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第三章 建国祭と学園と

挿入話 マリーア=サバンズ 3

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今日も楽しかった。

フィスが一緒なのは少し気に入らないけれど。まあ、最近の頑張りは認めてやらなくもないわ。シルフ様…ルシーアもいるしね。ヒンターもマークも頼りになるし、新しい友人もできた。

テンダー=セラータ。サラマンダー様の加護を受けた人
(ちなみに、街ではサラマンダー様は単純にサラと呼ぶことにしていた。意外と本人も気に入った様子)。精霊に気に入られるだけあって、澄んだ空気を纏った人だった。

私の可愛い可愛い×100の、リリーもとっても凄いけど、姉としては同等に近い力の仲間が増えることは安心だ。

街も明るい雰囲気に包まれていたし、隣人への関心も信仰も深まって来ているし、魔王の心配もない気さえしちゃうけど。力のある仲間が集まってくれる分には……



---本当に?

えっ?何?

---本当に心配ないと思っているの?あんなに心配してたのに?

あんなに?
もちろん、警戒を0にする訳じゃないわ。でも、明るい方向へ向かっているとは思う。違う?

---自分はまだ聖女の力が完璧ではないのに?

っ!それは、いずれ……!

---守れるの?愛する人を。間に合うの?

間に合わせるわ!だって、あの人は……違う、あの子は……何があっても大事な…………わたしの、




「わたし、の……あ、れ、何だっけ……?」

ぼんやりと目を開けると、見慣れた天井が見える。

「変な、夢……?途中まで楽しかったような気がするんだけど……思い出せないな。夢なんてそんなもんだけど。今は何時だろ?」

時計を見ると、朝の五時半だった。かなり早い時間だけど、起きてしまおう。ベッドから降りて、カーテンを自分で開け、水差しの水を飲む。うん、今日も晴れそうだ。昨日は久しぶりの街歩きで疲れて早寝をしたから、体もすっきりだ。何だか夢のモヤモヤがあるけど。

「あれ?前にもあったような……?んー?!ダメだな、気のせいかな。記憶力は悪くないはずなんだけど」

思い出そうとすればするほど、記憶が遠退く感じだ。

「細かい事は、後で考えよう!って、私もリリーに似てきたかしら。ふふっ」

昨日はたくさん遊んだし、今日はいつもの勉強だ。学園の入学式も迫って来ているし、頑張らないと。

「ティータイムにはリリーとお茶もできるし、幸せよね。ここから学園にも通えるし。前は早くここを出たくて仕方なかったけど……って、え?」

私は今、何を言ったの?
---早く、この家を出たいって?

「いやいやいや、ないないない」

まだ部屋に誰もいないのに、一人で言い訳をするように首を振る。
きっとあれだ、何だか分からない、変な夢に引き摺られただけだ。

「そうよ、それだけよ。私はリリーを守るのよ!ずっと傍にいるんだから」

あの日誓った決意に、曇りなんてないのだから。

---でも、リリーが、家族が、それを望んでいなかったら?---

ぶるっ。
自分で変なことを考えて、勝手に怯える。
そんなことは、あるはずがないのに。みんないつも優しくて、温かくて。私のことも大好きって。ちょっとでも疑うなんて、どうかしている。

「違う、疑ってなんてない!」

どうしてだろう、自分でどんどんと暗い方に堕ちていく感覚。違う、そんなこと思ってない。

「マリーアお嬢様?起きていますか?」

ノックの音とアイリの声に、ハッと我に返る。私は今、本当に何を考えていたの?

「ええ、起きてるわ」
「失礼します」
「マリー姉さま!おはようございます!また来ちゃった!」

私の返事にそっとドアを開けた侍女より先に、かわいい天使が飛び込んできた。

「おはよう!リリーも早いのね?」
「エヘヘ~!昨日は疲れて早く寝ちゃったでしょ?早起きしちゃって。そうしたら無性にマリー姉さまの顔を見たくなっちゃったの!」
「~~~!!!」

ちょっと奥さん、見ました?!
この、世界一愛らしいリリーの照れ笑い!へにゃっ、へにゃって!!
本当に何よこのかわいい生き物は?存在するだけで尊い!控え目に言っても神々しい!背中に後光が見えるわ!!

「ね、姉さま、ちょっと苦し」
「あっ、ごめん!リリーがあんまり可愛くて!」

しまったわ、心のままにきつく抱きしめてしまったわ。私は慌てて手を緩める。

「ぷはっ、でもうれしいから大丈夫だよ!」
「~~~~!!!!」

そして更にぎゅっとした。いや、これはリリーが悪い。
この笑顔に抗える理性はなかなかないだろう。

「そう考えると、やっぱりフィスはまたまだ要注意よね……。ルシーアもちょっと……」
「ね、姉さま?何?」
「ふふっ、何でもないわ。リリーの愛らしさを再確認しただけよ?」
「もう、姉バカだなあ。リリー姉さんの方がずーっっっと美人で可愛いよぉ!」
「はいはい、ありがとう、リリー」
「ちょっと?!本当の話だからね?ねっ?そうよね、アイリ!」

私たちがわちゃわちゃしている間に、今日着る予定のドレスを並べていたアイリが手を止める。

「わたくしどもから言わせたら、お二人とも天上に輝く眩しい双子星ですわ、リリアンナお嬢様。ずっと一緒のお二人のその輝きを見守るのが、わたくしどもの贅沢な楽しみです」

そして、とてもいい笑顔で言われた。
……双子星か。そう、あれたら。

「わあ!アイリも身内バカだ~!でも、双子星ってあれよね?ずっと一緒に輝いている星よね。素敵!確かにずっと一緒のわたしたちみたいですね?姉さま!」
「リリー、本当?本当にずっと一緒の双子星みたいって思ってくれてる?」
「えっ、姉さまは思ってないの?!」
「やっ、もちろん!思って!思ってるわ!!」
「良かった~!嫌なのかと思ったよぉ、心配させないでよ~」
「ごめんごめん。リリーも心配するんだ?」
「当たり前でしょー。姉さんに嫌われたくないもーん」

そうか。リリーも心配するんだ。嫌われたくないって、考えたりするんだ。そうか……。

「えっ、姉さま?どうしたの?どこか痛いの?」
「お嬢様?お具合が?」
「え……」

二人が急に慌て出す。何かと思って自分の顔を触ると、手が涙で濡れた。気づかず泣いていたらしい。
これはきっと、

「ふふっ、ごめんなさい。なんだか急に嬉しくなっちゃって」

不思議な鬱々感が晴れていく、安心した涙だ。

「ありがとう、リリー。大好きよ」

「わたしも大好き!」と、弾ける笑顔を返してくれる、愛しい愛しい妹。どうして一瞬でも不安になったのだろう。今はそれが信じられない。



その後、着替えて二人で食堂に行って。

いつもの笑顔でお父様とお母様に迎えられて。

幸せな、いつもの朝の風景に包まれて。

朝のモヤモヤは、いつの間にかすっかり消えてなくなっていた。
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