物も得意だと、いつ話そうかとなんて考えながら、王都での夜は更けていった。
『良かったではないか』
「うん。でも不思議な感じだ」
何色にも輝く、スノーフレークのキーホルダーを眺めながら、セラータ家のタウンハウスでどこか呆然と呟く。今日は本当に想像していない一日になった。嬉しい意味で。
テンダー=セラータ、もうすぐ13歳。辺境伯家の次男。
当たり前だが、いつもは国境沿いの領地で、これまた当たり前のように魔物が発生しやすい森を管理しながらの生活をしている。
今日は建国祭の見学と、親がその夜会への出席と……何よりサラマンダーの報告をするために、王都まで親に同行してきた。辺境は、兄と辺境騎士団が留守を守ってくれている。
『辺境伯も安心したのではないか?』
うんうんと、どこか他人事のように話す、目の前の精霊。
「そうだけど、そもそもサラマンダーが……」
『テンダー。我のことはサラと呼べ』
街での呼び合いが、相当気に入ったらしい。
◇
サラマンダー、もとい、サラか。サラとの出会いは突然だった。いつものように家で鍛練をしていたら、突然目の前に現れたのだ。光を纏ったような美しい炎が舞ったと思ったら、それが見たこともないような綺麗な人になって、かなり驚いた。それがおよそ1ヶ月前。王家が殿下たちの発表をしてすぐの頃だ。
俺は刮目しながらも、もう精霊の愛し子の祝福の乙女がいるでしょう、と、たどたどしく言ったのだが、『面倒だと思っていたが、そのシルフを見ていたら我も欲しくなった』と、かなり適当に聞こえる理由を言われて脱力した。
『まあ、我の事情はよしとして、何かがあるようならば力があるものが多い方が良かろう?……そしてそれは、誰でもという訳にはいかぬ』
「それは、そうですが。お、わたし、などではとても」
『いや、お主が良い。お主は力の怖さをしかと認識しておる』
「わたしより、兄の方がよほど……」
『テンダー。我が選んだのはお主じゃ。波長とでも言えば良いのか……これも、不思議と誰とでも繋がれるものでもなくてな……ああ、この感じは懐かしくもあってな……何十年振りに降りてきた甲斐があろうと言うもの』
中性的で優美な微笑みでそんなことを言われると、さすがにグラッと気持ちは揺れたが、それでも、首を縦に振ることは出来ずにいて。
兄のこととか、家のこととか、色々理由を挙げ連ねたけど、結局は自信がなかったんだ、自分に。
なんて、俺がグズグズしていることに痺れを切らせたサラが父に勝手に会いに行き、大概の事には驚かない父が言葉も出ないくらいに驚きながらも、祝福を受けるかはともかく、陛下に報告をしないわけにはいかないと、俺も王都に連れて来られた訳だ。
◇
「……サラが、諦めてくれなかったからだろ」
『当たり前じゃ。リリアンナもじゃが、お主らのように純粋な魂はなかなかおらぬからの。我もまさか見つかるとは思わなんだ。たまにはこっちにも来てみるものじゃな~』
「……前から言ってるけど。俺はそんなに純粋じゃないよ」
『ふふっ、そうかそうか』
このやり取りも何度したことか。その度に流されて、今に至る。
ちなみに、最初の頃は、俺もサラに対して最敬礼状態で話していたのだ。それが、奴のあまりの諦めの悪さと自由奔放ぶりに振り回されていたある日に、地を出してしまった。しまったと思いつつもこれで嫌われたかと少しほっとしたのも束の間、全く意に介されずむしろ楽しまれて更に纏わりつかれる結果になった。
「殿下、フィスはシルフ……ルシーに丁寧に対応していたよな、俺もそうするべきか……?」
『何を今更。あれもちょいちょい出てただろうが』
「ああ、まあ確かに……」
と、振り返り、思い出してクスリとしてしまう。
「リリアンナ嬢……リリーはかなりあの二人に好かれているようだったね」
『そうだのぅ』
サラも一緒に笑い出す。
フィスとルシーは、リリーを巡ってあれこれとずっとやりあっていた。そしてそれをマリーが冷たくあしらうという、喜劇の舞台を見ているようだった。
そしてみんなで記念にお揃いで何か買おう!となった時も二人が自分を主張してきて(きっと無意識だと思う)、マリーに却下されていた。ヒンターとマークも、女性と共に持てるもの、となると、難しいなとぼやいていた。
そんな中、満場一致で選ばれたのが、今手に持つキーホルダーだ。
クリスタルの、スノーフレークモチーフのキーホルダー。クリスタルカラーは、基本のクリアとグリーン、レッド、ブルー、イエローにピンクにと、カラフルだ。
クリスタルだとそれぞれの色が主張し過ぎず、調和が取れていて繊細な美しさがある。「素敵!私たちみたいじゃない?」という、リリーの一言で、皆で即決して購入した。
「リリーはすごいよな……」
キーホルダーをそっと光にかざす。今日の1日の出来事のようにキラキラしている。
『そもそも選んだのはお主だかな』
「……まあ……」
そう、俺はそこそこガタイもいいし、辺境伯次男だし、剣技も得意だが……実は可愛いもの、綺麗なものも大好きだったりする。似合わなくても、好きなのだ。自分がドレスを着てみたいとか、そういう願望はない。ただ、見ているのは好きだ。
恥ずかしくて、誰にも言えないけれど。
サラには速攻バレたけど。
『あの姉妹も楽しそうだったではないか』
サラが微笑ましそうに、目を細める。「そうだといいけど」と、照れ隠しにそっけなく応えてしまう。
あの、みんなであれこれやっていた時。
ふと、ひとつの露店が目に入った。クリスタルを中心にキラキラした小物を扱っていたから、無意識に目が行ったのだと思う。
正直、迷った。引かれるかな、と。でも、このままだといつまでも決まらないし。今日は女の子も一緒だし、言い訳もたつ。そして何より、自分が見たかった。「あの店なんて、どうかな?」と、思い切って言ってみると、俺の心配を余所に、リリーとマリーがものすごく食い付いた。
「「テンダー、素敵!」」
と、ハモられ、二人に腕を引っ張られる形で露店に向かう。怖かったので、フィスとルシーには気づかないふりをした。
露店は、可愛い綺麗に溢れていた。つい、食い入るように見てしまう。あ、あの鈴蘭モチーフの髪飾り、繊細でいいな。母上に似合いそうだ。あの薔薇のモチーフもいい。気づくとあれこれ手にして、真剣に見てしまっていた。
「テンダー、アクセサリーとか好きなの?楽しそうね!」
リリーの声で、我に返る。どうしよう、言い訳しようか。でも楽しそうなのはバレてるし。引かれたら……そこまでだよな。せっかく友だちになったけど。フィスたちにも変な目で見られるかな。
「う、ん……図体でかくて、似合わないだろうけど。キラキラしたものとか、好きで……よく、母上たちに選んだりとか……」
「ええっ、すごい!私も選んで欲しい!」
「リリーずるいわ!私も選んで欲しいわ、テンダー!」
俯きがちに応えると、姉妹に食い気味に言われて驚く。
「あ、俺、似合わなく、ない?」
「何で?むしろギャップ萌えよ!」
「ぎゃ…?もえ?」
「ねー!それにさっきから手に取っているもの、全部センスが良くて素敵だもの!」
両手に花状態で想定外に誉められ、嬉しいやら困惑するやら、後ろからの冷気が怖いやらで少しテンパる。
その時目に入ったのが、このキーホルダーだ。今の自分の気持ちを表しているようで、一目で気に入った。みんなが嫌だと言ったら、自分だけでも買おう。今日の幸せ記念だ。そして提案してみると、先ほどのリリーのセリフにみんなも喜んでくれて、お揃いで購入した、と。
姉妹には更にねだられ、それぞれ二人に似合う髪飾りを選んだ。
「マリーとリリーに喜ばれて嬉しかったけど。フィスたちに引かれなかったのももっと嬉しかったな。ちょっと怖かったけど……」
『お主に負けぬようにおしゃれを勉強するそうだし、いいことをしたのではないか?』
「えー?そう?」
なんて言いながらも、気持ちは結構浮かれている。
仲良くなった人たちが自分を受け入れてくれるって、こんなに嬉しくなるんだな。
「学園に行くのが楽しみになってきたよ」
『……そうか』
サラが優しく頭を撫でてきた。もう子どもじゃないぞと思いながらも、くすぐったくて抵抗できない。
「テンダーは優しいのね!」
なんて、ありきたりのような褒め言葉だったのに。なぜかリリーの笑顔を思い出して。
実は編み物も得意だと、いつ話そうかとなんて考えながら、王都での夜は更けていった。
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