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第一章 サバンズ侯爵家
4.お母様の気持ち
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「お母様、わたくし……ロマンス小説がお気に入りですの」
「……えっ?ロマンス小説って……、あの、ロマンス小説よね?」
「はい、あのロマンス小説です」
そう、今の私も前の私も、読書好きは共通点なのだ。
本が存在する世界に転生で良かったと思う程には。
「お家の本は大抵読んでしまったし……ちょっと、その、お勉強の本だけではなくて、小説も読んでみたくて……巷で話題のものを侍女に借りましたの。……ごめんなさい」
「謝らなくてもいいわ。リリーには少し早い気もするけれど、今は社交界の奥様たちにも人気ですもの。リリーは本好きで賢いものね。そう、だから何となく大人になったのね?」
お母様が少し楽しそうに話す。やはりロマンス小説は乙女の憧れだよね。
「ふふっ、ありがとうございます。お母様も何か読まれましたか?」
「ええ、話題に困らないくらいには」
「それでしたら……お母様。わたくし、思うのですけれど」
さて、ここからだ。
名付けて『賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ』大作戦!(おおげさ)よ!
「男女のすれ違いって、言葉足らずが悪いと思いませんか?」
「え?り、リリー?」
私の言葉にさすがに動揺する母。でもここは、子どもが大人の世界を知った気になって分かった風に盛り上げる。
「お姉さまのこと、何か不安があるのでしたら、お父様にお話した方がいいと思います。それに、お母様がお父様のことを大好きなことも」
「!」
お母様が珍しくあわあわする。そういう姿をお父様にも見せたらいいのになあ。いつも完璧な侯爵夫人の姿しかしないのだもの。ツンデレさんなんだよね。
「り、リリー。お母様をからかってはいけないわ」
コホンと咳払いをしつつ平静を取り戻そうとしているけれど、耳が赤いわ、お母様。
「からかっておりません。だって、本当のことですよね?」
だって、お父様が早くお帰りになる時は、使用人への指示がいつもよりテキパキするし、嬉しそうなのが見ていて分かるのだ。お父様の好きなものをたくさん用意して。貴族の奥様らしく表情は抑えているけれど、セバスチャン辺りにはバレてると思う。
口をハクハクしているお母様を横目に、私はにこやかに話を続ける。
「お母様が、お姉さまの本当のお母様ではないことは、わたくしも何となく分かります。けれど、お父様への不安や不満をお姉さまにぶつけたりしたら、お父様に嫌われませんか?だって、お母様が違うのって、お姉さまのせいではないですよね?」
「…………」
分かる、複雑のは分かるよ、お母様!本当は全面的に味方したい!けれど!!
マリーアの……お姉さまのせいじゃないのだって、確かなのだ。だから。
「ロマンス小説のように……お母様とお父様の仲が悪くなったりしたら……わたくし、悲しいのです……お姉さまも、きっと悲しく思うと思うのです」
お母様がハッとした顔をする。
そして少し申し訳なさそうな笑顔で、私を抱きしめた。
「そうね、ごめんね、リリー。貴女だって不安なのに、お母様がこれではダメね」
「ダメじゃないです!」
「ありがとう、リリー。……お母様ね、マリーアさんの本当のお母様を知っているのよ」
「そうなのですか?!」
と、惚けてみたものの。
うん、お母様が知っているのは知っている。マリーア母も元貴族だもんね。世間が狭いし、そりゃそうですよね。知っているって、余計に思う所があるだろうなあ、きっと。
「ええ、とても綺麗な方でね。……婚約者の方ととても仲が良くて、皆の憧れだったのよ」
濁しているが、その婚約者がお父様なのは明らかだ。小説ではそんな細かい描写はなかった気がするけれど、お父様たちがそんなに有名な仲の良さだったら、そりゃあ色々思うわね。
「まさかご実家があんなことになるなんて。ご苦労されたでしょうね。愛する人とも別れさせられて……分かっているのに、わたくしは……」
お母様は遠い、どこかを見ているようだ。
昔の……マリーアのお母様に寄り添うお父様を思い出しているのかもしれない。
全ては仕方のないこと。未婚の二人に子どもが、というのはあれこれ言われることだけれど、仕方ない。
お母様だって、分かってる。
でも、頭で理解ができたとしても、心が理解できるのかは別問題だよね。
きっとお母様は、お父様がずっとその人を愛していると思っているのだろうし。
お母様が蓋をしていたことを思い出させたことは心苦しいけれど、きっと少し冷静になってくれた。せっかくのお父様への大切な気持ちを、自分で壊して欲しくないもの。良かったと思いたい。
「……それに、可愛い娘を置いていかなければならないなんて、どんなに辛いことか……どれだけ心配か……わたくしったら……リリー、ありがとう。優しい娘を持てて、お母様幸せよ」
お母様はそう言って、私をぎゅっと抱きしめた。私も愛情を込めて、精一杯強く抱きしめ返す。前世を思い出しても、9歳のリリーの心だってしっかり残ってる。大好きなお母様がいなくならなくて、本当に良かった。
あとは……お父様だよね。うん。
「……えっ?ロマンス小説って……、あの、ロマンス小説よね?」
「はい、あのロマンス小説です」
そう、今の私も前の私も、読書好きは共通点なのだ。
本が存在する世界に転生で良かったと思う程には。
「お家の本は大抵読んでしまったし……ちょっと、その、お勉強の本だけではなくて、小説も読んでみたくて……巷で話題のものを侍女に借りましたの。……ごめんなさい」
「謝らなくてもいいわ。リリーには少し早い気もするけれど、今は社交界の奥様たちにも人気ですもの。リリーは本好きで賢いものね。そう、だから何となく大人になったのね?」
お母様が少し楽しそうに話す。やはりロマンス小説は乙女の憧れだよね。
「ふふっ、ありがとうございます。お母様も何か読まれましたか?」
「ええ、話題に困らないくらいには」
「それでしたら……お母様。わたくし、思うのですけれど」
さて、ここからだ。
名付けて『賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ』大作戦!(おおげさ)よ!
「男女のすれ違いって、言葉足らずが悪いと思いませんか?」
「え?り、リリー?」
私の言葉にさすがに動揺する母。でもここは、子どもが大人の世界を知った気になって分かった風に盛り上げる。
「お姉さまのこと、何か不安があるのでしたら、お父様にお話した方がいいと思います。それに、お母様がお父様のことを大好きなことも」
「!」
お母様が珍しくあわあわする。そういう姿をお父様にも見せたらいいのになあ。いつも完璧な侯爵夫人の姿しかしないのだもの。ツンデレさんなんだよね。
「り、リリー。お母様をからかってはいけないわ」
コホンと咳払いをしつつ平静を取り戻そうとしているけれど、耳が赤いわ、お母様。
「からかっておりません。だって、本当のことですよね?」
だって、お父様が早くお帰りになる時は、使用人への指示がいつもよりテキパキするし、嬉しそうなのが見ていて分かるのだ。お父様の好きなものをたくさん用意して。貴族の奥様らしく表情は抑えているけれど、セバスチャン辺りにはバレてると思う。
口をハクハクしているお母様を横目に、私はにこやかに話を続ける。
「お母様が、お姉さまの本当のお母様ではないことは、わたくしも何となく分かります。けれど、お父様への不安や不満をお姉さまにぶつけたりしたら、お父様に嫌われませんか?だって、お母様が違うのって、お姉さまのせいではないですよね?」
「…………」
分かる、複雑のは分かるよ、お母様!本当は全面的に味方したい!けれど!!
マリーアの……お姉さまのせいじゃないのだって、確かなのだ。だから。
「ロマンス小説のように……お母様とお父様の仲が悪くなったりしたら……わたくし、悲しいのです……お姉さまも、きっと悲しく思うと思うのです」
お母様がハッとした顔をする。
そして少し申し訳なさそうな笑顔で、私を抱きしめた。
「そうね、ごめんね、リリー。貴女だって不安なのに、お母様がこれではダメね」
「ダメじゃないです!」
「ありがとう、リリー。……お母様ね、マリーアさんの本当のお母様を知っているのよ」
「そうなのですか?!」
と、惚けてみたものの。
うん、お母様が知っているのは知っている。マリーア母も元貴族だもんね。世間が狭いし、そりゃそうですよね。知っているって、余計に思う所があるだろうなあ、きっと。
「ええ、とても綺麗な方でね。……婚約者の方ととても仲が良くて、皆の憧れだったのよ」
濁しているが、その婚約者がお父様なのは明らかだ。小説ではそんな細かい描写はなかった気がするけれど、お父様たちがそんなに有名な仲の良さだったら、そりゃあ色々思うわね。
「まさかご実家があんなことになるなんて。ご苦労されたでしょうね。愛する人とも別れさせられて……分かっているのに、わたくしは……」
お母様は遠い、どこかを見ているようだ。
昔の……マリーアのお母様に寄り添うお父様を思い出しているのかもしれない。
全ては仕方のないこと。未婚の二人に子どもが、というのはあれこれ言われることだけれど、仕方ない。
お母様だって、分かってる。
でも、頭で理解ができたとしても、心が理解できるのかは別問題だよね。
きっとお母様は、お父様がずっとその人を愛していると思っているのだろうし。
お母様が蓋をしていたことを思い出させたことは心苦しいけれど、きっと少し冷静になってくれた。せっかくのお父様への大切な気持ちを、自分で壊して欲しくないもの。良かったと思いたい。
「……それに、可愛い娘を置いていかなければならないなんて、どんなに辛いことか……どれだけ心配か……わたくしったら……リリー、ありがとう。優しい娘を持てて、お母様幸せよ」
お母様はそう言って、私をぎゅっと抱きしめた。私も愛情を込めて、精一杯強く抱きしめ返す。前世を思い出しても、9歳のリリーの心だってしっかり残ってる。大好きなお母様がいなくならなくて、本当に良かった。
あとは……お父様だよね。うん。
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