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第二章 夢と魔法の国

挿入話 サーフィス=オルランド 1

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大筋は全く変わりませんが、前話までで少し改稿した所があります。お時間がございましたら、ご確認ください。

─────────────────────────


「やらかした…………」 


茶会が終わった夕刻。


今年から少しずつ王太子の仕事をこなし始めた執務室で、机に突っ伏して項垂れる。

「だから言っただろ」

「不思議なことに、に限って、本命の出会いがあったりしますよねぇ」

王太子の側近にほぼほぼ内定している二人に、容赦なく言われる。

「……お前たちだって、最終的には賛成しただろ」

「フィスは言い出したら聞かないからな」

「そうそう。我々としては理由をつけて、納得するしかないですよねぇ?」

「くっ」

「……それでも、俺たちももっと反対するべきだったのは確かか。フィスが変装して彼らの本性を見てみたいと言うことにも少なからず納得してしまったのだから」

「……それは、そうですね。フィス様をお止めするのも我々の役目ですもんね」

最初はからかいがちだった二人が、最後には真剣に反省を口にする。
ほぼほぼ自分の我が儘に付き合わせたという自覚がある俺も、さすがに自省する。そうだ、これから自分がしたことは彼らにも降りかかるのだ。そしてひいては国民にも。英断と傲慢を履き違えてはならないのだ。

「いや、すまない。俺が少し考えるべきだったんだ。調子に乗りすぎた。これからは気を付ける。今後も、よろしく頼む」

自分で言うが、王家で半世紀以上なかった濃紺魔力と、魔法を使いこなせる覚えの早さに、うぬぼれがあった。

今回のことにしても、本性がどうのと理由はつけたが、詰まる所、使えるようになった色替えの魔法を使ってみたかっただけだ。恥じ入るしかない。

俺の謝意をしっかり感じ取ってくれたらしい二人は、「はい、こちらこそお願い致します」と、臣下の礼を取ってくれた。


「それで、改めてだけど。マリーア嬢は凄かったな?フィス。やはり聖魔法で?」

「本人は魔力を使った意識はなかったらしい。一目見て気づかれたようだ」

「へー!本当に凄いですね!一番会っているはずのグローリア様だって気づかなかったのに」

「「それな」」

ヒンターと言葉が重なり、二人で苦笑する。

「グローリアも悪い子ではないんだろうけれど……貴族の女性は、みんなあんな感じなんだろうと勝手に思い込んでいたからなあ」

「それはあながち間違ってないだろ?母とか姉とか見ていてもそうだし。……今日のあの三人が珍しいんだよ……」

「僕もそう思います……」


お茶会での才女たちを思い出し、三人で遠い目をしてしまう。


「それにしても、さすがにマリーア嬢は失礼じゃなかったか?」

「いや、全面的に俺が悪いし。騙したまま、自分の大切な妹に近づかれるのが許せなかったのだろう」

「そう、それも凄いですよね?義理じゃなかったでしたっけ?」

「そう、父親だけが同じ。マリーア嬢の母親は元貴族で侯爵の元婚約者だ。実家が没落して市井に降りたが……」

「聞くだけだと、なかなか泥沼だと思うが」

「マリーア嬢が言う通り、リリアンナ嬢が噛んでいるのだろう。彼女に全面的に受け入れられたら……それはきっと、何よりの力になりそうじゃないか?」

「最近の、侯爵ご夫妻の仲睦まじさも有名ですもんね。雨降って地固まる、ですかね。確かに、リリアンナ嬢なら温かい雨を降らせそうですよね」

「……上手いこと言うな、マークス。リリアンナ嬢はやらんぞ」

「はいはい。でもその前に、問題が山積みですね?ご自分のせいですけれど」

「うっ」


耳が痛い。痛すぎる。


「そもそも、やらん、って言ったって、リリアンナ嬢はフィスにこれっぽっちも興味がなさそうだったしな。ましてや王太子妃にさえも」

「うっ」

「あれ……もう初手でやらかしている以上、次に何か間違えたら本気で国外とか行かれそうですよね……」

「ううっ」

「まずは謝って、フィスを認識してもらうことからじゃないか?」

「そこからか……せっかく茶会を開いたのに……」

「「だから、自分のせいだろ」」

マークスにまで敬語を抜かれて突っ込まれた(普段はいいと俺は言っているが、なかなか抜けないと言っていた)。

策士策に溺れるとはこのことか。……今回のは稚拙過ぎたけど。

そういえば、策士と言うか、リリアンナ嬢は次々にいろいろな事を考えていて面白かったよな。年齢相応なことを言ったと思えば、妙に達観していたり。くるくる変わる表情も、愛らしくて。イデアーレ嬢と魔道具話をしている時は、本当に楽しそうで。ビシッと魔力主義を突っ込まれた時は、目が覚めたような心地だった。

「三つも下なのに、しっかりしてたよなあ、リリアンナ嬢。知識量もすごくなかったか?途中から年下なのを忘れたくらいだった」

「……そうだな」「本当に」

俺が無意識に茶会でのリリアンナ嬢の話を始めたことに、気の利く側近の二人は生温かい気持ちを隠しつつ、しばらくの間付き合ってくれたのであった。

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