15 / 79
第二章 夢と魔法の国
14.運命の?お茶会。now.1
しおりを挟む「本日はわたしのお茶会に参加してくれてありがとう。皆との親睦を深めるのを楽しみにしていた。皆も各々に親睦を深めてくれたら嬉しい。どうか楽しい時間を過ごしてくれ」
堂々としたサーフィス王太子殿下の挨拶で、お茶会が始まる。ちなみに、王家の家名はオルランドだ。
参加者は、伯爵家以上の10歳から12歳くらいまでの令息令嬢なので、全部で20人くらい。
お城の侍女たちがお茶にするかジュースにするかを聞いてくれて、それぞれに淹れたてを配ってくれた。マリーアと私はアールグレイの紅茶をお願いする。
にしても王子、さすがのイケメン。12歳だから、まだあどけなさが残るけど、金髪碧眼の、ザ・王子!!だ。マリーアも金髪にサファイア……青い目だけど、王子のそれの方が濃い青をしている。私にはかわいい王子様だけれど、これは10歳のリリーは憧れるわ。チラッと周りを見回すと、うっとりしている子たちは多い。
(だよねー。わかるわかる。でも、マリーは読めない顔してるなあ)
マリーアは笑顔固定はしているけれど、何だか雰囲気が微妙……な気がする。やっぱり緊張しているのかな?ちょっと注意しておこう。
「さすがサーフィス様ですわ。堂々とされていて、本日も素敵です」
侍女にお菓子をサーブして貰いながら得意気に話すのは、ピンクブロンドにパープルアイのグローリア=エクスシス公爵令嬢だ。私の一つ上。これは何ですか、さっそくの殿下は幼馴染みですアピールですか。この人、初めましての挨拶の後にマリーアを見て「ああ、この方が、例の」と、どっちとも取れる含みのある呟きをしたのよね。たぶん、敵。
でもどうぞー、殿下を争う気はありませんので!だ。
マリーアが競いたいなら、応援参戦しますけど。
「そうだね。フィスらしい振る舞いだ」
彼女の隣で殿下を愛称で呼ぶこの方は、ヒンター=アクシーズ公爵令息だ。この人は確か殿下と同い年だし従兄弟だし、幼馴染みで側近が決定している一人だろう。従兄弟だけあって、殿下と兄弟のように似ている。
アクシーズ公爵令息が黒目黒髪なので分かりやすいけど、色味が似ていたらパッと見ただけでは分からないほど似ていると思う。
そんな訳で、公爵令息にもチラチラと視線を感じる。うんうん、イケメンは万国共通の宝だよね!でも、私はイケメンは鑑賞用でいいなあ。この世界に来て(というか転生に気づいて)から、両親と姉をはじめ、顔面偏差値高めには慣れて来たけれど、それでもやはり一歩引いてしまうのは、前世の庶民の弊害か。
「マリーア嬢、リリアンナ嬢、イデアーレ嬢、今日のお菓子はどうだい?フィスに頼まれて、僕とマークスも一緒に考えたんだ。ねっ、マークス」
「……ああ、そう、だな」
マークス様は伯爵令息だ。この様子だと、彼も側近確定に見える。
ちなみに最初の挨拶の時に、ヒンター様に名前呼びでいいかと問われ、もちろん全員頷いた。そしてヒンター様からもそう言われている。
「何だ、マークス固いなあ。美少女に囲まれて緊張しているの?」
「そ……!ういう訳では……いや、確かに皆さんお綺麗ですが」
さすが小さくとも貴族令息。照れていようが何かあろうが、きちんと女性を褒めてくれる。すごいよね。……何故か少し焦りを感じるけれど。気のせいかしら。
「そうだよな?……で、ご令嬢方、どう?お菓子」
「とても美味しく戴いております。特にわたくし、このフィナンシェが好きですわ。リリー、リリアンナはどう?」
「わたくしも美味しく戴いてます!わたくしはこのチョコレートのクッキーが一番かしら」
「ふふっ、リリアンナはチョコレートが好きだものね」
再度のヒンター様の問いに、お姉さまから応える。
私たちの返事に、ヒンター様はうんうんと頷き、今度はイデアーレ嬢を見る。
「わ、わたくしは果物が好きなので……このイチゴのタルトが美味しいです。あっ、もちろん、全部美味しいです!」
公爵令息の視線を受けて、亜麻色の髪に茶目の、小動物っぽいイデアーレ嬢は緊張気味に応える。うん、かわいい。イデアーレ様も私の一つ上。
このテーブルは、グローリア様とヒンター様が公爵家、うちらが侯爵家、伯爵家とは言え、どうやら既に殿下と既知でありそうなマークス様がメンバーだ。伯爵家であるイデアーレ様は緊張しきりだろうな。彼女がお母様の言っていたかなり優秀な伯爵令嬢だけれど、優秀って言ったって緊張するよね、この面子じゃ。
……てか、わたくし思うのですが……側近候補は決まってそうじゃない?これ、ほぼ嫁探しなんじゃ……。……うん、深く考えるのはよそう。
その当の殿下は、私たちのテーブルから一番遠い所から挨拶回りをスタートさせたようだ。
「おっ、フィスがテーブルを回り始めたぞ。ご令嬢方、楽しみだね?」
「まあ?わたくしはお会いしようと思えばお会いできますけれど?」
「またまたー、グローリアだって二ヶ月くらい会ってないだろ?」
「うるさいですわよ、ヒンター兄さま!」
どうやらヒンター様はちょっとお調子者っぽい。そして兄さま呼び。公爵家同士でグローリア様と仲もいいのかな?ともかく公爵令息が率先して少し砕けてくれるのは、こちらとしてはありがたい。
「わた、わたくしは……その、皆様と同じテーブルに着かせていただいただけで、とても……。殿下なんて、畏れ多くて……」
イデアーレ嬢が蚊の鳴くような声で呟く。彼女は貴族令嬢にしては珍しく、あまり野心がないように見える。演技ならたいしたものだけれど。
「あら、それならば早々にリタイアしなさいな。本日が何の日か、理解していらっしゃるのでしょう?」
「こら、グローリア。何を言ってるんだ」
「わたくしは貴族令嬢としての覚悟でここにおりますわ。それがない方はいらっしゃらなくともよろしいかと」
「グローリア。今日は僕たち子どもの親睦会だ。勘違いするんじゃない」
ヒンター様の軽い叱責に、グローリア様も黙る。その様子に、イデアーレ嬢は今にも倒れそうな顔色になっている。まったくもー!公爵家って言っても、まだまだ子どもだなあ、仕方ないけどさっ。ここはおばちゃまリリアンナ、参戦。
「でも、イデアーレ様は謙遜していらっしゃるけれど、魔道具発明の天才……伝説のゲーニー様の再来と謳われているのでしょう?素晴らしいわ、わたくし、憧れます!わたくしなぞより、イデアーレ様の方がこの場所に相応しく思いますわ」
「えっ、リリアンナ様、そんな……!その評価も烏滸がましいと……魔道具作りは好きなのですけれど」
ゲーニー様は魔道具作りの父と言われている。私のお気に入りの、馬車の空間魔法の仕組みも、彼作なのだ。
ーーー初期版が。
「少しも烏滸がましくありませんわ!だって、わたくしのお気に入りの馬車の空間魔法……基本の広さから大小を変えられる仕組みを作られたのは、当時まだ5歳でいらしたイデアーレ様でしたのでしょう?」
「どこでそれを……!いえ、あの作ったと申しますか、子どものちょっとした思い付きを父に話してですね。完成させたのは父なんです」
イデアーレ様のお父様も、有名な魔道具師だ。
「いや、思い付きでも凄いことだ。さすが才女のイデアーレ嬢だな。リリアンナ嬢も、よくご存じだ」
ヒンター様が感心したように頷きながら話に入って来る。ちょっと、空気を変えたことを感謝してよね!分からないだろうけど……と思ったら、軽く黙礼された。気づいたのか、やるな、ヒンター様。まだ12歳なのに。
「リリアンナも何でも知っていて、とても賢いのですよ!わたくしの自慢の妹なのです!」
えっ、マリーアさん、何ですの?急な妹自慢!嬉しいけれど、お茶会の後にしてください!
「そうだろうな。それに、お二人は仲の良い姉妹で羨ましいよ。ドレスも揃いで、二人とも良く似合っているよ」
「ありがとうございます。すべてリリアンナのお陰なのです!このドレスもお互いの色をまとっておりますの」
「本当に仲良しだよね。ドレスもお似合いだし、姉妹でお互いの色と言うのも素敵です」
「マークス様もありがとうございます。本当に可愛い妹で」
「わたくしも羨ましいです。弟がおりますが、まだ小さくて……」
「まあ!イデアーレ様。小さな弟君もきっと可愛いのでしょうね」
うーん、さすがヒロインの笑顔。最高。私の話でデレてくれるとか……って、いかんいかん、そうじゃないぞ!妃、回避です!
「そ、そんなことございませんわ、マリーアお姉さま。お姉さまがお優しくて、素敵な方だからです」
私も慌てて謙遜し、マリーア推しを始める。姉妹でお互いを褒め合い、途中からイデアーレ様も巻き込み、終いにはツンツンのグローリア様も巻き込んだ。ちょっと敵認定はしているけれど、本人の希望通り王子の婚約者になってもらえれば助かるし、ちょっとつつけば本音も出るし、まだまだ可愛いわ。
「これは、フィスが回って来るのが楽しみだね……」
にこやかに私たちのやりとりを見ていたヒンター様の一人言と、その隣で苦笑気味のマークス様には気づかずに、思いもよらなかった女子会は結構盛り上がったのであった。
3
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
「離婚しても構いませんけど、あなたはその人に殺されますよ」
夜風
恋愛
ロクティア王国の騎士団長アリウスの妻タリアは、突然夫から離婚を突き付けられた。
女性の影があったとはいえ、まさか離婚まで考えているとは思っていなかった
タリアは混乱する。
するといきなり大量の記憶が流れ込んできた。
――と同時に思い出す。
タリアのこの人生が2回目のものであると。
完全に思い出したタリアは、夫の使者に向かって言う。
「離婚しても構いませんけど、あなたはその人に殺されますよ」
不定期更新。
【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった
華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。
でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。
辺境伯に行くと、、、、、
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】
臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!?
※毎日更新予定です
※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください
※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています
『犯性(反省)人生 上』
シロ
エッセイ・ノンフィクション
僕は、三重県で生まれ、現在は愛知県内に住む、38歳のサラリーマンです。
僕の生まれてから、38歳になるまでの人生
『山あり谷ありの壮絶な人生』
をつづった、ほぼノンフィクションの話です。
タイトルは、『犯性(反省)人生』
貧乏生活から月収120万
性奴隷の学生時代
起業してからの地獄
訳して『犯性危』の人生を綴った作品です。
『犯罪。性。危機。』の内容です。
2話ずつ書いて、小話を間に入れますので、よろしくお願いします!
※名前バレ防止のため、一部フィクションもあります。
※誤字脱字ばかりです。
気軽に感想やお気に入り登録も、よろしくお願いします。
あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットの悪評を広げた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも解放されずに国王の命令で次の婚約者を選ぶことになる。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。
婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい
香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」
王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。
リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。
『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』
そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。
真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。
——私はこの二人を利用する。
ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。
——それこそが真実の愛の証明になるから。
これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。
※6/15 20:37に一部改稿しました。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる