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第三章 建国祭と学園と

31.それからの日常

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ファーブル王国。愛と豊潤の女神フローラの、光の加護を受ける国。

最近では、光の加護を受ける聖女候補と勇者候補の存在が公表され、女神信仰がますます盛んだ。

そして、数十年以上の時を経て、妖精の祝福と精霊の加護を受けた少女の存在もあり、暫く疎遠であった隣人である彼らとの距離も縮まって来ている。

「平和だわ……」

あの、シルフ様たちとの初めての会合から約一ヶ月。
私、リリアンナは読んでいた新聞をそっと畳んで呟いた。

「はい、ありがたいことですね」

侍女のスザンヌが、お茶を淹れながら相槌をうつ。
人に淹れてもらうお茶って最高。今日も今日とてお嬢様生活ありがとう。

「新聞は建国祭の特集ですか?」
「そう!来年が建国1500年の節目だから、歴史を振り返って、来年にも繋げたい感じね」
「なるほど。それにしても、お嬢様方はこれでますます有名人ですね!わたくしたちも、鼻が高うこざいます」
「あ、ははは……そう?今、これといってやることはないんだけどね~」
「いえ!もう、存在が!素晴らしいので!!」
「ありがとう」

スザンヌの、ふんす!と言わんばかりの力説に、苦笑で返す。

そう、結局あれからちょこちょこ姿を現すシルフ様によると、魔王が復活するにしても今すぐの話ではないらしく。早くて数年、かかれば十数年……うまく封印の強化ができれば、かなりの期間で大丈夫らしい。
私たちの最初の慌てっぷりに首を傾げた訳だわ。

でも、あのままだと早まった可能性もある訳で。精霊さんの登場のタイミング的には必要だったのだろう。始めに言ってよ、とは思ったけど。

陛下は、魔法の力と女神、精霊への感謝を改めて思い出せるよう、建国祭に合わせて私たちのことを公表することに決めた。魔王復活については、国民の不安を煽ってしまいかねないのと、利用する輩が出ても困るので、とりあえず非公開だ。ただ、封印の存在は改めて触れた。皆で守りましょう、的に。妥当かな、とは思う。

でも、封印が解ける解けないって、結構不安要素だけどねぇ、改めて考えると。みんなの信仰やら清い心やらで封印が強化されるなら、本当に有り難いけどさ。やっつけちゃった方がスッキリしないか?……いやまあでも、わざわざ危険な戦いをしたい訳じゃないけど……。こう、身近で聞いてしまうと、どうにも落ち着かないというか。

悶々と思考の渦に入りかけた頃、ドアがノックされ、セバスチャンが入って来た。

「リリアンナお嬢様。王太子殿下からお手紙でございます」
「……ありがとう」

恭しく差し出された手紙を受け取る。

「まあ!本当に殿下はマメでいらっしゃいますね!今度はどのようなお誘いなのでしょう」
「これ、スザンヌ。無粋ですよ」

セバスチャンがスザンヌを軽く諌めるが、本気でないのが分かる。スザンヌも、申し訳ありませんなんて言っていても、テヘぺろ感が否めない。

そう、あれから殿下、本当にマメなのだ。やれ妖精さんの楽しい話が聞けたとか、珍しいお菓子が手に入ったとか庭園に新しい花がはいったとか。お茶会に誘われたり、手紙で報告だったりと、なかなかの行動派。
まだ学園も始まっていないし、多少は時間もあるのかも知れないけれど、ちょっと想定以上で……。使用人のみんなにも温かく見守られてしまっているという、何ともむず痒い状況なのだ。

「して、お嬢様、殿下は何と?」
「……建国祭にお忍びで街歩きをしようってお誘い」
「まあまあ!いいではないですか。これからだんだんと皆様お忙しくなられますし、今のうちに楽しまれるといいですよ!」
『そうだぞ、楽しい心は大事だ。我らの力にもなるしな』
「わ!シルフ様!また急に来て」
『リリアンナの驚く顔が見たくてな。……今日もかわいいな』
「また、そういう……!」

私の反論なんぞはさらっと流し、シルフ様は甘やかな笑顔を湛えたまま、バックハグ状態からひょいと手紙を取り上げる。
そしてシルフ様の急な登場に慣れたスザンヌとセバスチャンは、ささっと彼の分のお茶も並べる。私に近しい人たちには、シルフ様が見えるらしい。

『ほう。お忍びか。面白そうであるな。わたしも共に行こう』
「はい?!」
『建国祭だろう?我らにも関わりのある祭りだ』
「……それは、確かに」

ただちょっと、面倒事な予感がする。そしてシルフ様も結構な頻度で遊びに来るけど、暇か?暇なのか?

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