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第一章 サバンズ侯爵家

1.これが噂の異世界転生

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「リリアンナ、今日から君の姉になるマリーアだ。仲良くしなさい」

ある日突然、サバンズ侯爵である父が、自分と同じ鮮やかな金色の髪色でサファイアのような瞳を持つ美しい少女を我が家へと連れてきた。

その少女は、緊張した面持ちで挨拶をする。

「マリーアともうします。どうぞよろしくお願いいたします」

「お姉さま…?」

まだ9歳のかわいい私は、こてんと首を横に傾げ…た瞬間、前世の記憶が急に頭に流れ込んで来た。



あ~。

ここって前世の私が子どもの頃大好きだった、『サファイアの君と共に』って、ジュニア向け小説の世界だわ!

これ、あれね?!噂の異世界転生ってやつね?!やだー、本当にあるのねぇ。

そうか、このマリーアを引き取る話が出ていたから、最近お母様の機嫌が悪かったのね。納得しました。


『サファイアの君と共に』は、ファーブル王国を舞台にした夢と魔法がいっぱいの、いわゆるシンデレラストーリーだ。

主人公のマリーアは市井で母と二人で慎ましく暮らしていたが、ある日母親が馬車に轢かれて亡くなってしまう。その時一緒にいたマリーアが、母親を助ける為に暴走させた魔力が平民のそれより大きかったことで国の精査が入り、サバンズ侯爵の娘であることが判明する。この世界は魔力で親子鑑定ができるのだ。魔力は遺伝が強く、貴族が多い傾向にある。もちろん例外もあるが。
あ、あと、指輪!お父様は別れの際に、自分の瞳の色のお互いのイニシャル入りのサファイアの指輪を渡していたのだ。別れの指輪はテッパンだよね。

そう、お察しの通り、彼女の母と父は、父が私の母と結婚する前の恋人同士だったのだ。

マリーアの母も元は子爵令嬢で、父の幼馴染みで婚約者だったのだが、子爵家が事業の失敗で没落し市井へ下り、当たり前のように侯爵家との婚約は解消。その後にマリーアの母は妊娠に気づいたが、伯爵家の私の母との結婚が決まった父に、平民となった彼女はもちろんそんなことは言い出せず、出産に反対の家族を押し切りマリーアを出産し、ほぼ勘当状態で女手一つで育てたのだ。いや、すごいと思うよ。

そして親父。こんな時代に婚前交渉したのなら(別れる前に盛り上がっちゃったんだろうなあ………はっ、ダメダメ、ワタシ、まだ9歳!!)、ちゃんと確認くらい取れよ。大事な大事なかわいい恋人だったくせに。あ、でもあれか、バレてたら侯爵家のお祖父様あたりにマリーア共々消されていた可能性もあるか。そう考えたら、良かったのかしらね。

ともかく、そんな偶然と奇跡が重なって、マリーアは侯爵家に娘として引き取られることになる。

そして当然のように、私と母の嫌がらせが始まるのだ。そんな嫌がらせを乗り越え、聖女の力にも目覚め、嫌々妹の婚約者になっていた王太子からの愛も勝ち取り、幸せに暮らしましたとさ。だ。


ええ、ええ、大好きでした、子どもの頃は。


いいよね、勧善懲悪、ハッピーエンド。清く正しく美しく生きていれば、王子様と出会えると本気で思っていましたよ。汚い大人になんかナリタクネ~!の大熱唱ですよ。


でも、結婚したり、子どもを持ったりとすると、いろんな見方が見えてくるもので。


例えば幼い兄妹の亡くなる様が苦しくて、1度しか観られなかった有名スタジオの戦争アニメ映画。昔は意地悪な伯母さんをクソババアとか思っていたけど、自分の子どもにさえ食べ物を用意するのが困難な環境の中、甥っ子や姪っ子の面倒まで甲斐甲斐しくみてくれる人なんて、どれだけいるだろう。理想としてはそうありたいけれど、私には自信がない。きっと無理。絶対にコイツらさえいなければと思っただろう。

この物語だって、親の事情なんて、子どもには関係ないじゃん、侯爵の奥さん心狭っ!!と思っていたが、そうではない、そうではないのだ。いや、狭いな、狭いと思うよ?確かにマリーアは関係ないよ。不倫でもないしな?でも、そんなに簡単に割り切れることではないのだ。

政略ではありつつも、なんやかんやで父を愛している母。貴族は婚前交渉がよしとされないこの世界で、前の恋人との子ども、しかも色味は愛する旦那様と同じ上に、形はその恋人と瓜二つ。しかも、まだまだ憶測だけれど、ここがまんま物語だとすると、私よりも華やかで優秀なのだ。これがやっかまずにいられようか。分かる、分かるよ、お母様。そして物語の中の私。


でも、ダメなのだ。感情に任せて行動すれば、身の破滅はお約束。


ジュニア向け小説だったから、ざまあも生臭くはなかったけれど、シンデレラの継母継姉よろしく二人で散々イビり、王太子との婚約を取り消されそうになって、マリーアに呪いをかけようとしたのがバレて、島流し的なものに遭うはずだ。

せっかく上げ膳据え膳のお嬢様に転生出来たのに、この生活を棒に振りたくはないわ!!今の私なら庶民生活もできるだろうけれど!人生初?のお嬢様生活を満喫したい!「ここからここまで全部くださる?」って、セレブ買いをしてみたい!!だって、次とか分からないじゃない?

それに、貴族生活どっぷりのお母様だって、追放された生活は厳しいだろう。子どもの私の言葉がどれだけ届くかは分からないし、どうやらチートもなさそうだし、前世も覚えているだけで、何の変哲もないオバチャンだったけど!頑張るからね!


「初めまして、お姉さま。リリアンナ=サバンズです。これから仲良くしてくださいませ!」


前世の記憶が50オーバーまである私は、記憶を取り戻して頭痛を起こすような繊細さもなく、ここまでの脳内考察をコンマ何秒かでこなし、満面の笑顔で挨拶をした。

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