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3.トーマスの回顧録 その1
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初めて会った時から、可愛いらしくて、そして格好いい子だなと思っていた。
セレナ=エレクト侯爵令嬢。
透き通るアメジストの瞳と、ストレートの青紫の髪は、意思の強さを表している様だった。
話をしても、博識で。侯爵令嬢としての矜持を持っていて。背筋が伸びるような心地だったのも覚えている。
8歳でセレナが婚約者に決まった時は、本当に嬉しかった。俺は、彼女の自慢の婚約者になろうと思っていたのだ。
◇◇◇◇◇
ーーー8歳の婚約直後のこと。
「トーマス。セレナと婚約が決まったんだってね?おめでとう」
「エトル。ありがとう。お前も決まったんだろ?リーゼ=レコット嬢に。おめでとう」
恒例のジークフリート殿下たちとの集まりの日。
エトルはそう切り出して来た。
「セレナかわいいし、何でもできるもんね。トーマスもがんばらないとね」
「お?おお」
何か棘のようなものを感じつつも、本当のことだから俺は頷いた。
「だって、リーゼ嬢に光魔法のそようがなければ、ぼくがセレナと婚約したかもしれないしね?」
悪気の無いような笑顔で言われたが、この言葉が、何だかずっと胸の奥に引っ掛かって。
俺も侯爵家嫡男だ。子どもとは言え、政略結婚があるということは、ぼんやりとでも理解していた。
確かに、セレナの相手は俺かエトルの可能性が高かったのも分かる。たまたまリーゼ嬢が見つかったから、エトルが外れただけで。
しかも、ひとつ下にラインハルト殿下もいらっしゃる。
なかなか扱い難い方のようで、まだ俺たちと合流していなかったし、エレクト家もラインハルト殿下ととは考えていないとも思うけれど。
今後は分からないよな。
……でもセレナのあの笑顔が、他に向くなんて、嫌だ。
もし、相手がエトルだったとしても、セレナはあんなに嬉しそうに笑ったのだろうか。
「ま、言ってもしょーがないけどね。そうだ、今日からリーゼ嬢も参加になるんだ。よろしくね」
「……ああ」
人の気持ちを掻き回すだけ掻き回し、エトルは話題を切った。
その後すぐに6人全員揃い、いつもの集いが始まったが、俺は何だか心ここにあらずだった。
「……トーマス。なにかあったの?元気ないわね?エトルともあまりお話しないし。ケンカしたの?」
会の中頃で、こそっとセレナが声をかけてきた。
この気遣いに、頬が緩む。
「してないよ、だいじょうぶ」
「ほんとう?」
セレナが心配してくれただけで、気分が上を向く。我ながら単純だ。
「ほんとう!……ねぇ、セレナはさ、ぼくが婚約者でよかった?それともほんとうは、エトルがよかった?」
セレナが驚いた顔をする。
「なんで?」
「だって……ぼくもエトルも、同じ侯爵家、だし……きっとエトル、魔法、すごいし……」
セレナは一瞬キョトンとして、その後にイタズラっぽい笑顔を浮かべて。
「はずかしいから、みんなにはナイショよ?セレナは前から、優しいトーマスが大すき。おうちとか、魔法とかじゃなくて、トーマスといっしょがいいの」
と、コソコソ話をしてきてくれた。
もう、嬉しくて嬉しくて。でも、恥ずかしくて。
「ぼ、ぼくもセレナが大すき」
真っ赤な顔を下に向けて、ぼそっと言うしか出来なかった。
でも、セレナは嬉しそうに笑ってくれて。
ずっと、この笑顔と一緒だと思っていたのだ。
……今だって、思っているんだ。
自分の、勝手な思い込みと、嫉妬心と、虚栄心と。
下らない事でセレナを振り回すつもりなんて、無かったはずなのに。
ダメな俺は、君を傷つけた。……たくさん。
セレナ=エレクト侯爵令嬢。
透き通るアメジストの瞳と、ストレートの青紫の髪は、意思の強さを表している様だった。
話をしても、博識で。侯爵令嬢としての矜持を持っていて。背筋が伸びるような心地だったのも覚えている。
8歳でセレナが婚約者に決まった時は、本当に嬉しかった。俺は、彼女の自慢の婚約者になろうと思っていたのだ。
◇◇◇◇◇
ーーー8歳の婚約直後のこと。
「トーマス。セレナと婚約が決まったんだってね?おめでとう」
「エトル。ありがとう。お前も決まったんだろ?リーゼ=レコット嬢に。おめでとう」
恒例のジークフリート殿下たちとの集まりの日。
エトルはそう切り出して来た。
「セレナかわいいし、何でもできるもんね。トーマスもがんばらないとね」
「お?おお」
何か棘のようなものを感じつつも、本当のことだから俺は頷いた。
「だって、リーゼ嬢に光魔法のそようがなければ、ぼくがセレナと婚約したかもしれないしね?」
悪気の無いような笑顔で言われたが、この言葉が、何だかずっと胸の奥に引っ掛かって。
俺も侯爵家嫡男だ。子どもとは言え、政略結婚があるということは、ぼんやりとでも理解していた。
確かに、セレナの相手は俺かエトルの可能性が高かったのも分かる。たまたまリーゼ嬢が見つかったから、エトルが外れただけで。
しかも、ひとつ下にラインハルト殿下もいらっしゃる。
なかなか扱い難い方のようで、まだ俺たちと合流していなかったし、エレクト家もラインハルト殿下ととは考えていないとも思うけれど。
今後は分からないよな。
……でもセレナのあの笑顔が、他に向くなんて、嫌だ。
もし、相手がエトルだったとしても、セレナはあんなに嬉しそうに笑ったのだろうか。
「ま、言ってもしょーがないけどね。そうだ、今日からリーゼ嬢も参加になるんだ。よろしくね」
「……ああ」
人の気持ちを掻き回すだけ掻き回し、エトルは話題を切った。
その後すぐに6人全員揃い、いつもの集いが始まったが、俺は何だか心ここにあらずだった。
「……トーマス。なにかあったの?元気ないわね?エトルともあまりお話しないし。ケンカしたの?」
会の中頃で、こそっとセレナが声をかけてきた。
この気遣いに、頬が緩む。
「してないよ、だいじょうぶ」
「ほんとう?」
セレナが心配してくれただけで、気分が上を向く。我ながら単純だ。
「ほんとう!……ねぇ、セレナはさ、ぼくが婚約者でよかった?それともほんとうは、エトルがよかった?」
セレナが驚いた顔をする。
「なんで?」
「だって……ぼくもエトルも、同じ侯爵家、だし……きっとエトル、魔法、すごいし……」
セレナは一瞬キョトンとして、その後にイタズラっぽい笑顔を浮かべて。
「はずかしいから、みんなにはナイショよ?セレナは前から、優しいトーマスが大すき。おうちとか、魔法とかじゃなくて、トーマスといっしょがいいの」
と、コソコソ話をしてきてくれた。
もう、嬉しくて嬉しくて。でも、恥ずかしくて。
「ぼ、ぼくもセレナが大すき」
真っ赤な顔を下に向けて、ぼそっと言うしか出来なかった。
でも、セレナは嬉しそうに笑ってくれて。
ずっと、この笑顔と一緒だと思っていたのだ。
……今だって、思っているんだ。
自分の、勝手な思い込みと、嫉妬心と、虚栄心と。
下らない事でセレナを振り回すつもりなんて、無かったはずなのに。
ダメな俺は、君を傷つけた。……たくさん。
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