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それから

5.袖振り合うも多生の縁? その4

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「はあ……何だかものすごく疲れたわね」

衝撃のお茶会が終わり、ようやくの帰路。馬車の中でぐったりと背もたれに体を預ける。

「はしたないですよ、お嬢様。でも本日は大変でしたからね。大目に見ましょう」

「ありがとう~」

はあ~~~!と、甘えついでに大きくため息を吐く。さすがにシスの視線が強くなったが、気にしないことにする。

「それにしても。驚いたわね、お二人」

「全くです」

「袖振り合うも多生の縁、ってこういうことかしらかと思ったわよ……ちょっと違うかしら……?まあ、いいわね、それにしたって、こんなに覚えている人達が揃ったりするもの?」

「まあ、そんなこともあるのでしょうね。お嬢様以外は未練や後悔の塊がおありでしたから、それもあるのでは?」

「なるほど?……でもまさか、これ以上はいないわよね?」

「………………」

私の乾いた笑いと共に出たセリフに、無言の笑顔を見せるシス。ちょっと、冗談のつもりなんですけど?

「シス?何か知ってるの?ねぇ?」

シスが笑顔固定で何も答えぬまま、馬車は自宅に到着した。




「ただ今帰りました」

「お帰りなさい、姉上!お待ちしておりました!」

そんな言葉と共に、ぎゅっとハグされる私。

「カ、カルム?どうしてここに?」

カルムは私の可愛い弟だ。三つ下なので、フリーダと同い年。外交担当のアウダーシア公爵家の跡取りの為、何ヵ国かに留学していて、今は隣国にいたはず。

「どうして、って。姉上がめでたくあのクズと別れたって聞いたから、夏休みを前倒しして帰って来たんじゃないか!」

カルムが私を抱きしめる手に力を入れる。ちょっと苦しい。

「カルム様。お嬢様が苦しそうですが」

「ああ、ごめんごめん、つい。それで?」

冷静なシスの言葉に、慌てて手を緩めるカルム。けれどまだ、私は抱きしめられたままだ。

「ねぇ、シス?君がいながら、何でこんな事になってるの?君が大丈夫と言ったから、僕は留学を開始したんだよ?」

「……面目次第もございません」

「って、八つ当たりか。僕も騙されたからなあ」

「カ、カルム?シス?え、何?」

二人の会話にいまいち入れない私は、カルムの腕の中で一人ジタバタしていた。

「ああ。姉上には話してなかったよね。できれば思い出して欲しくなかったから、ずっと黙って見守っていたのに……あの野郎……一瞬でも信じた自分も殴りたいくらいだ」

「カ、ルム?」

「僕もね、覚えているんだよ、姉上。前世をね」

曇りのない笑顔でサラッとカミングアウトする、可愛い弟。……って。


「えっ?えっ、え~~~っ?!」


今日はなんて日なの!!




「さて、どこから話す?シスは?」

「私は既に。カルム様のことは勝手に判断できませんでしたので、お話は控えておりました」

「そうか。分かった」

制服がシワになるからと、着替え終えてからの私の部屋で、三人でお茶を囲む。何度目だろうか、この光景。

「姉上。僕はあっちの関係者じゃないよ?……思い出せない?」

「カルム」

そうは言っても、カルムはちょっぴりシスコンの、可愛い弟で。……ん?弟?まさか。


悠希斗ゆきと……?」

「正解!思い出してくれた?」

カルムが嬉しそうに立ち上がり、また私を抱きしめる。

「お、もい出したっていうか、何と言うか……」

「ですからカルム様。強すぎます」

「あ、またごめん。嬉しくて」

へにゃっ、と眉を下げて子犬みたいに笑う、今生の弟。
悠希斗は、前世での弟だ。でも、なぜ?

仲が悪い訳ではなかった。どちらかと言うと、良かったと思う。けれど異性だし、年齢を重ねるにつれて徐々に距離は開いていっていた。仕方のない距離感だったと思う。お互いに突き放すこともなかったけど、いつまでも一緒には遊べないもんねぇ。

ともかく、こんなにスキンシップを取ってくる子ではなかったのだ。

「カルム」

「何?姉上」

カルムが私をハグしたまま、首をこてんと傾ける。あ、あざと……っ!けど、かわっっ!かわいい!

いやいや、ここは姉の威厳を持って行かねば。

「コホン。カルムが悠希斗って聞いても、何だかピンと来なくて……こんなに、感情豊かな子だったっけ?」

「……思い出してくれないの?」

「ち、違うわよ!悠希斗は思い出したわよ?でも、イメージとかけ離れていて……」

「ああ、そういうこと」

カルムは安心したように微笑んで、私から腕を解き、自分の席に座り直す。そして私の手を握りながら、真剣に私を見つめた。

「今度は後悔したくなくて」

「後悔」

「そう。後悔。……僕はねぇ、姉上。姉ちゃんの事が大好きだったんだよ」

「そ、そうなの?!」

「うん。知らなかったでしょう」

「嫌われてるとは思わなかったけど、そんなに好かれているとも思ってなかったわ」

「だよね。そういう風にしてたもん。恥ずかしいじゃん、シスコンとか」

下を向いて首筋をカリカリ掻きながら、ちょっと顔を赤くして話す弟。尊い。

「自覚があったんですよね」

「シス、うるさいよ」

「でも、お嬢様でしたら仕方がないです」

「そうだろ?……でも、大事な姉ちゃんに変な虫が付くのが嫌で、自分なりに警戒してたのにさ……ちょっとした隙にあんなのに捕まって」

昔を思い出したのか、苦々しい顔をするカルム。えっ、でも待って、何でそんなことを知ってるの?

「悠希斗は何で知って……」

「姉ちゃん元気なかったから。ちょうど心配してうちに来てくれた玲子さんに聞いたんだよ」

「そうだったの……」

本当に、前はみんなに心配かけたなあ。嬉しいけど、恥ずかしいわ。弟にまで心配されるとか。

「聞いた時はマジ殺そうと思ったよね。姉ちゃんを犯罪者の家族にしたくなかったから踏み止まったけど。あのまま付き合いを続けられていたら分からなかったよ」

まだあどけない美少年の輝く笑顔で、そんなこと言わないで!

わ、別れて良かった~!弟の愛が重い!!

「同感です」

し、親友の愛も重い!本当に良かった、二人を犯罪に走らせなくて!

「な、なんかごめんね……?」

二人の迫力に、なんとなく謝ってしまう。

「本当だよ。だいたいさ、姉ちゃんは人が良すぎるんだよ」

「同感です」

「人の長所を見つけられるのは、姉ちゃんらしくて好きだけどさ、そこで絆され過ぎてもダメなんだよ」

「同感です」

「誰にでも愛想がいいし」

「そこも素敵なのですが、心配ですよね」

「そうなんだよ!それに……」

……あれ?何だか急に私の悪口大会が始まってない?いや、仕方ないけど。分かるけど。迷惑をかけた自覚はあるけれど!


「ちょっと酷くない?二人して!」

私はぷくっと頬を膨らませて、精一杯の怒りの表情を作る。

「ほらこれ。普段は見せないこの愛らしさ……」

「無意識に出された方がやられるんですよね……」


私は怒っているのに、二人に肩を抱かれながら頭をよしよしされる。


「私は怒っているのだけれど?」

「身内になっちゃうと、姉上の怒ってるなんて、かわいいしかないんだよ。自覚ないでしょ?もう危ないから、ずっとうちにいなよ。僕が面倒見るから」

「何言ってるの!そんなこと出来るわけないでしょ!」

「そうですよ。次期公爵様が何を世迷い言を。お嬢様は私が面倒を見ますので」

「……シス、それも違うと思うわ」


あれ?話がすり変わってない?まあいいか。二人が大切に想ってくれているのが伝わってくるから。ますます私、自分を大事にしなきゃよね。大切な二人を犯罪者にさせられないし。


「ともかく!しばらく留学は休みにして、僕は学園に戻るから!今度こそ後悔しないように、姉上を変な虫から守るからね!」


「あ、ありがとう……?」


大丈夫なのかな、これ?

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