上 下
3 / 18

3.天使?との出会い に

しおりを挟む
「えっ、ひとみ?」

急にお兄ちゃんと呼ばれた事と、小さい女の子の声に思わずそう言って振り返る。

そこには、もちろんひとみではない、でも同じくらいの歳の女の子が立っていた。

「ひとみちゃん?」

「いや、ごめん、妹と間違えちゃったよ。君は一人なの?そろそろ帰らないと暗くなるよ」

「お兄ちゃん、わたしがわかる?」

「?お兄ちゃん、君に会ったことあるっけ?ごめんなー、ひとみのお友達かな?忘れちゃったかも。名前教えてもらえる?」

「!わたし、ひまり!森山ひまり!」

忘れてしまっていたことにがっかりされると思ったが、彼女は満面の笑顔で自己紹介をした。
素直でかわいい子だな。ひとみを思い出してしまう。

「……ん?森山?」

「そう!さっきお兄ちゃんが見ていたやつ、森山壮介って、わたしのパパなの!」

「えっ」

えええええええーーー!

「ほっ、本当に?」

「ほんとうだよー!」

マジか……。
さすがに妹の友達の父親だと……。

でもあれか?逆に怪しまれずに家に入れるんじゃないか?いやいや、さすがにクズ過ぎるだろ、俺。子どもを巻き込んじゃいかん。そもそも闇バイト見るのもクズか……。あ、何だかますます落ち込んできた……。

「お兄ちゃん?どうしたの?そうだ、ひとみちゃんは?いっしょにあそんでないの?」

「あ、ああ。ひとみは今、ちょっと病気でね。入院しちゃってるんだ」

「そうなのね。だからお兄ちゃん、そんなにさびしそうだったんだ。心配だね」

「……寂しそうに見える?」

「うん。だからあんなダメなやつ見てたんでしょ?」

「?!?!だっ、あれ、はっ」

動揺してカミカミになってしまう。

そうだ、最初彼女は後ろから声をかけてきた。その仕事を受けるのかとも聞いていた。このくらいの子が分かるとも思わなくて流していたが、どうやら賢い子どもらしい。

「そういうのにね、手を出すとロクなことにならないよ!に行っても苦労するんだから」

「向こう?」

「そう!それで?そんなお金でひとみちゃんはよろこぶの?」

「うっ、」

何、小学生に説教されてんだ、俺。
それに、そんなことは分かってる。貧乏人のひがみだろうが、金持ちの娘が何言ってんだって気持ちもある。
けれど彼女の素直な言葉は、なぜかすっと俺の心の中に入ってきた。

「あ、やっぱり兄ちゃんだー!公園でなにしてるの?ひとみは?」

俺が彼女に返事をしようとした所で、翔真がこちらに向かって叫んできた。もう部活が終わる頃そんな時間か。

もちろん優真も一緒で、二人でこちらに向かって小走りしてきた。

「こんにちは。君はひとみの友達?」

愛想のいい優真がひまりちゃんに気づいて声をかける。

「!うん!森山ひまりです」

「ひまりちゃんか。僕は優真。優兄ちゃんて呼んでね。で」

「僕は翔真。翔兄ちゃんで」

「わあ、ひとみちゃんはお兄ちゃんいっぱいいて、いいなあ!」

「ひまりちゃんは一人っ子なの?」

今度は翔真が声をかける。

「うん。ママね、ひまり産んで死んじゃったから」

「「「!!」」」

「でもね、お手伝いさんとかいっぱいいてね、寂しくはなかったのよ!ただ、お兄ちゃん、いいなって」

情けないことに年上男三人で黙りこくってしまい、小さい子に気を使わせてしまう。こういう所、男ってダメだよな。うちも、ひとみの方が気遣い屋さんだった。

「そうだったのか。じゃあ、今日から僕たちを本当のお兄ちゃんだと思っていいよ」

「いいの?」

「もちろん!ね!兄ちゃん、翔真」

「うん、もちろん」

「いいぞ」

「ありがとう!」

俺たちの言葉に、心から嬉しそうな表情を見せるひまりちゃん。うん、子どもは笑顔でなきゃな。
笑顔の子どもは、みんな天使だ。

「なあ、兄ちゃん。当のひとみは?」

優真が改めてキョロキョロ周りを見ながら聞いてきた。

「あ、ああ、実は……いや、アパートに帰ってから……」

「ご病気で入院だって」

長くなる話だし、小さい子に聞かせる話でもないし、彼女を送って来て帰ってから二人に話そうとしたのだが、当の本人に遮られた。

「そうだ。優兄ちゃん、翔兄ちゃん、お兄ちゃんに気をつけた方がいいよ!さっき悪いお仕事探してたよ!」

「わっ、こら、ひまり!」

慌ててしまい、呼び捨ててしまった。いや、それどころじゃない。

「あっ、その前に、学校やめるっていってたよ!お金がたいへんだから」

「待て待て待て待て。ひまり、いつから見てたんだ?」

「お兄ちゃんが公園に入ってきたところから!」

つまり最初からか。

「ほら、ひまりちゃん、人の内緒話は勝手にしちゃだめだぞ~?」

後ろから、弟二人のただならぬ圧を感じつつ、ひまりの口を閉じさせようと必死の俺。

「えー?ないしょっていわれてないもん!」

……確かに。

「いやでもな……」

「うん、兄ちゃん、後は家で聞くよ。ありがとうね、ひまりちゃん」

「そうだな。おうちまで送るぞ。ひまり」

なおも悪あがきをしようとする俺を、弟二人が羽交い締めをする。二人とも、ひまりにはいい笑顔だ。

「大丈夫!お手伝いさん近くにいるし、一人で帰れる!またね!」

ひまりはそんな様子を楽しそうに見た後、振り返ってさっさと走り出してしまう。

「ダメだよ!もう暗いよ!待って!」

優真が慌てて追いかけたが、もう彼女の姿は見えなくなっていた。

「はやっ、ひまりちゃん」

「大丈夫かな?」

「大丈夫じゃないか?お手伝いさんもいるみたいだし」

「そうだね。それで?兄ちゃんは、これから僕たちと大事な話だね?」

「……はい」

生意気天使にしてやられた俺は、素直に頷いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

みいちゃんといっしょ。

新道 梨果子
ライト文芸
 お父さんとお母さんが離婚して半年。  お父さんが新しい恋人を家に連れて帰ってきた。  みいちゃんと呼んでね、というその派手な女の人は、あからさまにホステスだった。  そうして私、沙希と、みいちゃんとの生活が始まった。  ――ねえ、お父さんがいなくなっても、みいちゃんと私は家族なの? ※ 「小説家になろう」(検索除外中)、「ノベマ!」にも掲載しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

すこやか食堂のゆかいな人々

山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。 母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。 心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。 短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。 そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。 一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。 やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。 じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。

「みえない僕と、きこえない君と」

橘 弥久莉
ライト文芸
 “少しずつ視野が狭くなってゆく”という病を 高校生の時に発症した純一は、多少の生きづらさ を感じながらも、普通の人と同じように日々を 過ごしていた。  ある日の仕事帰り、自転車でのんびりと住宅街 を走っていた時に、ふとした油断から通行人の女性 にぶつかってしまう。慌てて自転車から降り、転ば せてしまった女性の顔を覗き込めば、乱れた髪の 隙間から“補聴器”が見えた。幸い、彼女は軽く膝を 擦りむいただけだったが、責任を感じた純一は名刺 を渡し、彼女を自宅まで送り届ける。 ----もう、会うこともないだろう。  別れ際にそう思った純一の胸は、チクリと痛みを 覚えていたのだけれど……。  見えていた世界を少しずつ失ってゆく苦しみと、 生まれつき音のない世界を生きている苦しみ。  異なる障がいを持つ二人が恋を見つけてゆく、 ハートフルラブストーリー。 ※第4回ほっこり、じんわり大賞  ~涙じんわり賞受賞作品~ ☆温かなご感想や応援、ありがとうございました!  心から感謝いたします。 ※この物語はフィクションです。作中に登場する 人物や団体は実在しません。 ※表紙の画像は友人M.H様から頂いたものを、 本人の許可を得て使用しています。 ※作中の画像は、フリー画像のフォトACから選んだ ものを使用しています。 《参考文献・資料》 ・こころの耳---伝えたい。だからあきらめない。 =早瀬 久美:講談社 ・与えられたこの道で---聴覚障害者として私が 生きた日々=若林静子:吉備人出版 ・難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/196 ・https://koikeganka.com/news/oshirase/sick/4425

アッキーラ・エンサィオ006『彼女が僕のほっぺたを舐めてくれたんだ』

二市アキラ(フタツシ アキラ)
ライト文芸
多元宇宙並行世界の移動中に遭難してしまった訳あり美少年・鯉太郎のアダルトサバイバルゲーム。あるいは変態する変形合体マトリューシカ式エッセイ。(一応、物語としての起承転結はありますが、どこで読んでも楽しめます。)グローリーな万華鏡BLを追体験!てな、はやい話が"男の娘日記"です。

夜食屋ふくろう

森園ことり
ライト文芸
森のはずれで喫茶店『梟(ふくろう)』を営む双子の紅と祭。祖父のお店を受け継いだものの、立地が悪くて潰れかけている。そこで二人は、深夜にお客の家に赴いて夜食を作る『夜食屋ふくろう』をはじめることにした。眠れずに夜食を注文したお客たちの身の上話に耳を傾けながら、おいしい夜食を作る双子たち。また、紅は一年前に姿を消した幼なじみの昴流の身を案じていた……。 (※この作品はエブリスタにも投稿しています)

奴隷市場

北きつね
ライト文芸
 国が少子高齢化対策の目玉として打ち出した政策が奴隷制度の導入だ。  狂った制度である事は間違いないのだが、高齢者が自分を介護させる為に、奴隷を購入する。奴隷も、介護が終われば開放される事になる。そして、住む場所やうまくすれば財産も手に入る。  男は、奴隷市場で1人の少女と出会った。  家族を無くし、親戚からは疎まれて、学校ではいじめに有っていた少女。  男は、少女に惹かれる。入札するなと言われていた、少女に男は入札した。  徐々に明らかになっていく、二人の因果。そして、その先に待ち受けていた事とは・・・。  二人が得た物は、そして失った物は?

処理中です...