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そして

5.はじめの一歩

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夏休みが終わり秋口になったと思ったら、あっという間に秋が深まってくる。

学園の催し物も滞りなく終わり、生徒会の仕事も落ち着いてきた。


と、いうことは。


「ルト様の誕生パーティーまで、ひと月を切ったわ……どうしましょう」


学園帰りの馬車内で呟く。


「お嬢様のお気持ちが定まらないのであれば、仕方ないと思いますが。殿下はずっと婚約者を決めずにいらしたので、今までも外交でしかエスコートをしてらっしゃらないですし」

「そうですよ。殿下の誕生パーティーならデビュタント前の僕でもエスコートできますから。姉上もご心配なく」


カルムが学園に復帰してから、登下校はずっと一緒だ。

もちろん、先日からはハルマンも。シスと一緒にいられるので、二人で少しはキャッキャしてくれるかしらと期待していたけれど、仕事に真面目な二人は全くそんな素振りもなくて残念だ。

じゃ、なくてだな。


「だって、何だか失礼じゃない?スルーなのも……」

「では、お断りの連絡を入れますか?」


シスがすかさず聞いてくる。


「う、う~ん、それもちょっと……でもそうよね。含めて考えないといけないかしら……いつまでも、お待たせするのも良くないわよね」

「差し出がましいようですが、よろしいですか?お嬢様」


珍しく、ハルマンが話に入って来る。


「ええ、どうぞ」

「結論が出ないのであれば、無理に出さずともよろしいのではないかと。……私見ですが、殿下もフォンス様も、お嬢様がお相手を見つけない限り、待たれるような気がします」

「確かに。さすがハルマン、経験者だね」

カルムがしたり顔で言う。忘れがちだけど、14歳ですよ、君は。

「……本気で惚れたなら、そのようなものかと」


きゃー!!急にラブが始まったわー!

それにハルマンみたいな人に言われると、重みが違う。

シスも何事もないような顔をしているけれど、少し耳が赤いわ。ふふっ、可愛い。でもイジるとハルマンが怒られて可哀想だから、そっとしておこう。盛り上がりたいけど。


「姉上。によによされてますが、聞いていますか?」

「き、聞いてるわよ、もちろん!」


そうでした。人の恋路を楽しんでいる場合じゃなかった。私も真剣に考えなくてはいけない。


「ハルマンが言ってくれたことを考えると、まだ答えを出す時間は甘えてもいいのかしら……何だかずるい気がして」

「待たせてもらえた方が、嬉しいものですよ。少なくとも可能性がある訳ですから」

「確かに、そんな側面もあるよね。僕も焦らなくてもいいと思いますよ」

「いいのかしら……?」


私の呟きに、三人が優しい微笑みで頷いてくれる。真剣に相談できる幸せ。


「何度も申し上げますが、僕としては姉上がずっと家にいてくれても嬉しいので、何ならお相手を見つけずともよろしいのですが」

「またそんなことを言って!」

「本心ですよ。……それとも、お二人以外にでも気になる方でもいらっしゃいますか?」

「えっ?」


カルムにそんなことを聞かれて、何故か私の頭にグレイさんが出て来た。……きっと、あの一途さが羨ましいのだ。向けられている相手が。だから、気になるのだ。


「……姉上?本当にいたりします?」


私がうっかり考え込むと、カルムが探るように聞いてきた。


「いえ、気になる、と言うか……。笑われるかもしれないけれど、本当の一途な方がいいなって。そうね、シスに一途なハルマンみたいに」

「姉上……」

「吹っ切れてはいるの。けど、最初の一歩が踏み出せない。……情けないけれど、やっぱりね、また騙されるのが怖いんだと思う。ルト様とフォンス様が、奴と同じだとは思ってはいないのだけれど……」

「姉上、それは……」

「うん、キリがないのよね。でも、昔も今もまた騙された自分も何だか情けなくて」


人の恋バナを聞くのも好きだし、大切な人達が幸せそうなのも嬉しいし、憧れるし羨ましくもなるんだけど。


何より、昔を振り返れば分かる。みんなクズじゃないのは知っている。知っているけれど。


やっぱり再スタートの、最初の一歩はいつも怖い。


「お嬢様。お嬢様がお人好しなのは永遠に変わらないと思うので、諦めましょう」

「シス、容赦ないわ……」

「褒めているのですよ。私をはじめ、お嬢様ファンの皆様は、そんなお嬢様が大好きなのですから。あのお二人は大丈夫だろうと思いますが、もしまた、お嬢様に不埒なことをする輩がいようものなら、周りがお嬢様以上に怒りますから、ご心配なく」

「な、何か、逆に違う心配が……」

「大丈夫ですよ。社会的に抹消するだけで、物理的にどうこうはしません」


凄くいい笑顔で言ってるけど、シスそれ、ダメなやつだから。


「そうですね。僕も全面協力しますので、問題ないです」


いや、問題しかないよね?!


「……物理的にも必要性が出てきましたら、辺境領全体でもご支援致します」


最後の良心でいてほしかったハルマンまでもが、妖精ウイルスに感染しちゃってる!


「いやいやいやいやいや、皆止めてね?!」


「分かってますよ」と三人とも笑っているけれど、怪しいもんだわ。


でも。


「ありがとう、カルム、シス、ハルマン。ちゃんと、自分らしく考える」

「そうですよ、お嬢様。……あ、もしかしてフリーダ様に金木犀を愛でるお茶会に招待されたので、余計なことを考えたりしました?」

「うっ、鋭いわ、シス。……ちょっと、あったりなかったり?お花は楽しみなんだけど……」

「前回、いろいろありましたもんね」

「そうなの……」


ルト様の告白とか、フォンス様の突撃とか。気持ちが追い付かなくて、申し訳なく思うやら恥ずかしいやらで。


「なるほど。じゃあ、今回は僕もご一緒しますよ」

「えっ?」

「さすがに弟がいれば、少しは違うのでは?」

「そ、そう、かしら……?」

「そうですよ。じゃ、決定ですね。フリーダには僕から言っておきますので」

「でも、カルムはフリーダとあんまり……」


仲良くなかったような。と言うより、犬猿だったような。


「嫌だなあ、姉上。いつまでも子どもじゃないのですから。大丈夫ですよ」


う、うん……?あんまり大丈夫じゃない気がするのは、気のせいかしら?


結局、笑顔でのらくらとかわされて、カルムのお茶会への同行が決定した。


うん、あまり考えないでおこう。
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