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13.私の親友

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そして翌日。


「おはよう、ダリシア!朝からぼんやりしてるけど、また徹夜?研究もいいけど、ほどほどにね」


歯に衣着せぬ言葉で挨拶をしてくるのは、ミル=マーシル子爵令嬢。私の親友で、数少ない魔法研究の理解者の一人だ。彼女はグリーク王国から西のコンバル皇国出身で、孤児だったところをマーシル家のご令嬢に引き取られ、養子になったそうだ。

そのご令嬢、カリン様は、『ファータ・マレッサ』オーナーのレイチェル様と同級生で、とても仲良しだ。そしてもちろん、王妃様や聖女様とも。あの世代の方々は皆さん素晴らしい。『ルピナスシリーズ』と呼ばれる事業計画を、次々に成功させて国を発展させている。


そしてなんと、カリン様の養子は彼女の他に9人もいるのだ。皆それぞれ優秀で、学園を卒業して立派な大人になっている。ミルは末っ子だ。そして、もちろん優秀。

コンバル皇国出の彼女の魔力は少ないが、補って余りある程の頭の回転の良さと発想力がある。


将来はマーシル家の商会で頑張りたいらしく。魔力が少なくても魔法が使える、私の魔法石研究に期待をしてくれているのだ。故国に売り込みたいらしい。


と、まあ、彼女の紹介はこれくらいにして。


「ミル、おはよう。ご期待に添えず申し訳ないけれど、今日は研究のせいでの寝不足ではないのよ…」

「えっ、ダリシアに研究以外でそんなに悩ませるものが?!」

「失礼ねぇ、私にだっていろいろあるんですぅ」

「あはは、そうよね、ごめんごめん」


ぷうっと頬を膨らませた私をツンツンしながら、軽く謝ってくるミル。


「信じてないわね?!」

「そんなことないわ。……アンドレイ殿下のことじゃない?」

「ーーー!」


後半は、周りに聞こえないように囁いてくれたが、私の心臓はバックバクだ。


「なっ、なんでっ、」


「私からすれば、ダリシア分かりやすいし。ダテに長い付き合いじゃないわよ」


ミルがイタズラっぽく笑いながら言う。

この小悪魔な微笑みは、彼女の養母譲りだ。同性でもドキドキしちゃうわ。

そうだ、ミルは異性によくモテる。相談してみよう。


「うん、あの、それでね?相談したいの……その、ことで」

「うんうん。ようやく動き出したのね!何でも聞くわ!」

「ようやく……?」


またもやの不思議な単語に、首を傾げる私。


「細かいことは気にしないで!…学園は人の目があるから、寮に帰ってからの方がいいわよね?」


「そうね。お願い。私の部屋に来てくれる?」

「了解!着替えたらすぐに行くわね」

「ありがとう、ミル」


そこでちょうど始業のチャイムが鳴り、ミルも自分の席に戻る。


誰かに話せるとなったら少し落ち着いて、私は今日の1日をいつも通りに過ごす事ができた。



◇◇◇



「で?何があったの?」


ミルが部屋に来て、私がお茶を出したと同時に切り出される。


「早いわね」

「だって気になって!」

「う、そうなの?そうね、えっと、何から話したらいいかしら……」


この手の話に弱い私が、何から話せばいいものか悩んでいると。


「アンドレイ様に、告白でもされた?」

「!!何で分かるの?!」


ミルにすぐにバレた。なぜかしら。


「まさか、昨日、ファータ・マレッサに…」

「いないわよ!そんな暇じゃないわ!……あのね、アンドレイ様がダリシアにようやく告白したから言うけど、アンドレイ様がダリシアを好きってこと、周りにはバレバレだったからね?」


「………………えーっ?!そうなの?!なっ、なんで?」


私はアンドレイとの日々を思い出す。二人で勝手に城の裏の森に入って怒られ。木登りしては怒られ。私が魔法研究に興味を持ち出して、王妃様と講義をしていたら邪魔をされ。子ども達のお茶会でも、エスコートしてくれたくせに、お転婆だなんだと馬鹿にされ。


「……今、振り返っても、好かれていた記憶は思い出せないわ」


私が顔をしかめて言うと、


「でも、そのお茶会で王子に乗っかってダリシアにちょっかいを出して来た子のこと、盛大に怒ったのよ。覚えてない?」


と、ミルが笑いながら話してくる。


「あったような、気もするけど。いつもがいつもすぎて、記憶が曖昧よ」

「そうねぇ。周りはで、殿下以外がダリシアにちょっかいかけてはいけないんだ!って認識したけど、本人には伝わらないか」


ミルは更に楽しそうだ。


「そういえば、サージュにも似たような事を言われたわ。私をパートナーにして周りを牽制していたから、私に声をかける殿方がいなかったんだ、って。でも、サージュもミルも優しいからそう言ってくれるけど、所詮私は魔法研究にしか興味のない変わり者だし、あまり関係は……」


「ちょっと!ないわけないでしょ?!ああ、もう、やっかみと声を掛けられない僻みと、高嶺の花がごちゃごちゃに相まって、世間のどうしょうもない声が!」


「良くわからないけれど、事実だわ?」


「ったく、アンドレイ殿下がヘタレだから…!」


ギリギリと歯軋りをするように、クッキーを何枚も口に運ぶミル。怒っていても、子爵家仕込みの所作は綺麗だ。そしてそのまま、優雅にお茶を飲み干す。



「いい?ダリシア!私は昔から言ってるけれど、あなたは素敵!その辺のつまらないご令嬢の、何千倍も素敵なの!!」

「あ、ありがとう、ミル。でも、そこら辺のご令嬢って、他の方に失礼だわ」

「今、そこはいいの!!」

「はい!!」


ミルのいつもよりも勝る剣幕に、即答する私。わあん、何だかミルまでこわい~!


「ともかく!知性と美しさと、なんだかんだで侯爵令嬢として振る舞えるダリシアは、王太子妃になることに問題ないと思うわ。…悩んでいるのは、そこじゃないのよね?」


一転、ミルが慈しみの女神様のように微笑んで言う。


私は、泣きそうになるのを堪えながら、堰を切ったように話し出す。

夏休みにお見合いをしたこと。その相手が初恋のルーエン様だったこと。優しくておおらかで、一緒にいて楽しいこと。研究者としても尊敬できて、お互いの研究のいい刺激になること。……でもきっと、ルーエン様からしたら、ただ歳が近いことと、公爵家としての家格の必要性だからだと思っていること。そしてそれを改めて思い知って、何だか落ち込んでしまったこと。でも仕事や研究のことを考えると、良縁だと思っていること。


お見合いが決まった翌日になぜかアンドレイが来て、いつものように悪態をつかれたこと。ただのきょうだいのように気にしているだけだと思っていたら、昨日告白されたこと。それに驚いたけれど、嫌ではなかったこと。

今週末に、王城で改めて話すこと。


全部、話した。


ミルは相づちをうちながら、それを黙って聞いていてくれていた。


「そうかあ、夏休みから急に、いろいろあったのね」

「そうなの。慣れないことばかりで、いっぱいいっぱいなの。昨日二人にも、ルーエン様のことが好きなのか?って聞かれたけれど……分からないとしか言えなくて……ダメだよねぇ、私」


乙女小説のヒロインには憧れた。憧れるけど、やっぱり私には難しいみたいだ。ルーエン様もアンドレイも好きだ。けど、きょうだいではないような好きって、何だろう。


「全然ダメじゃないわよ。うんうん、いいじゃないの、悩んで」

「……解決にならないわ」

「こんなこと、パッと解決できるわけないでしょ!ただひとつ確かなのは、ダリシアの気持ちはダリシアにしか分からないってこと」


確かにそうだ。周りに決めてもらうことではない。


「慌てなくてもいいと思うの。アンドレイ様とも話して、今のアンドレイ様をまずちゃんと見て」

「うん」


「まあ、ギリ間に合うか……チャンスをものにできるかしらね」

ミルがボソッと一人言る。

「何?聞こえなかったわ」

「ううん、何でもないの、一人言。それであとは、そのルーエン様ともきちんと話してみるしかないわよね」

「……うん、うん、そうだよね」


お見合いとはいえ、家同士の婚約話でもあるのだ。このまま婚約するのか、止めるのか、そろそろ決めないといけない。それにルーエン様と私はお見合い段階だから、私が続けたいと言っても、ルーエン様が嫌だと言ったらそれはそれで終わるのよね。


「それはそれで、落ち込みそう」

思わず一人言る。

「また何か考えたわね。まあ、何かあったらその時は、やけ食いに付き合うわよ」

「……ありがとう……」


優しい友人に慰められつつ、私は今週末に二人と会って、きちんと話をして、これからを決めることに決めた。

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